どきどき制服検査2
数学のセンセイが急な出張だからって、いきなり英語はないじゃろ?
ここはフツー自習じゃ、ウチのエースなら保健室に直行してるとこじゃが、考査も近いことじゃし、それはできなか。
教科書はいらん言うたが、あの教師のことだから信用なか。
今日は誰んとこが、あったかのうと思ったら、参謀しかいない…。
メールしといたら、朝イチが英語じゃったから、もう使わんと返事があったから、昼休み時間にF組の前まで行った。
「すまんのう、柳。」
「いや、構わないが、仁王が俺を頼るとは珍しいな。」
なんて言われながら、英語の教科書とノートを借りた、辞典はロッカーに置いとる、基本じゃろ?
んじゃ、軽く予習をしときたいから、これでいいかのと思った時じゃった。
「や〜な〜ぎ〜せ〜んぱ〜ぃぃぃ!!」
おー、ドップラー効果?違うか?
赤也が無駄に長い廊下を全速力で走ってきおった。
「若いのう…。」
「一歳しか違わないだろう。」
苦笑する柳の方が十も上に見えるとは言わんとおいてやった。
「柳先輩!!ネクタイ結んで下さい!!」
もう柳の前まで来た赤也がネクタイを突き出した。
「赤也、おまん…。」
二年になってもネクタイ結べんと、本当に大丈夫か?
いや、こいつは最近ちょうちょ結びができるようなったから、ネクタイはあと十年はかかるかものう…。
「全く赤也は手間が掛かる…。」
「スミマセン…。」
小言を言いたそうな口振りでも、顔が笑ってるぜよ、参謀?
ほんに柳は赤也に甘いのう。
「なんぞ今ネクタイ結び直さんといかんのよ?」
「このところ気温が上がったので、服装の乱れが目に余ると急遽服装検査をする事になったのです。」
俺の一人言にいつのまにか後ろに立っていた柳生が答える。
「真田か?」
「いえ、顧問です。」
「…ほーか。」
どっちにせよ、風紀委員は貴重な昼休みを潰されてご苦労なこった。
赤也も無事柳にネクタイを結んでもらえたことじゃし、ウチの子ブタちゃんが待っとるB組に帰るかのというときに、
「切原君。」
「へ?」
珍しい、柳生が赤也に話しかけとる。
「君の場合は少し後ろで止めた方がいいですね。」
「う、え?へ?」
赤也に後ろを向かせるとネクタイを緩めて、襟を立てて、その緩めた部分を軽くつまんで安全ピンで止めおった。
「ほおう?三センチ詰めるだけでこんなに印象が違う物なのか。」
関心したように顎に指を添えた柳に釣られて、赤也を正面から見ると、優等生結びじゃがダランした印象から、キリッとしたカンジに変わっとった。
「赤也、男前になったのう?」
「そーッスか?」
誉めるとすぐ調子に乗りおって、ま、そこも憎めないんじゃが。
「男前にしてくれた柳生に礼を言いんしゃい。」
「いえ、紳士の務めです。」
赤也が口を開く前に柳生は眼鏡を押し上げて止める辺りも紳士じゃのう。
それでも最敬礼する赤也に柳も笑っていた。
いいカンジにまとまったから、そろそろお開きにするかの。
と思ったときじゃ。
「ゆきむらぁぁぁーっ!!」
「あはは〜!!真田のす・け・べぇーっ!!」
目の前を赤也以上に全速疾走で駆け抜けたウチの部長と副部長。
「精市と弦一郎は何をやっているのだ?」
眉を寄せた柳に柳生がまた眼鏡を押し上げながら、
「幸村君がワイシャツの下に何を着てないので、それに真田君が大層心配しているのでしょう。」
ため息をついた。
その時、「幸村、乳首が透けるから下着を着ないかーっ!!」と真田の絶叫が廊下に響いた。
柳と柳生だけでなく、赤也までげんなりした顔をさせた真田は最強じゃな。
それでも笑い続ける幸村はホンマモンな神の子じゃ…。
(20110613)
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