部員に愛を 神の子に祝福を
ぶっちゃけ、俺は幸村のことをよく知らねぇ。
テニスが強くて。
絵が上手くて。
花が好き。
それくらいか?
同じクラスどこか、選択教科もカブらねぇし、家も反対方向、部活以外で会うこともねぇ。
その部活でもレギュラー入りしてから、ブン太か赤也を挟んででしか話したことねぇ…。
幸村が苦手とかじゃなくて、なんつーんだろ?
テニスもすごくて人間もできてるっつーのか、スゲェ尊敬してるから、俺みたいなのが気軽に話しかけていいのかっていう…チューチョ?(漢字テストであったな)っつーのがあって、まぁ、なんつーか…。
俺から話しかけることがねぇなんだなぁ…。
でも、幸村は、俺も仲間だって言ってくれて、まだブン太とダブルス組む前、シングルスでウダウダしてたときも、何言われたか忘れたけど、幸村らしく崖っぷちギリギリを思いっきり背中押されて突き落とされて、(ぜってぇレギュラーになってやる!!)っつって、死ぬ気で頑張って先輩からレギュラーをブン取った。
俺がレギュラー入りしたあと、「ジャッカルならここまで来れると信じていたよ。」っつって、初めて見た笑顔は、マジに教会に飾ってあった天使みたいだと思った。
幼なじみの真田もそうらしいけど、柳も、比呂士も仁王もブン太も赤也も、みんな幸村から刺激されて、強くなるって毎日の練習を頑張っている。
ブン太や赤也がダルがる基礎トレや、柳や仁王がめんどがる紅白試合だって、文句は言ってもちゃんとやってるし。
やっぱ、幸村からいるからなんだろうな。
立海に幸村がいることがみんなの支えで、みんなは幸村を目指すことで幸村の支えになろうとしてんだよな。
俺もその一人だけどよ。
でも、幸村に勝てるかと言われたら、ノーだな。
勝ちたい、一度は勝ってみたい。
まだそこまで決めてねぇけど、もしプロになれなくても、卒業するまでには幸村に勝ちたいと思う。
きっとみんなそうだ。
だけど、どんなに練習しても試合の経験の積んでも、追い付けないのが幸村って奴で。
俺らが幸村の場所を目標にしても、その幸村は俺らよりももっと遠くて高い場所を目標してるから、ぜってぇに追い付けねぇ神さまみたいな奴なんだと思う。
そんな奴に。
何を贈ったら喜ぶんだろう?
もっかい言うが、俺は幸村をあんまり知らねぇ。
同じテニス部だから、テニスに関する物でも贈ればいいけど、真田と柳が贈るみたいなこと言ってたし。
ブン太はケーキを作るって言ってた、仁王は昔のおもちゃで幸村が好きそうなの見つけたって、比呂士は参考書にするって、赤也は予算と悩んでるみてぇだけど、きっと幸村が喜ぶ物を見つけてくるんだろうな。
(ホント、何がいいんだろうな…。)
幸村からもらうばっかで、返すことができねぇなんて、情けねぇ…。
仲間だって言ってくれた幸村に、俺はホントに仲間らしいことしてやれてんのかな?
俺がいてもいいんだろうか?
ホントは、ここは別な奴がいるのが正しいんじゃないだろうか?
ラケバの中には一応選んだ幸村のプレゼントが入っている。
なんつーか、恥ずかしい話、渡す勇気がねぇ…。
女子かよってブン太にでも笑われそうだが、マジで幸村を思うからこそ渡せねぇんだよ、ちょっとだけ幸村が好きな女子の気持ちが分かった。
マジだから、受け取ってもらえなかったときのショックがデカいんだろうな。
物は小さいし、誰かのプレゼントに紛れて渡しちまおう。
それがベストだ。
やっと顔を上げて、学校への道をまっすぐ見る。
次の角を曲がれば、正門が見えてくる。
「おはよう、ジャッカル。」
「うぉっ?!」
いきなり真後ろから声をかけられてビビッた。
「やだなぁ、朝からお化けを見る顔しないてよ。」
って、ふふって笑う幸村、こうしてりゃ、女子たちが騒ぐみたいに天使みてぇだ、美少年ってやつか?
「ジャッカル?」
「…お、おう、オハヨー…。」
ニコニコと笑いながら威圧というかオーラを出す幸村に逆らう気もなく、おはようと返した。
なんか今日はやたら機嫌がいいな、誕生日だからか?
この調子で誕生日だからって、また無茶振りしなきや、
「ジャッカル、手を出して。」
キターっ?!
やっぱ神の子、もうなんか企んでいたっ?!
素直に手を出すのが怖いが、出さなきゃ出さないでもっと怖いことになる。
ここはなにも考えないで、言われた通りにするのが一番だ。
「…こう、か?」
幸村の前に、手のひらを上にして出すと、幸村はさっきよりにっこりした。
(なっ、なんだ〜?!)
