王者立海の本気のハロウィン


王者立海の本気のハロウィン



※10/29のチャット第二弾



「〜〜っ、仁王!!仁王は何処だ?!」

早朝の部室に副部長の怒声が轟く。

「…真田君、落ち着いて下さい。」

肩を落としてずり下がった眼鏡を押し上げる紳士はロッカーの中を見て浅い溜め息をつく。

「やってくれましたね、仁王君。」

その後に「さてどうしてくれましょうか。」と続き、後ろにいた癖毛の後輩を怯えさせていた。

「ロッカーの中身交換って…まじウケるんだけど…。」

ヒクヒクと肩と腹筋を震わせる神の子は肩からジャージが滑り落ちている。

「精市、あまり笑ってやるな。」

本棚から前年度の記録ノートを抜き取った参謀が苦笑いを浮かべていると、

「チィース!!菓子くれぃ!!」

赤毛が無駄に笑顔とウィンクを振り撒きながら部室に入って来た。

「バカ、違うだろうが…。おはようさん。」

その後ろから褐色の滑らかな頭がうんざりした様子で扉を閉めた。

「ハロウィンとはヨーロッパを起源とする、」

「お菓子がもらえ日!!」

「…収穫感謝祭だ。」

「ケルト人のお盆じゃなかったっけ?」

「冬至では無いのか?」

と真田は会議テーブルの上に大きいな鍋を置いた。

「出た、テンプレ皇帝…。」

「安定の天然発揮…。」

溜め息をつく幸村と柳も何のその、

「やったぁ!!あずきカボチャだぜぃ!!朝から元気マンタンじゃね?」

早速蓋を開けた丸井は顔ごと鍋に突っ込もうとするのをパートナーのジャッカルが止める。

「つか、まじにやるンスか…?」

不安げな顔で小首を傾げるエース切原に無敵の神の子幸村は、

「当然だよ、赤也。なんと言っても赤也と過ごす最後の中学生活に一つでも多くの思い出がほしいからね。」

「…幸村ぶちょー…。」

と感動の部長次期部長が手を取り合う場面だが、幸村の後ろに邪なオーラが漂うのは最早デフォ、溜め息をつく柳はイリュージョニストに声を掛けた。

「仁王、」

「分かっちょる。」

コート上の詐欺師はコートの外でも有効、参謀に名前を呼ばれただけでロッカーから大振りなレザー調のボックスを取り出す。

「ハイハイ、赤也独占禁止法じゃ。幸村、いい加減にしんしゃい。」

神をも恐れぬ所業、幸村から引き離した切原を椅子に座らせた。

「ふぇ?あ、ちょっ、なに…、こわっ?!」

追い剥ぎの如く制服を脱がせる仁王に戸惑う切原だが、最後の台詞はそれは眩しい笑顔で負のオーラを放出する幸村に向けられた事を本人は知らない。

「ひゃ?あ、…ふふ、気持ちわるいっす。」

無理矢理着替えを完了されて首にケープを巻かれた切原が、メイクを施す仁王の手から逃げようと体を捩っている。

「うわぁ…、やばい…、かわいい…、まじやばい…。」

「俺はお前が非常に心配だがな。」

交じりてぇーと神の子にあるまじきを発言までして切原を今まさに食い付かんばかり凝視する幸村を宥める真田が何の躊躇も無く甲冑を装着する事に理解に苦しむジャッカルへ柳辺りが解説してくれると助かるなんて丸井は思っていたりするが、

「やりぃ!ガム見っ…いでぇぇぇっ?!」

テーブルにあったガムを失敬した瞬間に強力なバネの餌食になってしまった。

「におっ?!てンめぇ…!!」

「今日は子豚の丸焼きもつくぜよ。」

パッチンガムを常備しているのは詐欺師しかいない、ハロウィンは仁王の為にある日だと言っても過言では無い程に今日の仁王の目は輝いている。

「うわわっ?!におせんぱっ、口はだめっす?!」

「いいから、俺に任せんしゃい。」

と幸村が地団駄を踏む横で冷静に録音する柳は心得ている、色々と。

「や、ら…、きもちわるっ…、へんなあじ…。」

「大丈夫じゃ、これくらいじゃ死にやせん。」

顎を押さえ付けられてリップブラシが滑る唇に切原は何か妙な感じがして来て、必死に仁王から逃げようとするが一年の内に何度も無いくらい使命感に燃える先輩には敵わなかった。

「よし、これで完成じゃ。次、真田!!」

「む、俺もか?」

小悪魔の様に涙目も愛らしい出来映えに満足する仁王は真田を指命した。

「せっかく鎧来たんじゃから、落武者メイクしてやらんとな。」

「いや、俺は…。」

「やって貰ったらどうだ?」

口篭る真田の背中を押す様に柳は仁王持参のメイクボックスが適宜拝借して肌に乗せて行く。

達人の二つ名に違わない鮮やかな手付きと極自然な仕上がりに仁王は面白くは無いが認めざる得ない。

「負けたぜよ。」

「姉が化ける様を毎朝見ていれば嫌でも覚えるさ。」

内心今日こそ参謀の鼻を明かしてやるチャンスであったが、それでも自分の出番が無い事が引っ掛かる仁王の背後で(げ、ウチの姉ちゃんもそんなんだ…)と引きつる切原の心情を誰か察してやって欲しい。

