それがはじまり
「俺さー、思ったんだけど。」
珍しく語尾を伸ばした幸村くんの声に、夢中になってた雑誌から顔を上げると、幸村くんは机に頬杖をついてぼんやりと宙を見ていた。
「気が付いたら何にもやってないなって。」
幸村くんの言うとこの「何にも」がよく分かんないけど、言われてみたら、なんかまだ胸の奥がどっかスッキリしてないのは分かる。
「だからさ、丸井。」
俺の半分残しておいたパピコを勝手にパキンとやって、
「青春しようと思うんだ。」
「……、青学にでも行くの?」
女子が喜びそうな満面の笑顔で言われても、意味がよく分からない。
とりあえず「青春」と名前が付く、今年優勝旗をかっ拐った憎たらしい学校を言ってみた。
あの時の悔しさを思い出して、魔王もとい部長モードオンになって、言い出した俺が容赦無くこき下ろされるが、とにかくこの暑さで頭をヤラたんじゃないかって発言をする幸村くんが正気に戻ってほしかった。
それに、一瞬でマジ顔になった幸村くんに(良かった、まだこっちの世界にいるぜぃ!!)って思いながら、きっと今食ってる葛餅をぶん盗られて、しばらく葛餅を食いたくなくなるような毒舌を浴びせられるんだろうなって覚悟した。
「何言ってるんだい、丸井。」
ホラ、来た。
俺は幸村くんと顔を合わせないように下を向いて、でも説教を聞く気はありますよな姿勢を作る為に雑誌を閉じて、銜えていた葛餅についていた楊枝を置いた。
「青学に行っても俺達の青春なんかある訳ないだろ?」
え?そこ?
なんかちがくね?
てか、マジ幸村くん?
仁王…と思ったが、あいつはサボった国語の小テストの追試のハズ。
「何が悲しくてこの暑いのに、ギオンショウジャノカネノコエなんか覚えなきゃならんのじゃ。」ってボヤいてたし。
「俺達立海は、立海にしか出来ない青春をしようと思うんだ。」
「……はぁ?」
ゴメン、幸村くん。
それしか出てこないわ?
たまーに、たまーにあるよな、幸村くんのスイッチが入るの。
普段の魔王って言うか部長モードは従わなきゃなんない何かがあるけど。
この妙なスイッチが入った時は、唯一の幸村くんストッパーの柳でも止められないって、止める気がない。
だいたい柳は部長モードの幸村くんなら、データの対抗心からか幸村くんを制御してみようって積極的に幸村くんと関わるけど、このスイッチが入った時には柳は徹底的に傍観者で幸村くんと巻き込まれた俺らを楽しそうに見てるだけなんだしよぃ?
今の幸村くんに積極的に関わりたがるのは赤也と仁王くらいだな。
巻き込まれタイプの真田とジャッカルで、イヤイヤ言いながら悪ノリする柳と柳生と、なんだかんで楽しい事をやめられない俺。
幸村くんはやるって言ったから、やるからな。
部長って立場とか抜きにしても、純正ジャイアニズムだから、言う事聞かされるのが目に見えてるし。
って思ったら、幸村くんがジャイアンなら、のび太は真田だったりするのかよぃ?
あそこは幼なじみらしいから。
そしたら、随分とえらそうなのび太と、巷で噂のキレいなジャイアン略してキレジャイを越える神ジャイじゃね?とか思ったら、俺のポジションはなんだろ?
真田のドラえもん役は柳だし、デキスギ君は柳生で、スネ夫って、ウチ金持ちキャラいないし。
ましてや、真田のしずかちゃんなんて知らねぇよぃ?
ってか「学生の分際で色恋等たるんどるっ!!」って言うだろぃ?
じゃ、残りはドラえもんズからチョイスか?なんてマジに考えながら、
「いいよ。青春やろうぜぃ、幸村くん。」
って言っちゃってたりして、俺もまだまだ遊びたい盛りな中学生なんだなって笑ってた。
(20100724)
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