風邪には早めのお手当てを(切原)


風邪には早めのお手当てを


まだ喉がイガイガするけど、もう大丈夫そう。

三日ぶりの部活は軽めにメニューにしてもらった。

練習が終わって柳せんぱいに言われた通りに校舎裏に行った。

少し、風が耳にしみるかも…。

手をすりあわせて、体を抱いてその場で足踏みをした。

「うぃ〜、さみっ。」

「ほんに今日は寒いのう。」

「うがっ?!」

いきなり背中が重くなって後ろに転びそうになった。

「赤也はあったかいのぅ?」

「…仁王せんぱいの方があったかいッスよ…。」

いつも冷たい仁王せんぱいでもあったかいなんて、まだ熱あんのかな?

「そんな赤也にお土産じゃ。」

「あ、おでん?!」

て目の前に出てきたコンビニ袋、またこの人部活サボッてコンビニに行ったのかよ…。

ちょくちょくサボる人に勝てない俺って…。

「つくねオンリーじゃき、副部長殿もお目こぼし間違いなしじゃな。」

「うわっ、…え?」

俺の髪をぐしゃっとした仁王せんぱいは俺の手を引いて歩き出した。

「……」

お兄ちゃんがよかった俺は恥ずかしいけど、ちょっと嬉しかったり。

「どうした?」

「…なんでもないッス。」

「まだ風邪治っとらんじゃなか?赤也?」

なんか企んでそうに笑う仁王せんぱいが好きにさせといた。

校舎裏に来ると、せんぱいたちが落ち葉をたくさん積んでたき火をしてた。

そういや、昨日幸村ぶちょーが落ち葉集めろって昨日残ってやらされたって丸井せんぱいボヤいてたっけ?

「赤也、お疲れ。」

「ッス。」

柳せんぱいに手招きをされて、柳せんぱいの隣に走った。

「辛くはなかったか?メニューを加減しておいたのだが…?」

大丈夫ッスって答える前に、柳せんぱいは俺の手を取って、のど飴を三つくれた。

「赤也、次期立海を背負う者として自分の体調管理くらいしっかりせんか!!」

「あたっ?!」

後ろから真田ふくぶちょーにこづかれたけど、あんま痛くない。

「これでも飲んで精を付けんか。」

て無理矢理押し付けられた紙コップにいっぱいに入った甘酒。

「知ってるか、赤也?甘酒の季語は夏、暑い夏を乗り切る為の精力剤だったそうたぞ。」

頭を撫でてる柳せんぱいが言うなら、本当かも知れない。

安心して飲めるや…。

一口飲んだら甘い味が口の中のいっぱいに広がった。

「赤也、焼きいも食う?」

トングにはさんだアルミに包んだかたまりを俺につきつけた丸井せんぱいはダルそうにしゃがんで、甘酒をチビリチビリやってた。

かっこかわいい系なのにおっさんくさい。

「赤也、銀杏食うか?焼き銀杏?」

ジャッカルせんぱいが俺の手にピスタチオみたいな白っぽい殻のやつをたくさん乗せた。

「殻を割ってな、ホラこうすると?」

「おお!!」

「な?きれいだろ?」

ジャッカルせんぱいが手本を見せてくれた銀杏の中身はきれいな緑色で、ちょっと食べるのはもったいないくらいだ。

でも、味は銀杏ってカンジで、微妙の笑いをしたらジャッカルせんぱいも苦笑いして俺の頭をぐしゃっとした。

「切原君、寒そうですね。これをどうぞ。」

「あ、ハイ…。」

柳生せんぱいはジャージのポケットからハンカチを出したのかと思ったら、風呂敷っ?!

三角に折ってクルクルって巻いて、俺の首に巻いてくれた。

「おや、手も冷たいですね。」

「あ、りがとう、ございます…。」

俺の両手を取って、手の間にはさんであっためてくれた。

「妹によくした癖なのですがね。切原君はお嫌ですよね。」

少し困った顔をする柳生せんぱいに、俺は柳生せんぱいの手をとって、

「俺、お兄ちゃんにするなら柳生せんぱいが一番かなっでへっ?!」

「あ・れ〜ぇ?前は幸村ぶちょーがお兄ちゃんだったらって言ってなかったっけ?」

また背中に重しが乗っかってきた。

「全く赤也は調子がいいんだから。」

「い、や…、それは…。」

「今日も三日振りのテニスで無理しなかったか?」

「あだだだ…。」

ぐりぐりとこめかみに握りこぶしをめり込ませる幸村ぶちょーは本気だ…。

「幸村。」

「精市。」

真田ふくぶちょーと柳せんぱいに呼ばれて、「ちぇっ、もっといじめたかったのに。」なんて恐ろしい事を言いながら離れた幸村ぶちょーは、丸井せんぱいからアルミの包みを受け取って中身を出してる。

「おまんら今日は赤也の快気祝いじゃろ?」

ちゃっかりと小さい脚立を持ってきて座ってる仁王せんぱいはつくねじゃなくてドーナッツ食ってる。

「あー!!仁王、てめぇ、先に赤也に選ばせてやろうとしたのによぃっ?!」

うわっ、ミスド大好きな丸井せんぱいがおごってくれるとか、まじ明日やばいんですけど。

「切原君、クッキーはいかがですか?」

「あ、じゃぁ…・・・」

柳生せんぱいに呼ばれて、目の前に出されたクッキーを見た瞬間、萎えた。

ナニこのリアルな内臓感たっぷりのグロクッキー…?

「あ、これいちじくじゃん?珍しいよね。」

内臓クッキー食べてる幸村ぶちょーに違和感ないとか、

「赤也、わたぱち食べる?わたぱち?」

甘酒のあとにそんなの食べたら…。

「赤也、イモが焼けたぞ。」

真田ふくぶちょーが軍手でアルミを破ってる隣で、

「バター醤油の確率92%。」

柳せんぱいが皿にバター乗っけて待っている。

「風邪が治ってよかったな。」

て頭をぽんぽんとしてくれたジャッカルせんぱい。

「ハイ!!もう全快ッス!!」

せんぱいたちの気持ちが嬉しくって笑顔になってた。

もう今年は風邪を引かないと思う。


※典さまに捧ぐ

(20111204)
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