短編


白熱!王者立海大円周率激闘論!!


部室のドアを開けると何やら室内に熱気が隠っていました。

確かに今日は動くと汗ばむ陽気ではありましたが、それとは少し異なるようです。

そして珍しく真剣な顔をした仁王君が柳君と対峙していました。

これはダブルスを組んだ二人の意見が分かれた、と見るべきでしょうか?

「柳生が来たか。」

私に気付いた柳君は穏やかな、しかし勝利を確信した微笑を浮かべると、

「来て早々済まないが、この中で一番好ましいのはどれだ?」

と柳君の細くしなやなか指先が差すそれとは…。


『あなたが好きなおっぱいは何番?
これであなたの趣味が分かっちゃうゾ』


とはしたない見出しの下には、扇情的なポーズを取る水着のお姉様方。

恐らく仁王君が持ち込んだのでしょうねぇ、テニス部員以外にはその本性を隠すおっぱい星人ですから。

仁王君に成りきる為に何度乳房が肥大した女性が好きだと自分の心に嘘をついた事やら…、あの時のやりきれなさを思い出して無意識に眼鏡を押し上げていました。

「この中でと言われたら、一番ですね。」

私の答えに満足する柳君、当然です。

乳房とは脂肪の塊、肝心なのは大きさではありません。

「しかし私としてはこのような成人されたグラビアアイドルの方よりも、微かに膨らみ始めた自分の胸部に戸惑う年頃の女性の乳房が好きです。」

日々成長し変化するご自身の体の形や反応についていけずに翻弄される表情を間近で見つめたいものですね。

「ふむ。」

顎に指を添える柳君はやはり分かって下さいましたか。

「ならば青学の竜崎辺りならばどうだ?」

聞き覚えのある名前に仁王君はつまらなさそうな顔をして左手を振りながら、

「ババアは無理じゃ。」

「あ…、俺、なんか新しい扉開けそうな気がしてきたかも…?」

対して恍惚な表情をした幸村君は開けてはいけない事はないでしょうか、まだ若干早い扉を開けてしまいそうです。

まさか、幸村君まで巨乳派とは…。

「ゆっ幸村ぶちょっ?!その扉はダメッス?!ねっ?!真田副ぶちょっ?!」

慌てて幸村君の目の前に手を翳す切原君は真田君に助けを求めますが、

「…うむ。幸村、人妻はいかんぞ?」

どうもピントがズレていますね、いつもの事ではありますが。

「おまんがロリコンとは、とんだ紳士だな、やーぎゅ?」

「おや、何の事ですか、仁王君?」

急に矛先を私に向けられても、柳君との勝負はつかないでしょう。

「中三と中一では極普通の男女交際だと思うが?」

チラリと視線を送る柳君に仁王君は面白くなさそうに鼻を鳴らして、

「あいつは越前一筋じゃからの?柳生の勝ち目はないぜよ。それともオカズ目当てにストーキングするか?」

…そう、来ましたか、確かに越前君相手では私の勝ち目はありませんね。

ストーキングとはまた高度な恋愛術を持ち出しましたね、部活と塾通いの私に愛らしい三編み少女を見詰めて堪能する時間がない事をあなたが一番分かっていると言うのに。

ですがオカズ目当てなどと私だけではなく、我が心のミューズである桜乃嬢を貶める発言は許せませんね?

「やっぱりあの長い髪をほどいて騎乗位でラプンツェルプレイ?」

「髪はそのままで結構です。むしろほどけないようにきっちりと結っていてほしいです。」

ラプンツェルプレイはいただきますね、幸村君。分かってらっしゃる。

そしてソックスも履いたままで、勿論白です。

「ラプンツェル、」

と呟きながらノートに書き込む柳君も分かって下さいますよね。

「ちょっ、におーせんぱいっ?!なんか押されてますよ?!」

と言う切原君ですが、何で競っているのですか?

「巨乳・爆乳・超乳、大きいけりゃ大きい方がまーくん大好きナリ。」

いえ、仁王君も…、そのように格好つけられても言っている事は非常に情けないですが?

「超乳と言うより長乳だがな。」

憐れむるような、それでいて自虐的な眼差しをしる柳君、私は分かります!!長乳の意味を!!幼少に実物を目の当たりにしたトラウマを!!

