勝ち組なんて弱者の幻想だ


勝ち組なんて弱者の幻想だ



「ウッソっ?!お前、別れたのっ?!」

帰りのSHR終了後、スクバに教科書投げ込んでたら響いた大声に、教室に残っていた全員がそいつを注目する。

「うっせ、バーカ!!」

「あだっ?!」

別れた張本人らしい奴に頭を叩かれて、叫んだ奴が黙る。

良い気味。

クリスマス前に別れたんだねぇ、お前は女を見る目だけはあるよ。

だって、お前二股かけてるし。

「つか、シングルベルじゃん?だっせぇー。」

「親父ギャグうぜぇし。」

お前らの存在うぜぇよ。

「部活引退して即彼女ゲットして、やりぃ?俺勝ち組とか思ってたのによ…。」

「あー、確か?クリスマスに手編みのマフラー編んでもらうとか九月から自慢してたよなぁ。あん時、俺、お前ばかじゃね?て思ったし。」

俺もその話知ってる、て言うか、チャリの二台並べて走りやがって、俺轢こうとしてたろ?

全く速度落とす気もブレーキかける気もなくて、俺が気付いて道譲らなきゃ、ラケットバッグにぶつける気満々が伝わってたからね。

別に俺が怪我するなら俺も不注意で避けきれなかったから、まぁ、許してやるが、その前にそんな鈍くないけどね。

もしラケット、テニス用具に傷付けられたりしたら、知らないよ?

故意にテニス用具を傷付けた場合の俺は全く想像出来ないな。

当然赤也は比じゃないね。

九月からクリスマスの事考えてれ馬鹿女に、マジに手編みのマフラーなんか期待してる阿呆男でお似合いだよって思ってたし。

その上道を譲ってやった俺に対して、勝利の笑み、は?意味分かんないし。

無防備に背中を見せながら、

「いやー、俺女の子騒がれるテニス部羨ましかったけど?本命と付き合えるんなら、部活関係ないって思ったよ、マジに。」

その倒置法何?

バリマジにムカつくんですけど?

テニス部だと女子に騒がれる?は?

残念だけど準優勝で価値半減って言われましたけど、まじに?

しかもなんでテニス部と付き合いたがるか知ってる?

テニス部が生徒会の次に立海の実権を握ってるからだよ、つまり打算って奴?

純粋に顔でモテるのは仁王と丸井、赤也もかな?

部長の俺、副部長で風紀委員長の真田、生徒会の柳、風紀委員の柳生、立海一のテンダーマン・ジャッカルが好きとかファンとか言う女子は、完全に俺達を利用する気だから。

恋愛や女子に興味あってもそんな不純な目で見られたら、テニスが恋人で全然構へんってなるよ。

(脱輪しろ、脱輪しろ。)

て言うかそのピーマン頭にボール打ち込まなかっただけ感謝してほしい。

そんな事をしたらジュリエット(ボールの名前)が汚れちゃうし、さぁ、さっと部活に行ってクリスマス慰労会の話を進めなきゃ。

クリスマス慰労会が全額部費ってまさに勝ち組部でしょ?

あー、勝ち組、まじ忙しい。

まだフラれた話を大袈裟に話して傷を舐めてもらおうって言う負け組を尻目にスクバを肩に掛けて廊下に出た。

「あ、の…、幸村くん…。」

突然前に飛び出してきた女子が下を向いたまま何か突き出した。

あぁ、また?時期だしね。

「これ、読んでく──」

「いいよなぁ?!テニス部はっ?!」

彼女の精一杯の勇気をひがみの野次で打ち消しやがった。

彼女はますます首を折って、突き出した封筒を胸の前でぐしゃくしゃにした。

彼女の思いに応える気はないけど、あいつ、マジに空気読めないよな。

フラれて正解だよ。

「彼女いなくても向こうから女寄ってくるし、選び放題だし、何股もかけ放題だし?あ〜、羨ましいなぁ、テニス部様は?」

…殺す。

彼女いないんじゃなくて、テニスで手一杯でそんな余裕ないし。

寄ってくる女子の九割はハイエナだし。

選ぶどころか男は女に吟味されてるし。

何股って、お前と違って一度も彼女がいた事がありませんけ・ど?

……。

ぷちり、と音が聞こえた。

「だったらテニス部に入ってみる?いつでも歓迎するよ。」

言い終わった後に振り返って奴らを見たら、馬鹿面曝してやがった。

その前にお前じゃ、入部テスト受からないし。

何気に立海テニス部ってスクール経験者や大会入賞者優先だしね。

うわぁ、スタートラインにも立てない負け組?

それに笑ってやって、彼女に向き直ると、

「先に言うね。俺、好きな人いるんだ。それはにお──」

「なに言っとんじゃ?」

俺の声に被さる様に鋭い声が響いた。

びっくりしたようにぽかんと口を開けた彼女。

俺もタイミング良すぎてちょっとビビったけど、ま、そこを使わない手はない。

「ゴメンね、そういう事だから。」

「…幸村には叶わんのう。ま、諦めんしゃい。」

「…あ、」

仁王に腕を絡めながら歩き出せば、何かを覚った詐欺師はニヤリと笑って彼女から手紙を奪った。

きっと今ごろ3−Cの教室の中と外は馬鹿面で埋め尽くされてんだろうな。

本当は仁王のお姉さんって言おうとしたのは、仁王にも内緒。

いつまでも腕を離さない俺に仁王も何も言わない、だから男子も女子もチラチラと俺達を見てくる。

何この優越感?勝ち組気分って奴?

とある国の一人っ子政策で男女の産み分けで男の方が断然多いらしいから、そのうち同性愛者じゃなくても、友人同士がライフパートナーで婚姻に似た家族形態を取るようになったりして?

て事は、仁王みたいな気難しい奴を愛せる俺って勝ち組?

「あー!!幸村ぶちょー!!仁王せんぱーい!!俺もー!!」

近付いてきた叫び声が空いてる腕にぶら下がってきた。

「えへへ〜、あったかいッスねぇ〜。」

無邪気に俺に体をくっつけてくる赤也になんだか勝ち負けに拘ってる俺が馬鹿みたいに思えてきた。

「そうだね、赤也は人間カイロだ。」

「つめたっ?!幸村ぶちょ〜ぉ?」

頬をくっつけたら赤也は本当に暖かかった。

「いいのう、俺も赤也の隣に行くナリ。」

「そしたら俺が寒いし。」

羨ましそうな声を出す仁王の腕が逃げないように力を込めた。

「なかよし、なかよし〜。」

て嬉しそうに笑う赤也。

「部室まで三人四脚ごっこするぜよ。」

この状況を目一杯楽しむ事を提案してくれる仁王。

「よし、立海テニス部の団結力をみせてやろう。」

そこは友情でも良かったかも。

友情もよく分かってないのに、恋愛とか彼女とかで勝ち組負け組に分けるのもあれだよね?

て言うか、価値観なんて人それぞれで誰もが恋愛史上主義じゃないんだし。

まず、スタートラインから違う、あれ?さっきも言ったような?ま、いいや。

俺はまだみんなとテニスをして馬鹿やってるのが一番楽しいから、今年も来年もその先もずぅっとあの八人でクリスマスをやりたいとサンタさんにお願いしておいた。

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