夏の夜店を食い尽くせ


夏の夜店を食い尽くせ



チャリ通だからさ?朝練前に商店街を突っ切ったときに、ほんのーり漂うソースと青のりの匂いが朝ガッツリ食ったけど、なんでか腹が減ったりして。

俺でそうなんだから、朝練前のアップにはこの先輩がうるさいのなんの。

「今日は夜店に行くだろぃ、赤也?」

てご指名ッスか、俺ご指名ッスか?

普通そこジャッカル先輩じゃないンスか?

「ブン太、赤也、死にかけてるし。」

いや、そこ笑ってないで、マジで首入ってますからっ?!

誰だよ、選択体育に柔道とか作ったヤツ?

アンタ、潰すよ?

「ぐっ、ぐるじ…。」

その前に俺の喉潰れそう…。

あー、やべぇ…。

幸村部長がマジに神の子、天使に見えてきたし…。

「丸井、離してあげなよ。」

「あだだだだ〜っ?!」

ふふふってマジに天使みたいな笑顔の幸村部長はガキッて丸井先輩の手首を掴んで、うわーやべぇよ、アレ捻ったんじゃね?幸村部長って見た目と真逆でパワーSだから。うちのクラスの女子とか「幸村先輩がプルタブと引けなくて、それを代わってあげたい。」とかソレないから。ていうか、中身の入ったスチール缶も笑顔で握り潰せるから、いや、マジ、俺見たもん。

「ついでに赤也のスチール缶も潰してあげようか。」

「…いや、い゛い゛ッズ…。」

げぼげぼとむせる俺の襟を掴んで無理矢理視線を合わせる幸村部長、てか俺のスチール缶ってなんすか?

つか、なんだろ?今日遅刻しなかったのに、なんで機嫌悪いんだろ?

「何で俺が機嫌悪いかって顔してるね、赤也?別に機嫌は悪くないよ、個人の感情で可愛い部員に八つ当たりする程俺は自分の立場を弁えていなくはないから。ただ一つ言えるとしたら、登校してる時に真田がいきなり今日の帰りに夜店でも寄らないかとか、嬉しいんだけど、今日に限って学食のランチとジュース代の500円しか持って来てなかったっていう自分に腹が立っているんだ。」

いや、それをやつあた…、

「八つ当たりじゃないよ。」

この暑さを物ともしない爽やかな笑顔に女子ならフォーリンラブなんだろうが、俺にはフォールダウン的な…、

「え?何?いつもお世話になっている幸村部長に恩返ししたいって?そんな、赤也…、君もいつの間にか大人になったんだね。俺は嬉しいよ。それじゃ遠慮なく赤也の言葉に甘えようかな?たこ焼きと冷やしパインとジャガバターに、うーんと、フランクフルトは欠かせないよね、サービス、サービス。」

「……はぁ…。」

早くもじっとりと頭ん中に汗をかいてきた。

部活始める前からこれかよ…。

今日もアホみたいな暑くなんだろうな?

て言うか、幸村部長がフランクフルトでサービスって…、あぁ、アレ?去年の回りの男に奢らせる作戦?いや、でもアンタ、170越えてキツいっしょ?でも神の子だから関係ないか。

グッタリしている俺の前で、

「幸村君かき氷食おうぜぃ、かき氷。」

意外とぴんぴんしてる丸井先輩に幸村部長は少し眉を寄せて、

「あー…、俺、かき氷とか冷たいの苦手でさ。いつも弦一郎と半分こしてた。弦一郎!!俺、メロンがいい!!」

いきなり大声出した幸村部長の先には、柳先輩と何か話し合ってた真田副部長がいて、ちょっと間があってから、

「メロンは昨日食っただろうが。」

この人の場合は素で声がデカイ、隣の柳先輩はあからさまに嫌そうな顔してる、で素でボケてる。

久々に真田副部長の家で晩メシ食ったっていう幸村部長、デザートのメロンがハンマルって言われるメロンを真っ二つに切った物が出たらしい。

これでもビックリなのに、昔は丸々一個出てきて、勝手に食べてねなんて言われたらしい、いや、その前に切ってくれよ。

意外と坊っちゃんと言うか、大雑把な家の真田副部長に、

「かき氷!!かき氷のシロップはメロン!!」

「同じ緑なら宇治金時が良かろう。練乳を掛けても良いぞ。」

言いながら近づく真田副部長に隣を歩く柳先輩、全然同じじゃないってツッコんで下さいよ?!

