良識人は苦労人


良識人は苦労人



「おや?今日は丸井君の当番では?」

ダウンの終わった比呂士がやってきた。

俺はネットを畳む手を止めて、

「まぁ、いつもの通りだ。」

と指をさすと比呂士はあぁとため息をついた。

今日も赤也をからかっていたブン太は真田に見つかって、二人仲良くコートの端に正座して説教くらってた。

ブン太と一緒にいた仁王は幸村に頼まれたとかで花壇の水やりに行ったとかで要領よく逃げてた。

「今日もですか…。私も手伝いますよ。」

「サンキューな。」

比呂士が反対側に行ってポールを抜いてた。

ホントはブン太にやらせればいいんだけど、ぽつぽつ雨も降ってきてるし、早くしまったほうがいいやって、暇な俺がやってるだけだ。

それに今は部室が混んでるからちょうどいい。

「そう言えば桑原君。最近皆さんが自分が女性だったら誰と付き合いたいと言う話をしていたのを知っていますか?」

「っ、…なんだ、ソレ?」

比呂士はやたら真面目な顔で言ってるが、俺は笑いそうになってしまった。

なんでそんなどうしようもないことを考えるんだ?

またブン太が言い出したことなんだろうな?

「で、比呂士が女だったら付き合いたい奴は誰だよ?」

ネットとボールのカゴを持つと、ポールを二本持った比呂士が俺の方に歩いてきた。

「その件に関して考えて見たのですが、消去法で行くとやはり仁王君しかいないかと。」

「へぇー…。」

消去法ってあれだろ?

たくさんある中から、条件に合うのだけ選び出して最後に残ったのが正解みたいな奴だろ?

なんの条件でよりによって仁王が残ったんだ?

「私は一つの事に集中すると周りが見えなくなる性格ですから、テニスや勉強、趣味で放ってしまっても平気な方が理想ですね。自己が確立されていて、無理に他人に合わせずに、こちらも過度に干渉しないと拗ねる方は遠慮申し上げたいので。」

クィッと眼鏡を押し上げた比呂士、熟語がいっぱいで半分は分からねぇ。

でも、仁王は「におくんはうさぎさんだからさみしいとしんじゃうの。」って言っていた、意味分からねぇけど。

第一うさぎはさみしいくらいじゃ死なねぇ、それは生物委員の俺がよく知っている。

あいつら、かわいいくせにしぶとい。

「後、結婚となると、やはり仁王君しかいないんですね。」

「けっ、こん…?」

なんか比呂士が飛んでもないこと言い出したぞ?

「私は将来医師になるので、結婚は遅くなると思います。私が医師として一人前になり、結婚をしても良いと心に余裕が出来る頃には仁王君も年齢的に落ち着いてるのでは無いかと。彼は女性にモテますが、外見と内面は釣り合わないので結婚までは至らないのと思うので、まぁ、取り残された者同士、互いを介護するつもりで人生を共にするのが良いかと思ったのです。」

「……あー…、なんとなく…。」

分からないでもなくねぇ…。

医者になるって時間かかるって言うしな。

仁王は仁王で詐欺師なんて言われてしまってるから、いろいろ勘違いされて、しかも本当に好きな子とは顔を合わせられないくらい真っ赤になるタイプだもんな。

比呂士の消去法ってのも、分かる気がする。

となると、俺が女だったら、誰を選ぶんだろ…?

真田に説教中なのに赤也にイタズラしてまた怒られているブン太が見えた。

「俺、も…ブン太かな。」

楽しいことが好きで、自分の気が向いたら、こっちの都合お構いなしにとことんやって、でも他人に言われるのがやで、面倒見がいいけど、ホントは甘えたがりで、いつも腹いっぱいじゃなきゃ気がすまないくせに、他の奴に食わせてやるのが好き…。

あー、ブン太ってこんな面倒くさい奴なのか?

「あんな手間のかかる奴を放し飼いにしちゃいけねぇし。」

「分かりますよ、その気持ち。」

隣でため息をついた比呂士に俺も乾いた笑いしか出なかった。

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