幸村精市のいい湯だな〜後編


幸村精市のいい湯だな〜後編


番台前でぐずぐずしている俺達を置いて、当のジャッカルはさっさとお金をおいて、要領の良い柳生と一緒に場所取りをして、とっくに服を脱ぎ始めていた。

むしろなんであのふたりが優等生やいいひとに見られるんだか、スルースキル高いだけじゃん?

で、俺もラケバから財布を抜き取って鍵付きのロッカーに突っ込み、そのままブレザーやらネクタイを投げ入れた。

隣で柳が「皺になるぞ。」って言いながら、俺が脱いだブレザーを畳んでいた、うちの母さんより細やかな気遣いをする奴。

その柳の隣で、真田が赤也に、

「服はちゃんと畳むのだぞ。」

って…、俺、赤也と同じレベルだ。

ま、一個しか違わないし、そんなもんじゃない?

しかし、いつも俺達の上を行くのが赤也。

「ちゃんと畳んだら、帰りにアイス買ってくれるッスか?」

ぶっ、「真田ふくぶちょーは俺の理想の親父なンス!!」って言ってるけど、おまっ、まじに親父扱いだって?柳も笑ってるし。

「中でも大人しくしていたらな。」

って真田も言っちゃうから、年齢詐称に妻子持ち疑惑が尽きないんだよ。

しかし、この時、王者立海ともあろう俺達はミスを犯していた。

「ぼんず、良い親父さん持ったの。あんたも若いのに中々しっかりしとる。」

ていつの間にか椅子にちょこんと座っていたじいちゃん(六角中のオジィの友達を想像していただければ)がそう言うから、真田以外爆笑。

おかみさんも涙を吹きながら、

「爺さん、ヤキがまわったな。どう見ても中学生だろうが。」

てか、おかみさんのその発言に(ナニィッ?!)だ、さすが番台に座って五十年、性別どころか(俺違うから)、年齢まで当てるとは、世界は広いね。侮れないよ。

中に入ると、いきなり先客の皆さんに股間、いやここはきれいに神の子と言おう、ガン見された。

顔見て、神の子見て、顔見て、あ、今胸見た奴、お前はおっぱい星人か、とりあえず、全員イップスの方向で。

これでしばらくはここは立海の部室なので、ジャッカルがはりきってLet's銭湯講座を開いてくれた。

日本大好きのパパンの影響でジャッカルも日本文化詳しいよなぁ。

回って来た石鹸をタオルで泡立てていたら、また丸切がはしゃいで騒いでた。

丸井にはジャッカルがインストラクターで抜けるので珍しく柳生が、赤也には真田と柳が二人掛かり、先に体を洗ってあげてた。

…赤也、俺達の後をお前が王者立海を背負っていくかと思うと、俺、若干不安になってきたよ。

急にサウナから人が慌てて出てきたなと思ったら、仁王がいない?

その後真っ赤な顔の仁王が出てきて、ぐてぇーっと水風呂に入った。

暑いの苦手なのになんでサウナなんかに入ったんだよ?

しかも仁王の髪の色と目付きの悪さプラス無駄に鍛えてるから、職業勘違いした人がサウナどころか浴室からも出て行ってるし。もしかして営業妨害になってる?

「仁王、元気出せよ。」

金冷法って本当に効くのかな?って思いながら仁王の隣に入ったら、

「体を冷やすな。」

てなんだそれ?俺はいつまでも病人じゃないし?

真田に怒られて、ムカついたから水風呂から水鉄砲をしたら、

「幸村!!人の上に立つ者が自ら規律を乱すとは何だ?!」

てまた怒られましたけど、後ろで柳が耳塞いでますけど、浴室で真田の声が超響くんですけど。

次は両手で冷水掛けてやろうと思ったが、

「精市。」

その前に柳に注意されちゃったから、

「今日真田の家に泊まるから。」

「む…、家に連絡を入れるのだぞ。」

それで真田が納得したら、俺も妥協して丸井と赤也のいる温い湯に移った。

無邪気にキャッキャッはしゃぐ丸切に、ゆっくり浸かる柳と柳生、多分図書館の新刊の話をしているのかな?

熱い湯にじっくり浸かる真田は目を閉じて腕組み(多分瞑想中、次に書く四字熟語とか考えてんだろうな)、頭に手拭いを乗せたジャッカルはサブちゃんあたりレゲエ調の鼻唄で歌っている。

(え?!サブちゃんをレゲエ?!)

て髪を洗っていたら突然思い返した。

聞いた時はなんとも思わなかったけど、んー、今はジョージのみちのくひとり旅がラップになってる…、グローバル社会に対応してる。

だったら機嫌が良いと山崎ハコを歌い出す仁王はどこだ探したら、奴はとっくに上がってラムネを飲んでた、もう服も着てた。

「いい加減にせんかっ?!他のお客さんに迷惑だろうが!!」

またもや響いた真田の声に、お前の声が迷惑と言えなずに拳骨を食らった丸切は渋々泣き泣き浴槽から上がって、頭を洗ったり、もう一度体を洗ってもらったりって、お前ら中学生、真田が生まれた応仁だったら元服して妻もいる頃だから。

丸井に甘いジャッカルを見て、赤也も柳に甘えようとしたけど、親父に「アイスを買ってやらんぞ。」と言われて、渋々ひとりで頭を洗うって…。

(…やっぱ、赤也は部長にしない方向で。)

悲愴な決意した俺の後ろで要領良いんだが意外に自己中な柳生は「お先しますね。」なんてもう上がっているし。

なんか俺ばっかこのメンツだから問題起こさないようにってハラハラするのがバカらしくなってきて、どうせ銭湯に来たんだからサウナや温い湯熱い湯に入って全種類制覇をする事にした。

途中知らないおじいちゃんと、この辺の昔の事とかを聞けたりして(あのおかみさんも「銭湯小町」で名の通った美人だったとか)、長湯しちゃって気付いたら俺が最後だった。

それに足湯をしながら待っていてくれた柳、優しいっていうか、こいつの方こそ女性的じゃないか?一部じゃなくて前まで隠す仕草ってか、手付きが?ホラ、おじいちゃんだって「弁天様」とか言って拝んでるし。柳は複雑な顔してるけどね。

上がり湯を掛けて、脱衣場に繋がるドアを開けたら、何やら不穏な空気、頼むから校外で問題を起こさないでくれ。

「みんな何をやっているんだい?」

「大方丸井が赤也の地雷を踏んだのだろう。」

確かに詐欺師コンビ以外は下半身丸出しだ。

…ナニについて揉めてたかよく分かったよ…。

柳の言葉に丸井が口を開き掛けた時、

「うるさい餓鬼どもだね。何がどうだろうがお前らは所詮中学生レベルなんだよ。もう二度と来るんじゃないよ。」

ってな感じにそこの銭湯は立海生出禁になりました。

制服や部活ジャージとかで行っちゃダメだね?の見本のお話。

[←戻る].


- ナノ -