どんな甘味も腹に入りゃ、みんなブドウ糖(柳誕)


どんな甘味も腹に入りゃ、みんなブドウ糖


「ブン太。」

耳当たりのいい声に振り返ると、銀色がポーンと俺に落ちてくる。

それをワザとらしく横からキャッチするとチャリッと金属がぶつかる音がした。

開いた手のひらには鍵が3つと、妖精達が夏を騒ぎ出す伝説の衣装のキューピー。

一個は部室の鍵だ。

「俺は何時頃まで赤也に拘束されてば良い?」

そう言ってきた声に顔を上げるとラケットバッグの他にたくさんのプリントを抱えた柳。

相変わらずご多忙なことで、残り二個は生徒会関係で持ってる鍵。

「目標四時だけど、ぶっちゃけなくても赤也次第?」

ガムを膨らませるとそれを興味深そうに見る柳は、

「赤也の努力次第と言う事か、それは確かに責任重大だな。」

よく女が噂する細くて長いエロい指を顎に添えて、もっともらしく言った。

「あいつ中間でギリ赤点なかっただろぃ?幸村君、赤也の担任だが教科担に部活の事で言われたらしくて、かな〜り魔王モードよぃ。」

成績なんて本人の問題だろぃ?

それを部活の部長や練習のせいにすんなんてアホだろぃ?しかも教師が?

ウチの参謀サマが言うにはテニス部を快く思わない一派の教師だかららしいが、ソレ、意味分かんねぇし。

てか、テニス=立海じゃん?

自分で言うのもなんだけどぉ?テニス部目当てで立海受験する奴だっているんだしぃ?ちょっとはぁ、優しくしてくれもよくね?

ぶっちゃけ、入学金=センセーのボーナスとか都市伝説ならぬ学校伝説だよな?

公立の友達に私立コワイとか言われてんだぜぃ?

「来年の事を考えて、赤也には是非全国の舞台に立たせたいからな。いざとなったら奥の手を使う。」

と抱えたファイルを指先で叩くから、俺は思わず口笛を吹いた。

マジかよぃ?

「念の為、三時五十五分にメールをしよう、こちらの進行状況を。」

ニヒルな感じに笑うのもサマになるよぃ、どっかのかっこつけのペテン師とちがって。

「ま、俺は赤也の可能性に賭けとくよぃ。」

そう言って柳に手を振ったら、目は口ほどに言うってことわざ通りに、意外だと無言で主張するみたいに目一杯目を見開いた。

けっこうきれいな、鳶色って言ったかな?幸村君が、瞳の色がきれいだ。

あんま、つーか全く態度に出さないけど、やっぱ目が細いの気にしてるし、意外だけど。

でも冷静沈着な参謀サマだから滅多に菩薩サマみたいな表情が崩れないから、みんなが知らない柳を俺らテニス部だけが知ってるって、なんか優越感だろぃ?

「今日、柳の誕生日だし、赤也だってたまには本気出すだろぃ?」

ピストルの形の指を柳に向けると、また苦笑して、

「数々の奇跡を起こして来たからな。そうだな、俺は誕生日に賭けてみるか。」

「だろぃ?」

お互い軽く手をあげて背を向けた、ドラマなら超いい感じのところへ地面にへばりつくデカいゲジゲジ。

「ブンちゃん、いつから参謀から名前呼び?」

恨めしそうに見上げるだけじゃなくてしゃべるらしい。

「俺というカレシがいながら柳キュンもなんて、ブンちゃんの浮気者!!」

「キモウザ。」

誰だ?におーくんカッカイイ(はーと)とか学校掲示板にカキコしてんの?自演じゃね?

こいつがカッコいいなんてな、イリュージョンしてるときだけなんだよぃ。

「意外じゃ。」

俺が相手しないと分かると仁王は立ち上がって、俺の隣になるように大股で近づいてきた。

「何が?」

ムカつく、足長ぇな、身長差かよぃ。

「丸井はともかく、柳が丸井を名前呼びってのがのぅ…。」

理解できねぇーって顔してる仁王はムリねぇか?

参謀と詐欺師で表面上は気があうけど、深いとこは真逆だしな、どう違うかは分かんねぇけどよぃ?

「…俺も意外。」

いやぁ、さぁ?

