三強と呼ばれて


三強と呼ばれて

著しく下品な話・部長様のお歌とは関係ナッシング


俺には聞いたときから疑問に思っている言葉があった。

「なんで、三強のことをビックスリーって言うンスか?」

別に三強のまんまで充分通じるとも思うだけど、やっぱ青学と被ったりするから嫌なのかな?って思ったり…。
あれ?

なんか先輩たち固まってンスだけど?
一番早くリアクションを起こした柳生先輩が眼鏡をクイッて上げたら、仁王先輩が読んでた雑誌を投げ出して、

「そりゃぁ、部内でナニがデカいからじゃろ。」

って普通に言ったっ?!

「ナニってナニッスかっ?!」

「…赤也、何処を見ている。」

思わず立ち上がって、着替え途中の柳先輩のナニの辺りをガン見して思いっきり嫌な顔されてしまった。

柳先輩は俺に(だけ)優しいから、ちょっとそれがショックだった…。

「そーそー。柳ってば上品な顔してるクセにデケェのっ!!イデッ?!」

せんべい食いながら笑う丸井先輩に柳先輩はナゼかその辺にある洗濯バサミを投げつけた。

「体が大きければ、手足が大きいのと同じだ。第一大きい等と言われても通常時で数ミリの差、実際の大きさでは最大値で決定するのだろう。それは女性が判断する事であり、男同士の下世話な話題で置いては通常時の見た目で順位付けされると言うのなら、小柄な丸井の方が大きいと思われるのでは無いか。」

「イデッ?!洗濯バサミマジいてぇっ?!」

一気にまくしたては柳先輩は、立て続けに丸井先輩に洗濯バサミを投げ付けていた。

ナニが大きいって言われんのも、誉めてるっぽくても言われた方は嬉しくなかったりするらしい。

「じゃ、真田副部長が皇帝って言われんのはナニのせいなンスねぇ?」

ありゃ、すげぇ、マジすげぇ。

ぶっちゃけ、父ちゃんよりすげかったし。

「切原君、それを真田君の前で言ってはいけませんよ。本人は凄く気にしていますから。」

柳生先輩はそう言ったけど、仁王先輩は、

「いや真田の取り柄は皇帝しかないぜよ。将来はサオ師じゃな。」

「…さおしってなンスか?」

初めて聞く単語に何気なく柳先輩を見たら、柳先輩は俺に背を向けたまま、

「赤也、世の中には知らなくても良い事がたくさんある。」

「…はぁ…。」

柳先輩がそういうなら、うん、知らないままでいよ。

「つか、幸村君はどこの辺は神の子具合?」

「そんなん色と言い形と言い神の子じゃろ。」

「…お前ら、よく他人の下半身見てんな…。」

ボールの空気詰めしてたジャッカル先輩がうんざりした顔で言っていたけど、

「いや、ジャッカルも普通にでけぇから。」

「いや、俺は普通だろ?」

珍しく真顔で力説する丸井先輩、明日雨か?

「いやいや、ジャッカルはまた別格ナリよ。持久力が違うぜよ。」

「…仁王は俺の何を知ってんだ…。」

「ナニ。」

「……。」

紅白コンビに追い込まれたジャッカル先輩はそれっきり口を開かなくなってしまった。

「で、幸村部長は?」

「ふふ、そんなに知りたい?」

「うわぉいっ?!」

いつのまにか部室に戻ってきた幸村部長が俺の耳元に囁いたものだから、部室の端まで逃げてしまった。

「俺さ、自分で言うのもなんだけど神の子かと思ったら、それって中学レベルだったんだ…。」

やや俯き加減で斜め下を見る、幸村部長お得意のアンニュイポーズ、大抵の男も女もオチるある意味五感を奪う恐ろしい技だ。

俺より一年付き合いの長い先輩達は(またか、)くらいでそれぞれの作業をしているが、俺はまだそんな幸村部長の顔にドキマギしている。

例えナニが神の子でも。

「幸村君のドコが中学生レベルよぃ?中学生になって弟のおたふく風邪移されて、ちんこぱんぱんに腫れたのをおばちゃんナースに笑われた俺の気持ちなんか分かるかっ!!赤也、もんじゃ奢れぃ!!」

「赤也だけにもんじゃ…。」

丸井先輩曰く、いい年しておたふく風邪になるとあり得ないくらい腫れ上がるらしい。

大事を取って股間を冷やしたらしいが、なんかマッパの上に冷たいタオルを乗せられたとか、交換の度にナースが違うとか、くすりと笑われたとか、とにかくトラウマになったらしいが、最後は意味分かんないし、仁王先輩ぶっころ。

「無理ッス、皮被りーず。所持金23円。」

お昼のカツサンドは余計だったかな?

