立海大附属男子テニス部御一同様〜なるほどBIRTHDAYじゃねーの編
四時間目終了のベルが鳴り終わった瞬間に校内放送のぴんぽんぱん。
こんなにせっかちなのはあの教師しかいないなぁと思ったら、
『硬式男子テニス部は大至急全員玄関に集合、繰り返す…』
意外も意外、集会しか見ない校長だし。
いつもの貫禄台無しに声上ずってるし。
しかもテニス部全員集合だし。
玄関前集合ってなんだ?
今日のBランチは鮭フライ定食なのに、弁当持って来なかったから残ってるといいなぁ?
というか、なんで昼休み始まって直ぐなんだ?食べ終わった頃か放課後にしてくれ。
二時間目体育という試練を乗り越えた日の昼食がどんなに大事が分かってないようだね。
「精市、」
「弁当持参?」
廊下を出た途端、静かに並んだ柳は数冊の本と弁当を持っていた。
「何時に終わるか聞いてないからな。」
少し刺のある言い方に思い付きのミーティングはいただけないなと含んでる。
月始めだから図書館でゆっくり新刊を物色したかったってとこかな?
「俺だって驚いているよ。顧問か何かじゃない?」
周りにいい顔したくて、顧問面して勝手に選抜やら何やらに参加申し込みするなら辞めてもらいたいよ、本当に。
「まだ顧問替えられないの?」
「今年度限りと打診されたが、どうだろうな。」
赤也達二年のメンツじゃ、あの日和見三下古狸を御せない。
俺達の卒業と一緒に顧問替えないと。
それ程までに鮭フライ定食の恨みは深い。
「ゆっきむらくーん!ミーティングとか聞いてないよぃ?」
「…今日、購買なんじゃけどのう?」
渡り廊下で体育帰りの丸井と仁王に会うなり文句つけてきた。
お前らアレな、月一恒例の砂ぼこり地獄・用具室の掃除決定。
「顧問の差し金らしい。」
溜め息と一緒に吐き捨てた柳に、仁王の眉間が、丸井の右の頬骨辺りが不自然に動いた。
「ナニ?今年の祝賀会おっせぇし?」
「焼き肉に決まりじゃな。」
去年の全国優勝祝賀会をファミレスで済ませた罪は重い。
という丸井じゃないけど、ホント昼メシの事しか考えられないくらい腹減ってる。
朝カッコつけてクロワッサンだったから、真田じゃないけど朝は米だね、うん。
と一人で納得してたら、学校ジャージが全く似合わないA組二人が先に玄関前にいました。
真田と柳生が体育館より玄関前にいて、なんでチャイム鳴ったばかりに体育館から一番遠い校舎にB組二匹がいたのかな?を込めて、紅白コンビを睨むとわざとらさく口笛吹く豚と携帯いじる白髪。
お前ら途中でバックレただろ?
悪臭地獄のトイレ掃除も追加。
「うぁぁぁぁん!!ゆぎむらぶちょぉぉぉぉ!!」
「…赤也、鼻水つけないでよ。」
半泣き鼻水たらしの赤也に他の二年の目が寒い。
こいつに次期立海を任せられるのか不安なのは三年の俺達も同じだから。
「ホラ、赤也。鼻を拭け。」
「やなぎざぁん…。」
しっかり俺のブレザーに鼻水をつけた赤也は柳にぐりぐり鼻を拭われている。
俺のブレザーどうすんだよ…と思ったら、レーザービームの早さで差し出されるハンケチ。
「…いや、鼻水だよ?赤也の?」
「さすがに汚したままではいけないでしょうから。」
キラリと光る眼鏡の柳生はどうやって赤也を可愛がるか満々だ、御愁傷様。
「話を進めてもいいですか?」
不機嫌そうな声の方を向くと、逆光できのこシルエット。
「あー?!丸井クンだC〜!!」
ぴょこんと飛び出したクリクリ頭が丸井に抱きついた。
「っえ?ジロくん?なんで、ジロくんが?」
驚いた丸井がガムを飲み込みそうになりながら、なついてる芥川をあやしてる。
なんで氷帝の芥川が?と首を傾げたら、
「幸村さん、これをどうぞ。」
ズバンと差し出された封筒には立海大附属男子テニス部御一同様、裏返すと差出人には跡部。
使いは芥川ときのこシルエットこと日吉…、なんでこの組み合わせ?
