訳せよ、少年!!


訳せよ、少年!!



「うわ〜、ちょーだりぃ…。」

思わず口に出てた。

シャーペン投げ出して、ガムを口の中に放り込んで、目の前のプリントと睨む。

辞書持ってくりゃよかったぜぃ…。

つっても、今から校舎戻んのもめんどいしって携帯を開いたら、…電池切れ…。

え?ギャグ?何ギャグ?何ネタ?

家に帰ればチビたちの相手で課題なんてゆっくりできねぇから、気合いの入りやすい部室で部活の後の勢いで一気に片付けたかったのによぃ…。

「どうしたの、丸井?」

ガムをふくらませてアルファベットばっかのプリントを眺めてたら、俺の前に幸村君が座った。

「ん〜、選択外語の課題なんだけどさぁ…、俺英語なんだけど、普通のよりめんどい文多くてよぃ。」

うちの学校は英語の他に選択外語で英語・フランス語・ドイツ語があんだけど、普通の授業でも英語分かんねぇし、しゃべれねぇのにこれ以上半端に外国語勉強すんのはムダって思って英語選択したのに、まだまだ空欄だらけのプリント…。

俺の英語の成績も赤也よりマシってレベル。

きっと人の倍勉強しても英語しゃべれるようになる自信はねぇ!!

「へぇ、選択英語ってこんなのやってんだ?」

プリントを持ってしげしげと見てる幸村君。

「幸村君って選択何?」

「俺フランス語。やっぱり好きな作家がフランス語で書いてるからさ、原文で読みたくて。」

「おー、さすが幸村君。」

そういう好きな物こそ上手になれ的なガッツがないから、めんどいで済ませて勉強しないんだろうな?

将来のためって言っても本当に英語が日常会話な会社に勤めるか分からねぇし、いや?ベースの近くのコンビニってバイトでもTOEIC何点以上とか書いてたな?

うわー、やっぱ、日本も国際化?いつのまにって、まず俺のパートナーがハーフじゃん?ブラジル出身てことは、英語どころか公用語のポルトガル語も普通に話せんじゃん?ジャッカルのくせになまいきな。

「この作文問題は興味深いね。」

トントンと叩く音に幸村君の指先を覗いたら、さっき訳が分からなくて投げ出した文を指してた。

「the last minuteを使ってなんて、ライティングの12単元でもやったでしょ。」

「12単元うちのクラスまだやってねぇもん。」

「え?嘘?うち明日から14単元だけど。」

「いや、マジに。3Bは今日9単元終わりました。」

それにもガックリだ。

俺のクラスと幸村君のところだと教科担違うからなぁ、しかも新採用だぜぃ?やっぱ授業の段取り悪くて、いっつもテスト前にバタバタ終わらせて詰め込む方式だし、しかも新採用だからテスト作らせてもらえなくて、先生もテスト内容直前まで知らないとかマジありえねぇー。同じ新採用が教科担のF組柳はやっぱ柳だから余裕で満点とりやがるし、あいつライティングとリーディングは自習時間とか言うぜぃ?さすが参謀サマだ。

「It hesitated in the selection where it lived to the last minute.」

「は?」

次のテストも英語やべぇんだろうなって泣きが入ってたところに幸村君の流れるような声。

昔聞いた朗読みたいに耳に馴染む澄んだ声で、男にして高くて女にしては低い不思議な幸村君の声って好きだな。

「どう?お題のIt hesitated inも入ってるし、条件にはぴったりな文でしょ。」

「…ごめん、意味は?。」

最初に謝ります、幸村君の神の子的な声に心がイップスでした、あれ?俺うまいこと言ってね?

そしたら、幸村君は消えそうな儚い笑顔を浮かべて、

「生きる選択を最後まで躊躇った。」

「幸村君は生きてるよぃ。」

それなのに声だけはコートで聞くみたいに凛としてるから、俺は怖くなって幸村君の腕を掴んだ。

「幸村君は俺らと一緒にテニスしてる。」

あの日掴んだ腕より筋肉質で、色白なのは変わんねぇのに俺よりたくましいし。

安心した、幸村君は俺らの隣いて、テニスをしてるんだって。

「…ありがとう。」

一瞬だけびっくりしたみたいに目を大きくした幸村君だったけど、すぐに優しい笑顔でそう言った。

「ん、まぁ…、つか、こんなんどう?I hesitated in early lunch.俺らしくて天才的ぃ?」

て今日の俺なんだけど、数学のゲバだったから食うか食わざるかの賭けだったんだなぁ、食ったけど。

「inの後はthe+名詞だから、…どちらかと言えばI hesitated in the lunch ……、of bringing forward.かな?そしたら、to the last minuteはいらないのかな?と言うかまず早弁なんて言葉が英語にないんじゃない?」

てサラサラってプリントに書き込んでくれた。

あれ?earlyの前にtheはつけられないのか?

なんかややっこしい文になったな。

それよっか、さ?

「もっかいいい?of bringing forwardって何?」

「確か〜、早めるのについてとか、繰り上げてとかって意味だから、the lunch of bringing forwardが早弁にしてみた。」

「…なんか、失敗。」

しかもto the last minute使ってねぇし。

もし俺だったら、最後まで躊躇うことってなんだろ?

でも幸村君なら最後まで躊躇った事があるよな。

これが絶対そうだ。

「It hesitated to…、give up …playing tennis 、to the last minute.」

なんか思い付いた言葉を幸村君に伝えると、幸村君はまっすぐ俺を見た。

何秒か真剣な目をしてから、また春風みたいな笑顔を浮かべて、

「俺、丸井のそういうところが好きだな。」

中学にもなると真顔で好きとか言われると恥ずいし、しかも尊敬する幸村君に。

「…あんがと。」

「それは俺の台詞だよ。ありがとう、丸井。」

一応礼を言ったら、逆に幸村君も言ってきた。

うわぁ、マジにどうしよ?なんか間が持たねぇ。

「テニスを諦める事を最後まで躊躇った、か。ホント、その通りだよ。」

そう言った幸村君は俺のプリントを引き寄せて、

「今回だけだから。みんなにはナイショ。」

てウィンクした幸村君は俺のシャーペンを持ったままで、しゃかしゃかプリントを埋めてくれた。

ラッキー、明日学食でもおごろっかなってできあがったプリントを渡されて笑った。

だって作文全部がテニスネタなんだもん。

でも一番の傑作が
「I like tennis by the death.」
死ぬほどテニスが好きなんて生き返ったやつのセリフじゃねぇし。

てか、俺らみんな死ぬほどテニスが好きじゃん?

へじていと!のひなたさんへ相互記念献上SS
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