前に手を出せって言われて素直に出したら、ミミズを乗せられたことがあった。
触れないなんてことはねぇが、手のひらでバタバタ体を動かすミミズがかわいそうで、どうしたらいいかすんげぇ迷ったっけ…。
今回もそのパターンか?
「ハイ、これ。逆誕生日プレゼント。」
「は?逆?プレゼント?」
笑顔の幸村が初めて聞く言葉を言った、全く意味の想像がつかねぇ。
「ホラ、柳生が自分の誕生日にクッキー作って、みんなに配ったでしょ。それをパクッてみた。」
サラッと言う幸村に、そう言や、比呂士からコーヒー味のクッキーもらったなって思い出した。
比呂士の誕生日には向こうで流行ってたSFっぽいマンガをあげたな、いとこから送ってもらって。
日本は誕生日プレゼントも返すくらい律儀な習慣があるのかと思った、香典返しもあるし。
そう考えながら幸村に渡された水色の封筒みたいなのを見た。
なにが入ってんだろう?
「通販で買った幸せの種。」
「は…?」
幸村が他人の考えてることを読めるのには慣れた、つーか、幸せの種って…、しかも通販とか…。
あやしい…。
「なんてただの花の種だけどね。何種類か混ぜてるみたいで、俺もどんな花で何色の花が咲くか分からないんだ。」
「そうか…。」
幸村も知らない花、ってのはないだろうから、なんの花が咲くは蒔いてみてのお楽しみってやつか?
なにげなく封筒を透かしてみたら、
「花が咲いたら教えてね。と言うか、育て方とかなんかトラブルがあったら、いつでも俺に聞きに来てよ。」
「…いいのかよ?」
透けない水色を頭の上にかざしたまま幸村を見たら、幸村はとても嬉しそうに笑って、
「俺、自分勝手で言いたいことばっかり言うから、とっつきにくいって思われてるじゃん?」
「いや、そうじゃねぇよ。」
幸村って自分のことをそう思ってたのか…。
なんか意外だな。
「部長だから部をまとめるために多少強引なとこもなきゃなんねぇし、相手に気付かせるにははっきり言うのも優しさだと思う。」
同じレギュラーでもちょっと離れたとこから見ていたから分かる。
俺も幸村に助けられたから分かる。
それなのに幸村は消えそうな笑顔をした。
「優しいっていうのは、ジャッカルのことを言うんだよ。」
「いや、俺は…。」
「ジャッカルの純粋な優しさはさ、癒しだよ。俺も何度も癒された。」
…超照れくせぇ。
なんでそんなことをサラッと言えんだよ。
「だからさ、今度は俺もジャッカルを癒してやろうかと。」
「あはは、その気持ちだけで充分だよ。」
癒しってか、幸村には助けられてばっかだからな。
そんな風に言ってくれるだけ、ホント、ありがてぇよ。
「と言う大層なことじゃなくって。この花をきっかけにもっとジャッカルとも話がしたくてさ。」
「…マジ?」
春風みたいにふわりと笑った幸村に見とれそうになった。
マジに幸村はなに言ってんだ?
「ジャッカルと俺ってクラスも一緒になったことないし、選択もちがうし、部活以外で話したことってあんまないだろう?」
「あぁ、そうだな。」
プレゼント選びのときから、ずぅっと考えてたことを幸村から言われた。
「部長も二年に譲って高校上がるまで時間もあるし。テニスも大事だけど、それと一緒にみんなと仲良くなろうかと考えてさ。」
「それで、花か?」
部長辞めるまで幸村は頑張り過ぎてた。
そのせいか、少しみんなと距離があった気がしてた。
「そ。種を配って花が咲いたら教えろって言えばみんな必死で育てるだろ?」
「まぁな。」
そこは自分のことをよく分かってる幸村らしい言い方に笑ってしまった。
「花は俺の得意分野、わかんなかったらみんな俺に聞きに来る。自然と話す機会が増える、仲良くなる。どう、天才的ぃ?」
右手でピストルを作って俺に撃ってきながら、ブン太のマネをした幸村は、間違いなく俺らと同じ中学生だった。
「幸村にはぜってぇ敵わねぇな。」
「俺に勝とうなんて百年早いわ!!」
「おもしれぇくらい似てねぇ。」
今度は真田っぽい口調に幸村の頭を軽く小突いた。
「ジャッカルのくせに生意気な。」
「まぁ、そう怒るなって。これやるからよ。」
俺は水色の封筒をしまうついでに、ラケバに入れてた包みを幸村に渡した。
「誕生日おめでとう、幸村。」
「って、それ俺のセリフっ?!」
決め台詞じゃねぇかよっ?!
一番おいしいとこ持ってかれたし。
つーか、ニヤッと笑う幸村にはマジ敵わねぇな。
ま、とにかく誕生日おめでとう。
高校入ってもよろしくな。
(20110305)
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