「あ〜!!赤也、おまっ、何舐めとんじゃっ?!」

初めての口紅に違和感がある切原は無意識に舌で拭ってた。

「真田、おまんもかっ?!」

こちらは男らしく親指の腹で拭っていた処を偶然振り返った仁王に目撃された。

「なんだお前ら!!俺の苦労をちょっとは考えろ!!つか、王者立海らしく化粧くらい我慢しろ!!男だろうが!!意地を見せろ、意地を!!」

やや関西方面の訛りはあるが急に標準語で叫んだ仁王に部室内が水を打った様に静まり返った。

「…仁王、普通に標準語を話せたのだな…。」

ここで天然の本領発揮、皇帝真田のお陰で張り詰めた空気が解除される。

「さ、て、と。みんな、Trick and Treat?」

肩やら袖やらに黒い羽根を纏う幸村の笑顔が最も輝いた瞬間だった。

「ゆ、ゆきむら…。」

一瞬見取れてしまっていたが呻く真田の声に六人は我に返る、何時の間にか幸村に踏み付けられる真田は甲冑の隙間を縫ってピンヒールが食い込んでいる。

それに素早くアイコンタクトを交わした三年生組は、

「幸村君、僭越ながら私からです。」

とインバネスコートに右手のパイプをそのままに幸村に差し出した左手の篭には卵が山程詰まっている。

「我が家特性のボイルドエッグはいかがかな?」

インバネスコートに鹿撃ち帽とくれば、イギリスが生んだ名探偵だ、柳生ならやってくれると信じていた。

「青春攻略本で茹で玉子て悪夢の再来?とか思うんだけど俺だけ?」

それ言ってはいけない幸村様、寧ろ殻剥き選手権とか黒歴史に近い企画だった。

「さぁ、貢げ。」

にっこりと、しかし確実に地獄の釜の蓋が開く微笑みの魔王降臨に、額を床に付かんばかりの魔法使いと顔は無傷なミイラ男のプラチナペアはそれぞれが自慢の菓子を献上する。

それを横目に茶の準備をするのは何処かアダルトの香りがする座敷わらし、幸運処か家庭内不和の種になりそうな妖しげな魅力満載だ。

「仁王。」

魔王が詐欺師に白羽の矢を立てると面倒臭そうに銀髪を掻きむしる吸血鬼は後輩に耳打ちをし背中を押して御前に捧げる。

「と、とりっく、おあ、…とりーと?」

恐る恐る左右を見回した後に上目使いで舌足らずにおねだり、彼の御子にはおねだりに見えたらしい、小悪魔がセットされた癖毛の先を揺らして固唾を見守っている。

その隙に技の無駄遣いと言われようが我が身大事に、総重量数十キロとも推測される甲冑を物ともせずに雷を発動し魔王のピンヒールから逃れた真田は漸くまともに息をする事が叶い、柳より茶を貰っていた。

「…ゆきむらぶちょー?」

反応を示さない先輩に不興を買ってしまったのかと切原が不安げに眉を下げたその時、

「あぁ!!もうなんて赤也は可愛いんだろうね!!もっといじめたくなるよ!!」

「えぇぇぇっ?!」

がっしりと抱き締めて頬擦りをする幸村に名探偵と吸血鬼のダブルスは互いを見合って肩を竦めた。

「あー、とりあえず、カボチャパイ食わね?」

「あ、俺カボチャシチューのポットパイだぜ。」

意外にも以心伝心する魔法使いとミイラ男がそれぞれ持参した保温バッグより大きな皿を取り出した。

「本式にジャック・オー・ランタンは白カブで作ってみたが、日本のカブとスコットランドのカブはやはり種類が異なる様だな。」

「水気が凄いな。懐中電灯でも入れるか?」

座敷わらしが紫の風呂敷が出してきた白い顔のジャック・オー・ランタンを珍しそうに眺める落武者に、

「そのまま煮た美味しそうですね。」

「顔が崩れてホラーぜよ。つか、これ乾じゃろ?」

有名菓子店のマカロンの包みを剥ぐ名探偵の隣でランタンの眼鏡部分を目潰しする吸血鬼はゼリービーンズと吸血鬼キャンディを机にばら撒いた。

「やだな、そんなチマチマした物じゃなくてさ。ホラ。」

「ちょっ?!ゆっ、幸村ぶちょぉぉぉっ?!」

小悪魔を抱える魔王は幼虫キャンディを七本投げ出し、気付けば一本口にくわえている物だが未だに頬擦りされる距離を保たれている小悪魔は半泣きだ。

「Trick and Treat!!今年は何して遊ぼうか?」

笑顔だけなら天使だと言うのに、それが魔王にしか見えないは完全に虫入り飴のせいだった。

※片霧さま・八雲さま・遥風さま・うりんさま
(気持ちは20111031 1120up)
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