「…というか、跡部?…なんで君達がここにいるの?」
跡部からの招待状らしき物も分からないが、時間は前後しても氷帝も授業あるよね?
授業抜けて他校招待する程テニス部凄いの?跡部が凄いの?
「今日は跡部さんの誕生日ですが。」
「‥‥‥」
何当たり前の事聞いてるんですか、その頭は飾りですかという君の心の声が聞こえる…!!
目は口程に物を言う。
立海にはいない惜しい人材だよ、日吉…。
「精市。」
「いたっ?!」
俺の心の声が漏れたのか柳から背表紙チョップを食らい、真田が俺の半歩前に出て、
「しかし、我々は午後も授業だ。いくら跡部と言えども他校の授業編成に干渉を出来まい。」
そうだ、鬼の風紀委員長もっと言ってやれ。
本日は通常授業で午後もしっかり授業、ちなみに入院の分だけ俺は出席数危うい。
更に腹も危うい。
鮭フライ、鮭フライ。
「校外活動の許可を貰いましたが、跡部さんが。」
「む…、」
勝ち誇るように嘲笑う日吉の「跡部さんが」の言い方…!!
真田もそんな生意気きのこに負けるな!!
「精市、これで少しは落ち着け。」
わざわざ柳がくれたのど飴に不満があるが、空腹には代えられない。
包装を破るのももどかしく、口に入れると同時に奥歯でガリガリ噛む。
「行きますよ、芥川さん。」
「丸井クン、早く早く〜。」
「え?ジロくん?…幸村くん?」
全く先輩を顧みない日吉は招待する側の俺達にも気遣いゼロで、無邪気な芥川は丸井しか興味ない…。
「え…、あ…、その?」
「丸井くんのために、跡部にケーキたくさんお願いしたC〜!早く一緒に食べたいな〜?」
上履きのまま引きづられる丸井を見てたら、何か悟った顔の柳に肩を叩かれた。
やけに重々しく短い息を吐いた真田は下足箱から靴を取り出そうとしたら、
「ジャージでいいのでしょうか?」
と柳生の素朴な疑問に、同じジャージ着用の二年達が素早く顔を見合わせて「じゃ、そういう事で!!」とバックレたっ?!多分バックレた、絶対バックレやがった。
神の子だからってキングの生け贄にしてんじゃねぇぞと思いながら、逃げ遅れないようにと動き出した他の下級生達を手近な所から捕まえた。
「痛いでヤンス〜↑」
「勘弁してください、マジ氷帝だけは…、」
浦山と二年の部長候補を確保したから良しとしよう。
柳も赤也を確保したまま、もう一人二年を、仁王も次期レギュラー二人を捕まえて来た。
「俺だって氷帝には行きたくないでヤンスよ?」
「…幸村部長には似合わないで、痛いでヤンス↓」
せっかく本音を言ったのに生意気を言う浦山の耳を引っ張ってから、靴を代えて外に出ると玄関前に横付けされた氷帝テニス部特別仕様車。
それだけでも目眩がするのに、無愛想なきのこに促されて中に乗って後悔する。
車内にシャンデリアって…。
移動する応接室状態で柳も開眼して観察してたけど、庶民で小心者の俺達は小さくなって座ってるしかなかった。
それを鼻で笑ったきのこ!!
招待先にバーベキューコンロあったら真っ先に焼いてやるからな!!
無駄に豪華な車内でお通夜空気を貫く事一時間、ここは日本かと思うような車内からは最上部が見えない門に到着。
氷帝に向かうと思ったら、アトベッキンガムでした。
学生だから制服でいいのだろうけど、…赤也の鼻水付きで本当に申し訳ない。
自動開閉の大きな門の下を氷帝バスで通り、これまたやけに背が高い観音扉の前で下ろされる。
全員が降りたタイミングで両側から開く重厚な木の扉に、俺は、いや俺達はこれが現実なのか夢なのか分からなくなっていた。
その開かれた扉へ続くのは異世界で間違いなく、赤い絨毯に並ぶ本物メイドさん達の完璧なお辞儀に今すぐ自分の頬を叩いて目を覚ましたくなった。
いっそ回れ右してダッシュで逃げようかと思ったその時、
「ようこそ御越しくださいました、幸村様。立海大の皆様。」
と魔法のように現れてお辞儀する執事さん…。目が死んでると思われる柳がきのこ使者から貰った招待状を渡すと、
「景吾様と御学友の皆様がお待ちでございますよ。」
頭を下げたままの執事さんに促されて走り出すのは丸切お子さまコンビ。
分かる、お前らの気持ち・状態がよぉく分かる。
午前授業終了から一時間も昼飯待たされた挙げ句に、ビュッフェを見せられたら丸切じゃなくて仁王も走る。
走るなと怒鳴りそうになって止められた真田や柳だって早足だよ。
どんだけ焦らしプレイだ、比嘉もいるよ…前日入りさられたの?