ぶっちゃけ、柳と話せるようになると思わなかったし。

一年のときなんか、挨拶はするけど俺から用あって話しかけなきゃ、話すこともなかったし。

二年にレギュラーになっても、練習のこと以外は話さなかったし。

好きなものとか趣味とかが掠りもしないくらい全く違うものばっかだし。

自慢じゃないが誰とでも抵抗なく話せる俺でも最初は柳は取っつきにくかった。

まだ幸村君の友達で風紀やってた真田が怖かったけどいじりやすかった。

その幸村君はゴーイング・マイ・ウェイで来る者拒まず、去る者追わずの徹底した性格がすんげぇ好きでつるんでる。

もちろん幸村君のテニスは尊敬してる、仁王に信仰って笑われたけど、否定できないとこもあるから、ぽーくびっつって机に掘っておいた。

そのぽーくびっつ仁王は……、言いたくないが初めて見たとき、あんまり銀髪がきれいで友達になりたくて、シャイな仁王に俺から一所懸命話しかけたとか。

やべっ、仁王の本性知った今じゃ、俺の封印したい過去だ。

一見苦手な優等生面してる柳生だけど、仁王経由で話し始めたけど、フツーに萌え語りするし。

ジャッカルは最初から俺のお気に入り。

赤也は入部したときから三強にケンカふっかけて、マジハラハラするから成り行きで面倒見るようになって、ジャッカルが。

「…てか、きっかけは、赤也なんだと思う。」

「…あぁ、」

いつもの炭酸が抜けたみたいな返事をする仁王はそっから五歩は無言のいらない溜めをして、

「柳は、人付き合いは上手い、友達作りに苦手意識持っとるからのう。」

幼馴染みのことがあるんじゃろ、て呟いたとこは聞かなかったことにした。

幼馴染みは幼馴染み。

俺らは俺らだろぃ?

小学生と中学生じゃ、大分強くなってるって。

もっと本音で踏み込んでも、そう簡単に泣いたり、怒って絶好なんて言わないだろぃ?

あいつが笑顔で優しくするのは、誰かのいい人以上になって、クラス替わって話さなくなったり、卒業して離れ離れになったときに自分が傷つかないようになんだろうなぁ…。

「でも赤也はかわいくてしかたねぇってやつか。」

「からかいがいも成長のしがいもあるからの。」

俺のポケットからパクッたガムを口に入れたのは見なかったことにしてやった。

赤也って、なんつーか、弟体質っての?そんなのが出てんだよな。

俺にチビ二人いるから、赤也は一個下だけど、小学校低学年くらいにしか思えねぇし、そんくらい手間かかるし、手間かけてやんなきゃなんねぇ気にさせるし。

逆に末っ子の柳や真田なんかは兄ちゃんになった気分にさせるんだろうな、先輩じゃなくて兄貴ぶりたいみたいな感じに世話したくてたまんないって。

赤也本人は末っ子だから甘え上手で、真田にしこたま怒られても、すぐに許してもらってやんの。

俺なんて真田に鉄拳食らったあとは2〜3日口きいてもらえなかったし。

んでよく俺や仁王が赤也に甘いって言われるけど、それよりもベタ甘なのは柳だし。

弟どころかカノジョにだって、そんなに世話しないだろぃ?てか俺はカノジョに甘えたい派、いないけど、いたことないけど。

赤也は赤也で柳みたいなカノジョじゃなきゃイヤとか、そしたらお前、オカンみたいな熟女としか付き合うしかないじゃん。

その前に赤也のカノジョは柳が吟味しそう、赤也のオカンが柳か?

「あー…、俺、柳がまともにカノジョできんのか心配になってきた。」

どうしようもなくなったらやると言ってた教科担から期末テストの予想問題を奥の手でゲットしたみてぇだし。

「ウチがいるじゃろっ?!それなのにブンちゃんは柳キュンがいいとか信じられないんですけど!!」

「もう迷いはない。」
幸村君を意識してみた、最近マーサになる仁王がウザキモくてたまらない今日のこの頃。

「俺、柳に全てを委ねるよ。」

似てね?似てね?幸村君言いそうじゃね?

「辞めた方がいいよ。あとそれ俺とか言ったらアレを柳に言うよ。」

「ギャァーっ?!幸村君。」

「聞いて、幸村キュン!!ブンちゃんったら、」

「聞いてやるから誕生会の準備をするよ。てかどうせ柳に気付かれたんだろ?」

俺と仁王の襟首を掴んで部室へ強制連行する幸村君はかなりご機嫌がナナメだ。

「それより、柳も丸井も赤也に甘すぎだから、いつまでたっても赤也が一人立ちできないんだよ。」

「は?!俺は違うだろぃ?!」

ため息をつく幸村君に断固抗議する、俺は赤也を思って崖から落としてるのに、

「いや、柳といい勝負ぜよ。」

またこのぽーくびっつが余計なことをいいやがる。

「いやいや柳の方が、」

「丸井。」

幸村君に睨まれ、仁王に笑われながら、俺は柳とは違うと心の中で主張した。

あんなに知的で大人じゃねぇしよぃ、お釈迦様の手のひらで赤也を遊ばすくらいの広い心でもないし。

そんな奴が今日15になったばっかりとか、天は二物を与えすぎだろぃ?

(20110604)

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