階段下は魅惑のパラダイス


階段下は魅惑のパラダイス

※女の子注意
 女の子達のお名前厳重注意


昼休み時間、様々な学年が交差する一階の階段より斜め後ろに座り込む赤・銀・モジャの三人組、部活内では三馬鹿の愛称で親しまれている。

「次。」

「ピンクっしょ?」

「ダンゼン白だろぃ?」

中央に三人は手にした紙幣を置く。

「んじゃ、まーくんは…。」

「溜めんな。」

「水色!!」

とまーくんこと銀色頭の仁王が言った瞬間、彼等の頭上を女子生徒が通過する。

『おお!!』

こっそりとしかしはっきりと胸の内の情熱が吐息になる。

「ブブブブンちゃんっ?!縞パンきたナリ!!」

「…現実にあるンスねぇ。」

「いやあるだろぃ、赤也?グレー×白かよぃ?デュース!!」

察しの良い画面の向こうの皆さんはお気付きだろう、彼等三人は校内でも唯一下が見える階段下に陣取り、有ろう事か女子生徒のスカートの中を賭けていたのだ。

「次は…ナカガウチさんじゃ!!」

銀色頭が嬉しそうに首を伸ばすが赤髪のブブブブンちゃんこと丸井ブン太とモジャ赤也基切原赤也に首根を押さえられて無理矢理しゃがまされる。

「おまんら見るんじゃなかよ?!俺だけの秘密じゃきに。」

集団の中でも大人びいたセクシーな少女へ密かな憧れを寄せる彼もコート上の詐欺師と呼ばれようがまだまだ中学生なのだ。

「黒。」

「丸井先輩もッスか?」

丸井が二枚と切原が三枚紙幣を出す。

「なんで分かったんじゃっ?!」

確認し堪能してから振り返る仁王に丸井と切原が慌てて床に押さえつける。

「声デカイ!!見つかるだろぃ?!」

「こんなの幸村部長に見つかったら、」

「俺のヤガミさんはやっぱり水色かな?」

あ、ガバス懐かしいと言いながら三馬鹿の隣に座るテニス部部長、またの名を神の子。

絶対に知られてはならない秘密遊戯を幸村に見られただけでも命の灯が燃え尽きる寸前だと言うのに、

「精市、そのネタは誰も分からないぞ。」

気配を消して立つ、部内一の長身がノートを捲る音に三馬鹿は死神の鎌が首の中程で停止している心情に見舞わられる。

「どどどどど〜しよ〜ナ〜リ〜?」

「吃りすぎだろぃ、てか腹くくれ!!」

「うばばば〜、一ヶ月外便所の掃除当番で済みますように!!」

外便所、練習試合に来た他校の為の控え室を兼ね、普段は外部活の生徒が使用し、部活毎一ヶ月交代で掃除当番が回ってくるが、如何せん外の化粧室、汚れも臭いも半端無い、特にこの夏場に当たったテニス部は他の部活動からの嫌がらせを受けたとしか思えない。