「被ってねぇよっ?!てか被ってる奴等に謝れぃっ?!」

「そうじゃっ?!仮性のナニが悪いっ?!えっちもできるし子供もデキるぜよっ?!」

…つか、仁王先輩…、いや、聞かなかったことにしよ、その必死さ加減がなんか悲しいし。

「衛生に気を使えば、無理に手術をする事も無いだろう。ま、自尊心と自信の回復と言う意味が強いだろうから。」

「包茎手術詐欺と言うのもありますからね。」

うわっ?!良識コンビがさらっと問題発言?

「ぺてん師がホーケー詐欺、ぷぷぷ…。」

「ブンちゃんは脂肪で埋まってるから土手吸引でもしてもらいな。」

3Bもなんかアホらしいケンカしてるし、と言うか、どてきゅういんって?

癖で柳先輩を見たら無言で開眼された、聞くな、知らなくていいって意味らしい。

「てか聞いて?今だから言うけど、俺、手術の時全身麻酔だったのさ?だから、手術中に粗相をしないように……紙おむつしたんだよっ?!」

幸村部長泣きギレっ?!

そして、衝撃の事実。

「あと、一時期見舞いに来るなって言ったでしょ?いよいよ立てなくなって尿道カテーテルとか、そんな姿をみんなに見せられるかっ?!」

わなわなとロッカーに頭を押し付けて叫ぶ幸村部長に俺たちは何も言えなかった。

「尊厳死、か…。」

ぽつりと呟いた柳先輩に同意するように柳生先輩が眼鏡を押し上げた。

ナニの話から、なんかものすごく考えさせられる話になってきた。

じーちゃんがボケる前に死にたいってこのことなのかって、柄にもなくちょっと考えたり。

「尿道カテーテルもかなり屈辱だったけど、やっぱりナースの『体ばっかり大きくてアッチはまだ中学生だね』って一言が、俺って、所詮は中学生レベルだって思い知らされたよ…。」

なんか、無理矢理話を戻したっ?!

幸村部長のダブルで屈辱的な体験談っ?!

つか、ナースぱねぇっ?!

俺、将来ナースと付き合うのだけはやめよ、泣かされるから。

「ふふ、どうせ生えてるだけさ…、あぁ、中学生だよ、14歳だよ、DTマンセー…。」

「幸村君っ?!帰ってきてっ?!」

「おまんは立海男テニの星じゃっ!!神の子なんじゃっ!!」

3Bコンビが必死に幸村部長を止めるけど、幸村部長の目がどんどん死んでく。

「そろそろだな。」

急にドアの方を見た柳先輩につられて、俺もそっちを見たらすんげぇ音がしてドアが開いた。

「たっ、助けてくれ…っ!!」

なぜかへろへろになった真田副部長が部室に飛び込んできた。

壊れかかったドアにジャッカル先輩が溜め息をついて工具箱を取りに行った。

「またか、弦一郎。今度は誰だ?」

いつもの涼しい顔の柳先輩に真田副部長は床に膝をついたまま、

「…高校の、数学の教師だったと思う。」

なんか知んないけど、あの真田副部長がぶるぶる震えてる。

高校の先公はそんな怖いのか?

「33歳、女の厄年。恋人は7年程いず、合コン見合いはどれも不発。好みの男性は声が低く肩幅があり胸板の厚い、美味しそうな太股の持ち主の年下。」

淡々と話す柳先輩のデータに納得、まんま真田副部長じゃん、年の差は顔年齢で充分カバーできる。

「…こっ、好意を持ってくれるのは、嫌とは言わんが…、」

まだ立ち上がられずに床の上で震えてる真田副部長は、死にそうな顔のまんまで、

「さ、すがに…、通り過ぎ様に股間を握る女性は無理だ…。」

その時の部室の空気と言ったら…、潜水用のプールに潜った並みに重かった。

大きいことは良いことだって信じてた。

今日、俺は、一つ大人になった。

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