切原赤也のサンタクロース実在論


切原赤也のサンタクロース実在論


今年もやってきました、この季節!!

「赤也ー?お前サンタさんにナニお願いしたんだよぃ?」

着替えてたら丸井先輩が珍しく板ガムをくわえてた。

「赤也の事じゃ、新しいゲームかハードだろぃ?」

「いちっ?!」

ぱちんと仁王先輩が輪ゴムを飛ばしてきた、てか割り箸鉄砲って…。

「言えてるC〜。」


「ブンちゃんちがう。言えてるC〜。おけ?」

「おう、言えてるC〜?」

「…紅白バカ。」

俺のグチは聞こえてないみたいで柳生先輩まで氷帝のジロ語講座に参加してた、エセ紳士。

ていうか、みんな酷い…。

俺がサンタさんにお願いするのは決まってるんだ。

「赤也のサンタはいつも赤也の欲しい物を贈ってくれるのか?」

学期末もあって備品のチェックをしていた柳先輩がバインダーから顔を上げて、俺に声を掛けてくれた。

「当然だろぃ?サンタなんて赤也のブグッ?!」

「丸井君、この葬式饅頭美味しいでしょう?評判なんですよ。」

「おー、クリスマスに向けて出荷間近じゃ。」

またサンタさんは自分たちの親だっていう丸井先輩の口に、柳生先輩がどっかから出した饅頭をぶち込んだ、この人、コートの中の紳士だから。

柳先輩も一瞬開眼したくらいだ、でもすぐに俺にさっきの質問をするようにって視線を移した。

「今年は新しいシューズをお願いしたッス!!」

今履いてるの、ちょっと爪先がぱかってなってるから、柳先輩が早く交換しろってうるさい。

でも俺はサンタさんが新しいシューズをくれると信じてるから、クリスマスまで今のシューズを履くことにした。

「……、なンスか、そのノーリア加減…。」

人に散々ふっといて、ボケ殺し的な扱い、一個下だからってあんまガキ扱いすんなよな!!

「いや、なんつーか…?」

「のぅ、やぎゅ…?」

「失礼だと思っていますが、正直普段の切原君とは程遠い答えだったもので。」

ぜってぇ失礼とか思ってないよ、この人。

「赤也は毎年テニス関連をお願いするのか?」

「…ッス。」

さすが柳先輩!!

俺の頭を撫でてくれながら、話を広げてくれる。

ぶっちゃけ、柳先輩以外先輩って認めてませんから!!

あ、幸村部長は第2の姉ちゃん(と書いて魔王と読む)で、真田副部長は親父ッスから!!

ブタとちょろ毛と、通行人Aと、ジャッカル先輩はお兄ちゃんって感じ。

で、サンタさんの話。

「だって、サンタさんが俺にテニスを教えてくれたンスから!!」

って俺的には超笑顔だったのに、柳先輩以外ノーリア、いや、柳先輩は表情を隠すのがうまいから意外とフリーズ中かも。

「フィンランドって、テニスコートあんのかよぃ…?」

「…そりゃ、あるじゃろう?」

「サンタクロース組合か何かの福利厚生施設とかに…。」

いや、そうじゃないから!!

「三才のときのクリスマスプレゼントが、有名選手のエキシビションマッチの観戦チケットだったンスよ!!」

あのときはまだ野球が大好きで、将来はプロ野球選手、もちろん横浜に入団して、4番になって、年棒は億単位、いつかメジャーなんて思ってた。

でも興味もなかった、てか知らなかったテニスっていうスポーツの、チケットがあるからだけで行ったその試合に、いっぺんに俺はテニスが好きになった。

いや、テニスが一番になった。

寝てても起きてても、あの広いコートにたった一人で立つ大きな背中が忘れられない。

体全部を使ったダイナミックなサーブ。

ラケットを振ると飛び散った汗がライトで輝いて、星がキラキラしてるみたいで。

辛くても、怖くても、それを乗り越えて立ち向かう横顔。

試合終了後の大歓声。

その全部ががきんちょだった俺に衝撃で、テニスが俺を呼んでるって思った。

次は俺があのコートに立たなきゃって思った。

それからすぐに親にお願いしまくって、スクールに通った。

次の年のクリスマスプレゼントにはリストバンドとタオルだった。

その次の年は、ああ、その年も新しいシューズを下さいって、心の中でしかお願いしてなかったのに、ちゃんと新しいシューズが枕元にあったっけ?