その外便所の掃除を一ヶ月間受け持った方が良い程にこの神の子と呼ばれる幸村は神の如く無邪気で残酷な一面があるのに、切原は恐れていた。

「因みにガバスと言うのは、」

「柳、黙って。ホラ、丸井。ミオちゃんだよ。」

おー、フリフリ〜と中性的な顔立ちに似合わず堂々と秘密の花園を見上げて喜んでいる。

だが、この男が黙っていなかった。

「幸村くんと言えども、ミオとレンだけは許せない。」

「あ、」

自分より頭一つ違う相手からノートを奪い取り、今正に書き込んだページを破るとそのまま突き返し、破り取った紙片を細かくちぎって背にしていたゴミ箱に捻込んだ。

試合中でも中々見せない真剣な表情に、幸村は蒼髪を揺らして長身の柳を見上げる様に振り返り、二人は顔を見合わせて肩を竦めた。

特に三強と呼ばれる二人の大人の様な態度に面白くない丸井が口を開く前に、

「あばばば〜?!オオカワ先輩来たッス?!どうしよっ?!どうしよっ?!」

先日校門前検査の際に鬼の風紀委員長から助けて貰って以来、何かと視線が行ってしまう先輩だ。

「やっべぇ…、俺が赤く染まりそう…。」

下を向いて鼻を覆う切原に面倒見の良い柳がそっと懐紙を差し出す、当たりが柔らかい様に揉んでいる気配りを忘れない。

「赤也キュンのオオカワちゃんは何色かのう?」

「お、いいんじゃない?俺は好きだな。」

「…鼻血以外のものも出そうなんで勘弁して下さい…。」

仁王と幸村の煽り文句だけ床に踞る切原にそっと微笑む丸井。

「ふむ…、赤也はオオカワ女史がお気に入りとはな。」

後輩の為に一つの取り零しが無い様に詳細なデータを記入する柳はある視線に気付いた。

「…お前ら、何やってんだ?しかも幸村と柳まで…。」

引きつりながら、そして唯一の良識人と言う妙な陰口の通りに階段に背を向けて仲間に近付く褐色の滑らかな頭部。

「ジャッカル、それくれぃ!!」

「…ホラよ。」

早速ジャッカルが持つしゅわしゅわ飴に目を付けた丸井へ投げて寄越す。

それから一人一人に配る所も彼の良い所であり要らぬ苦労をしてしまう所だと、微苦笑を浮かべる柳は歯を磨いたばかりだからとやんわりと飴を断った。

「ぱんつ見てるよ。ジャッカルも見る?」

「……、いや、俺は…。」

あまりにも爽やかな幸村の笑顔にジャッカルは何も言えずに、取り合えず柳の隣で冷たいコンクリートの壁に背中を預けた。

「…柳も、なのか?」

不意に視界に入ってしまった縦書きノートの内容にジャッカルの動きが止まる。

「ふっ、気になる女性の事は生年月日から家族構成、父親の年収まで知りたいだろ?」

「…はぁ…?」

何故一介の中学生が意中の相手の父親の年収まで調べられるのか、恐らくそれは柳が一介の中学生では無い証拠で、一見意味の無いデータも彼には非常に重要な役割を果たしているのかも知れないとジャッカルはソーダ味の飴を初めて口に入れた。

「父親の年収大事だよ〜、ジャッカル?家建てる時の保証人になるから。」

と急に振り返って天使の様に微笑む幸村が眩しくてジャッカルは額を押さえた。

「しかし月プロの幸村特集は笑ったナリ。」

「アレどこで撮影したんだよぃ?」

ガバスを乱舞させる紅白頭、別名3Bコンビが言う月プロは月刊プロテニス、今年入社の芝佐織嬢によってここ数ヶ月は美少年雑誌になってしまった事が一部コアなファンの心を掴み、近年インターネット配信・電子書籍で低迷する出版業界で異例の売り上げを叩き出している。

その中で王者立海大の我が部長、幸村精市その人の特集(誰かが言うチビ助との抱き合わせだが)を組んだ時の話になっていた。

「あぁ、アレ?近くのモデルハウス。俺んち、普通の4LDK二階建て。しかも格安借家。」

とそこでのVサインは意味があるのか、紅白コンビが声を出せない分、腹筋と肩を揺らしている。

それに柳は顎に手を添えて頷き、

「持ち家だと固定資産税やらが関わってくるからな。こう景気停滞が続く、何時解雇の対象となるかと分からない御時世としては身軽な方が良いのかも知れないな。」

と全く以て中学生らしくない事を言い出した柳から最近気になるユウキとワダと書かれた紙片を躊躇いながらも無言で受け取るジャッカルも期待と恍惚に満ちた笑顔で階段から魅惑の楽園を見上げる四人と変わらないのだ。

