3000打勝手に柳祭り5/5


3000打勝手に柳祭り 5/5


一向に効率の悪い勉強会を切り上げて、まだ泣き止まない赤也の手を引いてコートに向かえば様子がおかしい。

「あ、れぇ…?今日休みじゃないッスよ、ねぇ…?」

瞬きする度に涙が落ちる赤也はいつまで泣いていたのだ、これで新人戦で先頭立って新生立海を引っ張っていけるのか心配になってきた。

「いや、休止の連絡は、来ていないが?」

コートに誰一人いないのかおかしい、携帯を開いてみるがテニス部からの受信も着信も無い。

何だ?

部員全員を動かせる精市が絡んでいるのは間違いないが、雨でも無い日にコート練習を行わないのは異常だ。

「取り敢えず、部室に行くか。」

「…嫌われた、とかじゃないッスよね…?」

「恐らくは。」

その様な言動はとったつもりは無いが、相手はそう思わないだろう。

再び泣き出しそうな赤也を頭を撫でて、部室まで来た。

中には人の気配、ドアノブに手を掛ければ鍵は閉まっていない。

一刹那迷ったが、誰かいるのであれば何故部活を行っていないかを聞けるかもしれない。

不安がる赤也を側に引き寄せて、ドアを一気に開いた。

その瞬間、向けられる破裂音。

予想する物では間に合わないが、頭と赤也は庇った。

だが、現実は神の子よりも気紛れで、

「おめでとう、柳!!」

と突然の祝辞が投げ付けられる。

それこそ何事かと思えば、精市を始め部員全員が発射済みのクラッカーを持っていた。

テーブルには丸井が作ったとおぼしき三段のデコレーションケーキはウェディングケーキのようで、更に運動部の部室に不釣り合いなシャンパンタワーの準備までされている。

ホワイトボートには先程言われた通りに「おめでとう」の文字。

はて?

誕生日には疾うに過ぎ、程遠い日だがそれ以外に何かあっただろうか?

涙と鼻水で呆けたままの赤也を先に中に入れてやりながら、

「ハロウィンとも違うし、エイプリルフールには些か早過ぎるとも思うがこれは何だ、精市?」

悪戯が成功した様な満面な笑顔を浮かべる精市に聞けば、

「またまた〜?水臭いよ、柳?」

何かを知っている顔をする。

「何がだ?」

悪いが全く心当たりが無いので素で聞き返させて貰った。

「高校生作家コンテストで大賞とったの隠すなんて、ねぇ〜?」

最後は部員達に語り掛け、部長に振られて笑顔で相槌を打つ。

何の話だ?

作家コンテスト?

大賞?

そんなコンテストがあった事自体初耳だ。

これはデータ不足だったようだな。

だが、

「いや。人違いでは無いのか?」

と聞いたが、精市はまだ人の悪い笑顔を浮かべたままで、

「そんなに照れるなたて?ヤナギレンジなんて名前はそうないでしょ?」

と何処かの文芸誌の一ページを俺に見せた。

「…俺では無い。」

俺の名前では無い以前に応募もしていない、コンテストの存在も知らないのに何故大賞をとれると言うのだ。

「え?だって柳蓮司って?」

「柳蓮二だ。」

「……。」

精市の笑顔が固まると同時に、部室の空気が凍る。

状況を把握出来ていない赤也が精市が手にする文芸誌を覗き込んで、

「ジが二(に)じゃなくて司(つかさ)になってる。」

と部員達に分かるように解説をしてくれた。

さて勘違いから始まったこのお祭り騒ぎの落とし前をどうつけるのかと精市を見守っていたが、流石王者立海のテニス部を束ねる部長、直ぐに軽やかな笑みを浮かべると、

「何でも無い日おめでとう!!」

と宣言すると、

「元が柳の為のパーティーだから、シャンパンタワーやっちゃって。」

と柳生にわざわざどんべり(青森県産の濁り酒)と書かれた紙(仁王作成)を書いた炭酸のペットボトルを無理矢理持たされ、椅子に立って頂点のグラスを注ぐと下のグラスに自動的に流れていくというホストクラブでお馴染みの光景を自分が行うと言うのは、中々に自尊心と優越感を擽られる貴重な体験をさせて貰った。とデータ帳に記しておこう。

thank you 3000HIT!!


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