「あー、確かに垂れた乳はナシだろぃ?」

例の写真集を数枚めくる丸井君は机に頬杖をついて、

「巨乳もいいけど、俺は顔重視だぜぃ!!」

…丸井君、余りにもそれは…、女性のみならず全人類を敵に回す最大級のタブーですよ。

「ブーちゃんは自分の乳でも揉んでらっしゃい!!」

「んだぉ?!パット入りも見抜けなかった皮かぶりチョロ毛がっ?!」

どこまで豊満な乳房に重点を置く仁王君は丸井君の発言は許せませんし、詐欺師の名折れになったあの事件を丸井君が見逃す筈がありません。

「Bカップ男子!!」

「偽ぱいぺぺん師!!」

「あの二人は落ちたね。」

ふと表情を改めた幸村君に無意識に背筋を正しました、これで終わりと言う訳にはいかないようです。

「蓮二は貧乳好きって分かったけど、さすがにこっから校舎に向かって言えないよね?」

絶対的威厳を漂わせながら微笑む幸村君はまさに神の子、誰も彼には抗う気すら起きないでしょう。

しかし今回は相手が悪かったようで、同じく三強の一人であり、達人とは別に参謀と恐れられる柳君はこめかみを引きつらせ、うっすらと開眼をしました。

一気に室内の温度が下がったと思いましたら、突如柳君は窓を開け放つと、

「ひんぬー最高!!」

「やなぎぜんばぃぃぃ〜っ?!」

いやぁ、ご自身の信念の為に何の躊躇もなくデータを捨てる柳君の姿は素晴らしいですね。

しかし切原君、君がそのように過剰に柳君になつくので、あらぬ誤解が生まれるのですよ、我がテニス部全体に。

「…つか、柳、お前キャラいいのか?」

「これで異常に憧憬を抱く女子から解放されるのであれば、何度でも貧乳が好きだと声を大にして叫ぼう。」

真顔かつ開眼な柳君に冷や汗を浮かべて後退する、自他ともに認めるグラマー派の桑原君は知らないのですね。

帰宅中の電車内で豊かな胸部を押し付けられると同時に不快な甘さを嗅がされる柳君の苦痛を。

不快感をもたらす香水ほどの個人テロはありません、押し付けられるのは若干、多少、万が一的にも羨ましい気もしないでもありませんが。

おっと、これはいけませんね、私とした事が。

自分の中にある理念に反する欲求を皆さんに知られないように顔を覆う振りをして眼鏡を押し上げた時です。

「おう!!おう!!ロリコンどもが!!ちょっと真田言ってやって!!」

絡み口調の幸村君はあくまで真田君なのですね。

そしてロリコンではありません、中学三年の現時点で理想の女性が中学一年なだけです。

「ハッ!!女子がTシャツになっただけで真っ赤になる弦ちゃんにナニが分かるんじゃが?」

と鼻で笑った仁王君はどうしてそう他人を無駄に煽るのですか?

「ぬかせ!!男ならお椀型に決まっとる!!」

仁王君がそうだから、真田君も…、また君と言う人は…。

何故ご自慢の赤い褌姿になって絶叫する必要があるのでしょうか。

真田君の後ろでお腹を抱えている幸村君もこれを期待していたとは、神の子のお戯れも過ぎますよ。

「ふっ、所詮精市と言えども羞恥心があるか…。」

あくまでも優雅な見返りで他者を見下す微笑を浮かべた柳君にあからさまに顔をしかめた幸村君は、

「羞恥心?そんなもん、神の子と呼ばれた時に捨てたね!!」

とウェアを脱ぎ捨て無暗に半裸になるところを見ますと、それ以外の多くの物も捨ててしまったようですね…。

「赤也!!」

「うぇっ?!はいぃっ?!」

まさか自分にお鉢が回ってくると考えもしなかった切原君は毛を逆立てた猫のような驚き振りを見せます。

「次期王者立海の部長としてどんなおっぱいが好きか言ってみろ!!」

「えぇ〜っ?!ゆきむらぶちょっ、」

「言え。」

ここまでまた絶対部長主義の完全服従なのですね、しかし次世代の立海を背負う宣誓の代わりに好みの乳房を白状させられるとは…。

なんだかんだ言ってもまだ幸村君も中学生なのですね。

ですが、切原君は徐々に赤くなる顔で視線をあちらこちらに飛ばしながら、

「マシュマロみたいに柔らかくって…、ミルクみたいな甘い匂いがして、…ちょっと手のひらからはみ出す、…おっぱいが大好きッス!!」

しっかりと次期部長としての宣誓をしました、現部長の言いつけを守る姿は微笑ましいですね。

「赤也、それって…、」

「プリッ。」

ガムを膨らまし損ねた丸井君を笑うかのように仁王君は顔を反らし、幸村君は聖母のような微笑みを浮かべますと、

「ママのおっぱいでもしゃぶってな。」

「え?」

きょとんとあどけない顔をした切原君にはまだ早かったようですね。


※ヨメさまに捧ぐ

(20120520献上・0617UP)
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