そして彼は友の為に密かにオノ専用ヤマオキ専用と書かれたノートの存在を見なかった事にした。

「貴様等、そこで何をしておるのだ?」

これまた中学生とは程遠い低音の呆れた声に振り返ると、鬼の風紀委員長こと鉄拳制裁副部長の真田が立っていた。

「真田って学校ジャージ似合わないよね。」

「む?」

今日天気が良いよねの乗りで言われても、元より機微に疎い真田はその真意を図りかねる、尤も幸村は思った事を脳を介さずに声に出す癖があるので真意も他意も無いのだが。

「おや、皆さん、お揃いで。」

次は体育なのか、真田と同じクラスで同じ様にジャージ姿が似合わない柳生もやって来た。

何やら嫌な予感しかしない、あの名を体現する柳生まで加わってはこの先どうなる事やら、こめかみを押さえるジャッカルの肩を叩く柳も分かっているのだろう。

「やーぎゅ?ババちゃんの秘密の花園知りたくなか?」

見事な釣りで肩を叩き忍び笑いをする仁王に一瞥くれてやると、

「スパッツ着用でしたが何か?」

と柳生は眼鏡を押し上げる。

「スパッツぅ〜?は?ナニソレ?」

飴を噛み砕く癖のある丸井はジャッカルにあと三つねだっている。

みっつと言えば、裏の無い優しさで踞る切原に大丈夫?お腹痛いの?声を掛けて来たミッツと言うアダ名の同じクラスに女子に、主に下腹部がはち切れそうに痛いとは言えずに大丈夫と痩せ我慢をしているのも、また青春だろう。

「スパッツの魅力を分からないとは人生の半分は損をしていますよ。」

態とらしく額に手を当て大仰に背を反らして見せる辺りが紳士なのか。

「…スパッツ、いいんじゃね?中見られても困んねぇし。」

ボソリと呟いたジャッカルへ何故か柳生が食い付く。

「そうですよ、桑原君!!スパッツを着用している安心感から気が緩んで開いてしまう脚の間。挟まれたいと思いませんか?見えないスカートの奥の暗闇とコントラストする白い内股に押さえられない情熱が沸き上がるのです。」

留学生ながら日本にいる時間が長いジャッカルはお国柄特有な曖昧な笑いで回答を回避し、代わって柳が愉しげに口の端を吊り上げ、

「隠す美学か。」

「イマジネーションって大事だよね。」

柳の後を取る様に幸村も柔らかく微笑む、この会話と表情が釣り合わないのがテニス部特有の現象らしい。

「しかしだな、いくら制服の下に一枚着用しているとは言え、女子があの様に股を開いて座るのはどうかと思うぞ。」

と風紀委員長も兼ねる真田の視線の先には背の高い女子の一団が出窓に腰を掛けてたり寄り掛かったりと昼の一時を談笑で過ごしている。

「真田は昔からカネちゃんだもんな。趣味筋トレじゃなかた?」

一年の時同じクラスだった幸村が大股開きで中のバスパンが見えてる一番背の高い女子を顎で指した。

「姉御肌じゃけ、尻に敷かれるのう?」

ニヤリと詐欺師に笑われ、真田は腕を組んで目を瞑った。

「あ、でも、俺顔んとこにおっぱいくるからいいかも…。」

八人の中で一番背の低い丸井が新境地を発揮し、それに実はまだ母親に甘えた時もあるが確立した自我と自尊心故に言えない残り七人に妙な敗北感を味わわせていたとは当人は知らずに、

「あ、マッスンだ。」

「俺も見る!!」

思わぬ所で出会った幸村の女神にかじり付く様に見るが、

「ん〜、紺?」

「ぱんつにしてはぴっちりじゃのう?」

形状は確かに下履きなのだが、素材が普段自分達が身に付けるそれとは違う様で、女神の裾野の深淵を覗き見る者達は首を傾げる。

「あ、真田は見るなよ?俺だけのマッスンだから。」

「幸村くん愛してる!!だから俺にも見せて?」

「かわいい子はシェアするナリ。」

幼馴染みとは好きな人が被りたくない幸村はそう敬遠しても返事をする相手が違う。

その三人を見て、

「…たわけが。」

とお決まりの台詞を捨て置き、体育館へ向かって歩き出す真田と、先に失礼すると会釈する柳生。

その時、ふと笑う気配がした。

嘲笑とも取れるその気配に王者を名乗る彼等は反射的にその笑みの主を鋭く睨んだ。

その視線の中心、柳は名の通り風の如く受け流すと、

「次の時間、マスダのクラスは水泳だ。」

一瞬の静寂。

後に一気に上昇する場の温度。

この時、八人は目覚めた。

制服の下にスクール水着もありだと。

反省会
(20110724)
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