どきどき服装検査
昨日の夜に柳生からメール入っとった。
明日は全校集会いうことは、「登校前服装検査がありますから身だしなみを整えて来て下さい。」って奴なりの気遣いじゃ。
まぁ、これで風紀で引っ掛かって指導室送りになったら、ダブルスの練習にも支障がでるきの、あいつもシングルスでいけんのに、なんぞダブルスにこだわんだか。
でも、せっかくまじめちゃんがこうやって知らせてくれたんだから、明日は柳生仕様で行くかの？
とりあえず指定のワイシャツをクローゼットから引っ張り出す。
式にしか着んから、まだクリーニングのビニールがかかっとる。
いつ出したんか？ま、いいじゃろ。
私立じゃきねぇ、ワイシャツもバカ高いじゃ…。
弟は公立中で学ランのせいか、夏の開襟シャツめっちゃ安い、立海のワイシャツ一枚で四枚くらい買えるくらい安っ?!
それにまーくんも成長期だもん、去年までは学期ごとにワイシャツ買い換えて、なんか親に悪いなって思うたから、二枚しかないのよん。
しかも一枚柳の未使用を譲ってもらったのだし。
サイズの合わなくなったのは後輩に半額で売ってやった。
これ、常識。
ネクタイもアイロンかけるかー、よれてて憐れだって柳生に泣かれるし。
リビングでアイロンかけとったら、魔王…姉貴に「うちのブラウスもかけといて。」って、まだブラウス生乾きやないの…。
立海で幸村に勝るとも劣らないモテ男の仁王雅治は、家では鬼姉に逆らえずにブラウスにアイロンかけてます…。
……。
「い〜や〜じゃ〜っ?!
」
「じゃかしいわっ!!バカハル!!」
あだっ?!
思わずに家と学校のギャップに耐えられなくて叫んだら、ソッコーで姉貴にペットボトルの空を投げつけらよった…。
かわいそうなまーくんは、ペットボトルを分別してゴミ箱に捨てるのです。
そしてこの鬱憤は赤也とか丸井とか真田とか赤也とか真田に向かうのです。
「ハル、ハウス。」
「…わん。」
俺の心の呟きでドラマが聞こえない姉貴は無情にも部屋へ帰れの命令をしよった。
俺が家にいたくないのは姉貴のせいぜよ…。
そんな苦労をしながら柳生イリュージョン万全に服装検査に備えた。
の・に!!
この丸いブタが…。
おまん、まじで養豚場送りにするぜよ？
思いっきり睨むが脳みそまで脂肪はへらへら笑って、
「そう怒んなって。たかがイチゴミルクかかってくれぇでよぃ。」
「…どこがたかがじゃ…。」
朝一の登校前検査も、全校集会後の学年集会の服装検査もクリアした。
今日くらいは無違反制服で過ごすかのって、丸井と昼飯食っとったら、赤也のネタに爆笑した丸井が持ってた紙パックを握りしめて、俺の頭といい制服といい中身をぶちまけやがった。
「クッキーメロンパンやるから機嫌治せ、ちょろ毛。」
「いらん。」
丸井が食いもんくれんのは珍しいが、そんな甘すぎるもんは腹の足しにもならん。
それよりこのぶっかけられてベトベトすんのをどうにかせんと…、なんかえろっ?!
ロッカーから代えのワイシャツ（違反)出して、帰りに着ようと思っとったユニクロカーディガン（ジャッカルに言われるまでＸＬのシールを一週間くらいつけてた思い出の品)をスクバから出す。
エクスタセクシーなまーくんも教室で着替えるのは恥ずかしいので、トイレの個室でこっそり着替えて、トイレの脇の水道で泣きそうになりながらブレザーについたイチゴミルクを水を含ませたトイレットペーパーでぽんぽんしてた。
染み抜きはこうすればいいって参謀が教えてくれたナリ。
どっかの赤毛豚と違って、物知りで優しいお母さんじゃな。
でもトイレットペーパーじゃけ、水に溶けて、少しでも擦れると生地の溝にはまってしまう。
これもそれもあの豚のせいじゃ!!
部活になったらとことんいじめたる!!
幸村にも協力してもらうき、覚悟しいや!!
中途半端に濡れたブレザーを持って教室に戻る途中に柳生に会ってしもうた。
左腕に風紀の腕章、ご苦労なことで昼休みも取り締まりらしい。
俺の違反カーディガンを見た柳生が口を開く前に、
「今制服汚されたんじゃ、朝は検査にクリアしたき、見逃してくれんかの。」
と濡れて色が変わってる上にトイレットペーパーのカスがついたブレザーを見せると、柳生は眼鏡を押し上げて、
「それはお気の毒に。」
と言って俺と反対方向へ歩いて行きおった。
風紀でうるさいのは柳生と真田くらいじゃけ、あとは楽勝じゃなんて鼻唄（同じ名前のあの方)までして余裕こいとったら、Ｂ組の真ん前で真田に会おうてしまったっ?!
射手座今日一位じゃったのに…、この仕打ちはなんじゃっ?!
ラッキーカラーは紺（カーディガン)って言っとたのは嘘かっ?!
頭の固い真田には制服汚して臨時に違反カーディガン着てる言うても通じんし、ほんにこのまま言い訳せんと違反取られといた方がいいかの？
「…仁王。」
無意識に睨んでしまった俺に真田にしては珍しく遠慮がちに話しかけおった。
「なんじゃ。」
「カーディガンを裏返しに着てるぞ？」
「っ?!」
指された肘の辺りを慌てて見たら、縫い目が見えとる?!
見間違いかと思いたくて、脇腹の辺りを擦ってもやっぱり縫い目が表に出とる…。
「仁王らしくないな、具合でも悪いのか？」
「…心のな。」
おしゃれボーイで通っとるこの俺がなんでこんなミスをっ?!
柳生のあの「お気の毒に。」はこういう意味じゃったのかっ?!
しかももっさなだにカーディガン裏返しとか言われたし、もうまーくん恥ずかしくて学校来れん!!
やっぱりあいつは紳士じゃなかっ?!
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