何苦笑いしてンスか?!

「俺はべっこう飴で良いぞ。」

真田副部長の肩叩く暇あんなら、雲行きが怪しくなった幸村部長の方を…。

「嘗ては貞治と二人でよく食べた物だ。あいつは青が好きでな、何であんな奇抜な色を食べたがるのか、理解に苦しむ。」

と言いながらも笑ってるッスよ、柳先輩?

あの殺人汁の原点はそっか来てんだろうな…。

「焼き鳥、」

ぽつりと呟く声が転がった。

「食いとおよ、やぎゅー…。」

すでに死んでる仁王先輩が審判席の影にうずくまっていた。

「私はおでんがいいですね。こう暑い日が続くと冷たい物を採りがちなのでたまには温かい物で口にしませんと。」

ハンカチで眼鏡の鼻の辺りを拭いてる柳生先輩、眼鏡も暑そうだな、夏だけでもコンタクトにすればいいのに。

「桑原君は何が宜しいですか?」

ぱたぱたとハンカチで首元を仰ぐ柳生先輩は、ボールの入ったカゴを担いだジャッカル先輩を振り返っていた。

「焼きそばか唐揚げかな、どうせブン太に持ってかれんだろうけど。」

「当たり前じゃん?ジャッカルはコーヒー味のかき氷でも食ってろぃ?」

ガムを口の中に放り込んだ丸井先輩、マジ尊敬だわー…、このクソ暑い中よくそんな甘ったるいガム食えるよな?

「コーヒー味のかき氷って、それアイスコーヒーとどう違うのさ?」

だるそうにしながらも、俺を巻き添えにちゃんとストレッチを始めた幸村部長に、

「ミスドの氷コーヒーみたいだな。」

「れ、蓮二…、折れるではないか…。」

柳先輩がミスドって言うとなんか違和感、でもあの人の家族ってミスド好きらしいし、あ、真田副部長の肩から変な音した。

「真田君、歪みが取れたようですね。柳君、私もお願いして貰っても宜しいですか?」

「あの蕎麦の様な物の素揚げで構わないぞ。」

「恐れ入ります。」

恐れ入りますって、柳生先輩?!柳先輩しっかり見返り要求してるじゃないッスか?!しかもソレ整体なンスか?!柳先輩、整体もマスターしちゃったンスか?!

「シャオピンとか、食いとおなー…。」

ついに寝たっ?!コートに寝たよ、仁王先輩?!

「あのニラたっぷり入った焼き餅でしょ?美味しいよねぇ?」

ふふふって笑う美少女と美少年の中間だか両方だか知らないけど、とにかくみんなが思う清らかなイメージを裏切って、幸村部長って餃子大好きだし、焼肉にはおろしニンニクを山ほど入れる。

「赤也は何にするの?」

背中あわせで腕を組んで、俺の背筋を伸ばす為に簡単に俺を背中に乗せた幸村部長のどこが儚げで可憐なんだか。

「俺、お好み焼き食べるッス!!」

今度は幸村部長を背中に伸せてそう答えた。

「今夜は楽しみだね。その前に補講があるけど。」

「げっ?!」

思わず幸村部長を落っことそうになってビビった。

「落としたら、全部赤也の奢りね。」

楽しそうに笑う幸村部長に、俺は冷や汗しか出なかった。

でもたこ焼きくらいは奢ってあげようと思う。

日頃の感謝の気持ちも込めて。

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