前略 クソッタレの神様 いつから人は 俺を 神の子 と 侮蔑 するようになったのか? 俺は お前らの 理想の 玩具なんかじゃない | 大会後、検査入院する約束で、病室に入った。 渡された病衣に着替えたら即予備検査だと言われ、今夜から世話になるベッドに身を投げ出した。その時、けたたましいサイレンが近付き、最大音量になった途端ピタリと止む。 ──大丈夫だな と思った瞬間、俺はおかしくて腹を抱えて笑った。 俺さぁ?神の子なんてファンタジーでもそうないような笑わせてくれるアダ名を付けられておきながら、霊感ってものがさっぱりない。 むしろ天然皇帝の真田の方が野生の勘だか第六感が強いし、天然だからだろうけど。 俺なんて、いくら芸術的な絵を描けようが、所詮「芸術的」なだけ。 ようは審査員受けする絵が描けるだけの事。 それって意外と読書感想文が得意な仁王と一緒で、どうすれば賞を取れるかなんとなく分かる。 斬新な感想文を書く柳は自分で感想じゃなくて批評って自嘲してるけど、柳生に書かせたのかっていう優等生な仁王の感想文より新しい解釈をさせてくれる柳の感想文が好きだ。 つまりは、俺は優等生の絵って事。 絵だったら、丸井やジャッカルの絵が好きだな。 丸井はタッチが自由で色使いが大胆。 ジャッカルは一筆一筆が力強く生命感に溢れて、それを際立たせる単調な色。 大好きなはずな絵も優等生な俺。 まぁまぁ上ってだけ。 悪くはない、一度優等生の評価をもらえば何かと便利。 でもその便利な優等生が嫌いなのが柳生。 一番型にはまるのに安心してそうなタイプで、実は誰よりも型から外れたがってる。 冗談でも優等生なんてからかうとすんごい睨まれる。 だから良くも悪くも型にはまらない、はまれない仁王が羨ましいんだって。 俺は赤也が羨ましいかなぁ、なんだかんだ言っても一番おいしいポジションじゃない? 俺たちが一個上で弟みたいに可愛がってるだけかと思ったら、同級生にもクラスでも、みんな「赤也だから、仕方ないな。」ってなんでもやってくれるしね。 あいつは自分が思うほど上に行けなくても、周りが助けてくれる、それっぽく言ったそんな星の下に生まれたんだろう。 神の子って言えば、みんな神の子じゃないか。 天は二物を与えずで二物以上にみんなそれぞれ良いところをたくさん持って生まれてきている。 (なぜ、俺だけ…。) 耳の中にさっきのサイレンの音が残っている。 あの音は大丈夫の音。 これは死の淵に引っ掛かったような終わりの見えない入院生活で身に付いてしまったもの。 まだ歩けるうちは、下界が週末に浮かれているのを横目に、俺は休日はゴーストタウンのように静かな外来棟の二階の窓から搬送された救急車を眺めていた。 自分のすぐ隣に死があったせいか、他人の死も身近に感じられた。 長期入院の小中学生の為の院内教室は午前中で終わり、検査がない日はリハビリを兼ねて病院中を歩き回った。 大抵個室病棟の前に歩いた時、感じてしまう。 死の匂いと言うやつを。 嗅覚じゃなく、心が感じる物を脳内で勝手に嗅覚から感じたと判断してしまう。 それはどんな芳しい香りを放つ花にも敵わない甘美な香り。 そうとしか説明できないけど、鼻の利く柳にだけ言ったら、自分も説明はできないが何となく分かるってさ。 サイレンの音も、その延長だろうね。 嗅覚のついでに聴覚も目覚めたようだ。 これを丸井辺りに言ったら、また魔王だ、幸村様だなんてからかわれるんだろうな。 (それでも神の子よりはマシだ…。) 横を向いた時に頬に触れた糊の効いたシーツがまた憂鬱な入院生活を連想させて、振り切るように乱暴に髪をいじった時、ふと視界に入った天井の汚れが、身の程知らずも神の子と呼ばれる自分を嘲笑う人為らざる物に見えた。 (言いたい事があるならはっきり言え。) 聞きたくない音まで聞き分けられる耳でその「声」を聞いてやる。 どうせ言えやしないだろう? ただ見ているだけが仕事なんだからな。 今はまだ「見えない」。 だけどそのうち、いや、この入院中に「見える」ようになってやる。 (必ず見つけ出しやる…。) 人の名と存在を懸けて、「そいつ」を睨み据える。 幸村精市は、「お前」に屈したりしない。 神の子だからこそ、誰よりも人に拘る生への執着。 生け贄にされて堪るか。 俺は戦う。 今度も勝つのは俺だ。 (常勝立海。) 「そいつ」を睨みながらネクタイを緩めれば、試合開始の合図だ。 今度も笑って、自分の足で退院してやる。 ※幸村ブランケット柄から恋愛抜きの妄想 (20111002・特別版) [←戻る] |