それでテニスをはじめて3年回のクリスマスには、今度はサンタさんから手紙をもらった。

テニスは楽しいですかって。

幼稚園でけんかしたり、いじわるしたりしてませんか?

おうちのお手伝いをちゃんとしてますかって。

俺の字よりも汚いのに、ちゃんと心のこもった大事な大事な手紙。

捨てないで、アルバムに挟んでる。

試合で負けて泣いたとか。

友達に追い越されて悔しかったとか。

仲直りできなくて寂しいとか。

勉強大変とか。

母さんや姉ちゃんとうまくいかないとか。

その辛いときには、サンタさんの手紙を読む。

サンタさんはサンタさんだから、俺のことをなんでも知ってる。

俺が思ういいこになれるコツを教えてくれる。

ほんのちょっとの心がけなんだって。

サンタさんはすごい。

サンタさんの言う通りだ。

テニスも、学校も、勉強も、辛くても、苦しくても、サンタのヒントを思い出せば、なんとかできそうな気がする。

本当にサンタはすごいと思う。

いっぱい、いっぱい、言えないくらいにサンタに感謝してる。

でも、一番感謝してることはテニスを教えてくれたことかな?

じゃなきゃ、先輩たちに会えなかったンスから。

「だから、俺はサンタさんにはテニスのことしかお願いしないッス。」

俺が言い終わるとやっぱりノーリアクションで俺を見ていた。

あー、やだやだ。

一個上なだけでこうも汚れた大人になっちゃうなんて。

そんなんだから、先輩たちにはサンタさん来ないんだよ。

「…あっかや〜っ!!」

「うげっ?!」

いきなり赤い豚が飛び付いてきた。

「かぁいいのぅ、俺の弟は。」

「いえ、私のですよ。」

今度は詐欺師コンビに前後で抱き締められた、あんたら、自分の腕力考えて下さい、てかこのふたりの弟はなんかヤだ!!

「あれ〜?なんか楽しそうな事してるね?」

「おしくらまんじゅうって奴か?」

コートの点検に幸村部長とジャッカル先輩が帰ってきて、

「実際にやってみるか?」

なんて柳先輩が言うから、

「やるやる〜!!お〜い!!真田!!早く!!早く!!」

ってこういうバカみたいな遊びが大好きな幸村部長が部室の中で大声を出した。

「何事だ、幸村?」

で素で地声のデカイ真田副部長までやってきて、

「赤也中心にしておしくらまんじゅうだってよぃ。」

「アンタ、潰すぞ?」

「残念ですが似てません。」

丸井先輩がケツ向けて押し始めて、それに俺の真似した仁王先輩はばっさり柳生先輩に似てないって言われて、

「今度は懐かしい遊びシリーズに凝っているのか?」

「ん〜、そんな感じ。ま、いいじゃない。」

なんだか分かってない真田副部長に答えた幸村部長も分かってない。

「おしくらまんじゅう、おされてなくな。」

急に歌い出した柳先輩に3Bが笑い出して、

「それが掛け声か?」

ってジャッカル先輩が聞いてる。

「つか、俺!!マジ息ヤバインスけどっ?!」

先輩たちの中心にされて身長も体力も加減もめちゃくちゃで圧死しそうだ。

「つか?!髪つかんだの誰ッスかっ?!」

「煮えたかどうか食べてみよ〜。」

「ワカメ汁〜、ホッホー。」

「なんですか、それは?」

「また新しい掛け声かっ?!」

「鶴亀か?」

「まるくなったでしょ。」

「正式名は忘れてしまったがな。」


すんごいもみくちゃにされて、部活より汗だくになったけど、すんごい楽しかった。

ムカつくけど、バカだけど、やっぱり先輩たちといるのが楽しい。

その先輩たちに出会えるために、テニスをやってよかった。

そのテニスを教えてくれたサンタさんにお礼をいわなきゃ。

でもサンタさんは見えないから、代わりに先輩たちに言ってあげるッス。

「メリークリスマス!!」

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