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じゃがいも畑で友情論


全国終わって、二学期始まって、私立だから引退なくて、二年が部長副部長引き継いで、三年の俺らの立場が微妙で、とりあえず自分の体力強化と一緒に一年の底上げか、タリぃなぁ〜、ソコ、しゃべんのいいけどフォーム崩すなよぃ、あ〜、やべぇ、外語の課題今日までだったじゃん?選択英語って、今あいつムリだから仁王?つかマジあてになんねぇーって、ウダウダ考えてた時に視線に気付いた。

いつものストーカーちっくのファンの子か?なんて漫画じゃねぇし、ギャラリーなんかいねぇよぃ、つかなんかこう感じ慣れた視線なんだけど?ってグルッと見渡せば、いた。

フェンスの向こうの木陰で、寂しそうな目をしてコートを見ていた幸村君。

あれ?確か今日は定期検査で早退したって柳が言ってたぜぃ?

なのになんで学校にいんだ?てかいるなら部活に顔出してくれたら、みんなやる気出んのに…。

幸村君は制服のままでずっとコートを眺めてた。

あんまりにも消えそうな横顔に心配になって、俺は幸村君のとこへ駆け寄った。

「やぁ、丸井。」

口の端を上げて首を傾げてるけど、全然笑ってるように見えない。

微妙にほっぺの筋肉が硬い。

「…何やってんだよぃ?」

「んー?ストーカーごっことか?」

ふふって笑った声が泣いてしゃくりあげてるっぽい。

「そんなとこいないでコート入れば?」

幸村君がいた方が気合い入るし。

卒業までもうちょいだけど、今のうちに後輩たちに幸村君の勇姿を存分に拝んでけみたいな。

幸村君が何か言おうとしたとき、不自然に口の形と言葉がすり変わった。

「…ゴメン、今日は花壇を見ることにするよ。」

「…それ、俺も行っていい?」

本当は何を言いたかったのか聞こうとした俺も、幸村君の後ろを通り過ぎたコーヒー豆に幸村君に同調する言葉が出た。

俺の質問に幸村君は消えそうな笑顔でうなずいて、俺たちは花壇に向かった。

山野草クラブだかの同好会もあって、ウチの学校の花壇は植物園並みにきれいで、その道ではそこそこ有名、らしいって幸村君が。

幸村君は幸村君でナニがナニやら、幸村君専用の花壇があるんだな、さすが神の子。


幸村君は花壇を囲むレンガの隅に差してた小さいスコップを持って、土を掘り返しはじめた。

制服で大丈夫かよぃ?と思ったけど、自分の好きなことをやってるときの幸村君は周りがどうのこうの言っても聞かないし、ま、いっかと思って、俺もその辺の小枝を拾って花壇の隅っこを掘り返した。

「丸井、もう少し奥の方を深めに掘ってごらん。」

「んー…、うおっ?!いもじゃん?!じゃがいも出てきたよぃ?!」

幸村君に言われた辺りの柔らかい土を掘っていったら、拳よりおっきいくらいのじゃがいもが出てきた。

それも一個や二個じゃない。

蒸かしてじゃがバターとかしたらおいしそだなぁ、こないだちびたちに大人気だったじゃがいもケーキもいいかも?

「退院してきて花壇が荒れてるのを見たくなかったから、一番簡単なじゃがいもを植えてもらったんだ。その残り。来年の種芋にしようかと思ったけど、卒業だしね…。」

最初は楽しそうに話してた。

でもだんだんフェードアウト。

スコップを持つ手が止まって、どこか遠くを見てる。

俺が声をかける前に幸村君は下を向いて、

「悪い奴じゃないんだけどね、ちょっとばかり思い込みが激しくて表現力が乏しいだけなんだ。」

あぁ、そうか。

コートに入りたくないワケは真田か。

たまにあるんだよな…。

「そんなの十年も友達やってる俺がよく分かってるのにね…。」

溜め息をついてまた土を掘る。

深くなっていく穴に幸村君は何を埋めたいだろう。

俺もじゃがいもを掘り出したところに、埋めて隠したい物がある。

「…俺もジャッカルとケンカしたぜぃ…。」

ケンカっていうか、一方的に俺がジャッカルにキレただけ。

キレたっていうかダダこねただけだ。

あいつの生まれつきのお人好しの優しさは分かってる。

それにつけ込んでジャッカルに用事を押し付ける奴らが許せなかった。

女子なんか見え見えのお世辞言っておだてたり、押し付ける嘘なんかでっち上げて。

結局自分たちが楽したいから、人の良いジャッカルをパシってるだけだろ?

それでも文句も言わないで、押し付けられた用事も苦笑いしながら片付けるのジャッカルの良いところで。

でもそれって親友の俺だけの特権かと思ってたんだぜぃ…?

でキレた。

ジャッカルに八つ当たりした。

さすがのジャッカルも怒って、一瞬ポルトガル語で俺に怒鳴ってきた。

ジャッカルは俺たちの前で滅多にポルトガル語を使わない、意識して日本語を話してる、日本語が母国語らしいけど。

つまりそれくらい温厚なジャッカルを俺のワガママで怒らせたってこと。

俺は俺のしたことが恥ずかしいってかバカみたいで言いワケもできなくてその場からコートまで逃げて、ジャッカルは押し付けれた用事をしに行ったみたいだ、さっき部活に出たから。

コートに戻ったら、顔合わせんのしんどいな…。

「…埋めるのかよぃ。」

結構広く深く掘ったのに、幸村君は穴に土を放り込んでいく。

「…うん、いいんだ。」

さっきまでの消えそうな笑顔が嘘みたいにやけにすっきりした穏やかな顔をして、

「真田に言いたいことは全部この中に入れたから。」

ってせっせと埋めていった。

幸村君って結構言いたいことをぽんぽん言っちゃうタイプだから、言い過ぎて傷付けなて後悔してたりするもんなぁ…。

それが幼なじみな真田なら、誰より理解してる分余計に言い過ぎないようにっていう幸村君の気づかいなのかな?

「じゃがいも、どうやって食べる?」

今の俺も、どっちかっていうと幸村君と同じ気持ちだから、ワザとどうでもいいようなことを聞いてみた。

「全部丸井にあげる。多かったら、ジャッカルと分けたら。」

「…うん。」

神の子はお見通しってか?

やっぱ幸村君には敵わないな。

戻ったら、一番にゴメンって言おうと決めた。

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