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秘密特訓



「仁王君!!そうではありません!!」

あーぁ、また柳生が怒られてる…。

「じゃ、じゃが…、あれはいやじゃ…。」

「だから、その癖もいけません!!」

銀髪なのに無い眼鏡を押し上げようとした柳生を仁王が母親みたいに叱った。

(柳生って、あんな口うるさかったか…?)

て思いながら、ブン太と赤也のボレーの練習に付き合った。

「しっかし、柳生先輩、仁王先輩に似てるッスね?」

「実は生き別れのキョーダイとか?」

「せめてイトコっしょ?」

「つか、よく柳生があんなのに乗ったな?ネタ握られてんのかよぃ?」

「ありえる〜っ!!」

笑いながら返球する二人に向こうの方から真田が「黙って練習せんかっ!!」って怒鳴っている。

それにいつも通り適当に返事をしているのを見ながら、仁王になりきれなくてオロオロする柳生に心ん中で合掌を送っといた。

「だーかーらー!!呼ばれたら、『プリッ』て言うんじゃ!!」

「無理です!!私には出来ません!!」

「無理じゃなか!!俺かて紳士になれたじゃろうが!!」

「それは仁王君の才能と努力の─」

「言え!!言うんじゃ!!柳生比呂士!!私と言う人間はその程度だったのですか?私は自分自身に幻滅しました!!」

「………、ぷり。」

自分に責められるってすげぇ精神的に来るよな…。

「プリッ」って言った瞬間、柳生は顔を両手で押さえて走り出した。

まぁ、見た目は仁王だから、この日から「ヘタレ仁王」って呼ばれるようになったらしい。

仁王本人は「俺、ヘタレじゃけ。」って別に気にしてないらしい。

それから一ヶ月後。

「ンー!!エクスタシー!!」

「……。」

向かいのコートに四天宝寺の白石が二人。

右が問題発言も気にならない爽やかな男前で、左はなんかネガティブで今にも倒れそうな青い顔。

「仁王君、言って下さい。」

「…ヤじゃ。」

「何を駄々をこねているのですかっ?!白石君は対青学戦の切り札ではないのですか?」

ヘタレ発動中の仁王に意外と鋭い目付きの柳生が睨みを効かせれば、仁王はますますスネてコートにしゃがみこむ。

「仁王君は誰にでもなれる変幻自在のアーティストではありませんか?仁王君ならできます!!」

て力強く言う白石、中身は柳生、さっき「エクスタシー」なんて言った奴と同じ奴とは思えねぇ。

「無理じゃ…。俺には白石は無理じゃ!!幸村や手塚になれても、白石だけはイヤじゃーっ?!ウゲッ?!」

「そうは行きませんよ、仁王君。」

どさくさにまぎれて逃げだそうとする仁王の襟を掴んだ柳生は、

「仁王、白石程度で根を上げるなんて、お前のペテンも大した事はないね。」

「……。」

若干声が低めだが幸村だ…、やべぇ、柳生が幸村までコピった。

「さぁ、仁王君。言って下さい。」

「……、」

「……。」

「……ヤじゃ。」

「仁王君。」

柳生に襟を掴まれたまま仁王はまだ抵抗していた。

「……だって、俺のキャラじゃなかよ…。」

下を向いたままぽりつと言った仁王にコート越しに柳生がキレたのが分かった。

「プリピヨペテンの貴方がこれ以上何のイメージ崩壊があると言うのですか?今更エクスタシーの一つや二つ連呼した処で今後の人生において全く支障は無いと思いますが。それとも取るに足らない自尊心の為に三連覇を犠牲にする程仁王君は素晴らしく優秀なのでしょうね、そうとも知らずに御無理を言って申し訳有りませんでした。」

無表情で一気に捲し立て柳生に仁王はブルブルと震えながら、なんとか立ち上がると、

「…、ンー、エクスタスィーっ!!てやっぱ恥ずかしいナリ〜〜っ!!」

言い終わった瞬間柳生を振り切って走り出した仁王はそのままコートから出て行った。

「仁王君、やれば出来るではないですか。」

て感激のあまりハンカチで目元を拭いている柳生に悪いが、お前、仁王に似てきたぞ。

これから一週間後に仁王の白石イリュージョンは完成するが、最後まであの決め台詞を恥ずかしがっていた。

逆にノリノリだった柳生が意外すぎて、幸村ですら微妙な笑いをしてた。

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