色とりどり料理の匂いにテーブルに引き寄せられるが、その前に招待してくれた跡部に文句の一つでも添えたお祝いでも言っておいた方がいいかな?と本日の主役を探したら、本当に「本日の主役」のたすきをしたキングがいたよ…。
円錐の紙帽子に鼻眼鏡…いかにも百均で揃えましたテイストでいいのかに目眩がしてきた。
しっかりしろ、精市。
お前は王者立海の部長だろ?
あんなの庶民氷帝組の仕込みだ、跡部の後ろで腹抱えてる奴らを見ろ。
心を無にして跡部へ一歩踏み出す、が止めた。
忍 足 が 二 人 い る
「やっぱり跡部家の料理と言ったらローストビーフなのかな?」
氷帝の忍足は好き嫌いで人物評価する程は付き合いはないが、部員ならば誰とは言わないがチョロっとしたプピーナとトレードしてほしい選手だ。
「フィッシュ・アンド・チップスがあるぞ、精市。」
俺は忍足の隣にいる忍足らしい忍足が苦手なんだ…。
「柳が揚げ物とかめっずらしい?」
本物忍足が泣いて「キャラ壊さんといて…」って言ってるし…。
「珍しいとは心外だな。朝鍋すきだった身にはこの程度の揚げ物で満足はしないぞ、また増えたな。」
柳の視線に釣られて振り返ると忍足が三人になっってた。
「てか、跡部も部活の後とは言わないけど、せめて放課後にしてほしかったよ、…増えたね。」
姿勢がよくて紳士的なスマイル、中身が誰かよく分かる。
これには忍足が喜んでる。
「イギリスの代表料理であるフィッシュ・アンド・チップスを山葵のソースでいただくの良いものだ、な?」
二度見した柳なんて本当珍しい日と思ったら、四人目忍足登場。
「ワサビだけじゃなくてコレしょうがも入ってるぜ?」
妙に神妙に話に入ってきたジャッカルもレアだけど、あのちょっと地黒で独特の立ち姿って…?
「生姜もか?その割りに味も匂いもないようだが?」
髪下ろすとあんな感じなんだな…、ふーん…。
「隠し味ってカンジじゃね?さすが商品化しようと考えてるとこはちがうな。」
「は?商品化って何?!」
「俺は〜い〜や〜じゃ〜!!」
目の前で黒服さん達に連行される仁王よりジャッカルの商品化発言に驚きだよ?!
「ん?あぁ、テーブルにあったぜ。」
お皿を置いたジャッカルがA4の用紙を俺と柳に配ってくれた。
「ふっ…、そういう事か。」
細く笑んだ柳の隣で渡された紙を読んだら、各料理についての細かいアンケートを取っていた。
系列のファミレスで出す冬の新メニュー候補が本日のお誕生日会の料理らしい。
学校に圧力?かけて拉致同然にバースデーパーティーに連れてきて、タダ飯食わせるだけで済まさないというのが、若干15歳で経営者でもある一面を見せられたよ。
忍足が猫背の仏頂面な五人目、背が高いのにオーラが地味な六人目と増える中で奇妙な目で見るも、笑いが耐えきれないキングは学校を越えたたくさんの友人達に囲まれてとても嬉しそうだ。
「俺もそろそろ跡部に挨拶しに行かねば…、」
「まだ忍足増殖劇場は続きそうだから、食べ尽くしてからでいいんじゃない?あ、でもアンケートは書けよ。」
ここにも箸を置いて跡部の元に向かいたそうな友人へ回答用紙を渡して、俺は帰りにでも呼んでくれてありがとうと言っておくかと鮭フライを皿に乗せた。
(20131012・'13跡誕擬き)
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