短編


例えば明日の事も分からないのに


明日から本格的な学校の前に遊んどくかって話になって、ボウリング2ゲームじゃバカ騒ぎたりないから、まぁ無難にカラオケ行っとく?な流れで。

みんなノリノリなんだけど、なんでか今日は俺乗れなくて。

予約限界まで入れて、一曲でも空かないように競って入れてんだけど、どうも今日の俺はダメで。

真田が先走りすぎてバレキス歌ってるのを聞き流しながら、端末で曲を選ぶ振りをした。

「丸井、なんか飲む?」

「んー、別にいいや…。」

隣に座った幸村がグラスの氷をカラカラ言わせてた。

「珍しいじゃん?」

「なにが?」

「丸井が落ち込んでるの。」

落ち込んでんのかな、俺?

「…よく分かったね。」

ま、幸村くんなら当然か?

「ん、」

なんでか急に恥ずかしそうに空に近いグラスを口に付けた幸村くんは、

「友達だからかな?」

て俺に微笑んできた顔はかっこいい、美男子だ、正統派美形。

ちょっと前まで美少女だったのに。

こういうのが大人になるっていうのか?なんて思ったら、そんな幸村くんに寂しくなった。

「友達にも言えない悩み?」

無理に茶化してる幸村くんに申し訳なくって、俺は冷たくなったフライドポテトをくわえて、

「いつまでこうしてられんのかなって…。」

例えば、五年後。

五年後の今日は成人式なワケだ。

その時にはみんなバラバラな進路だ。

「とりあえず、みんな立海でしょ?」

赤也の手を叩いてチキンを奪った幸村くん。

「高校でテニスやるなら、後三年は一緒だね。」

豪快にチキンをかぶりつく幸村くんは男らしい。

スーツとかめっちゃ似合いそう。

「俺…、」

「なに?」

「まだ可愛い系?」

メイド服とか天才的?

「カッコカワイイ系。」

軟骨をガリガリやる幸村くんはやっぱ魔王系。

「丸井もね、」

幸村くんはナプキンで手を拭きながら、

「二年くらいまでは後ろ姿も女子かなぁ?って見分けがつけられなかったけど、今じゃ立派にイケメンの仲間入りだし。」

…正統派イケメンの幸村くんに言われるとへこむんだけど?つかこの状況で俺の日本海泣けてくる。

「アレだよ?丸井も男になったなって気付いた時のショックは、妹に初潮がきた時と同じくらいの衝撃だね、うん。」

「‥‥‥」

俺にはいまだに幸村くんからそんな例えが出るくる方がショックなんだけど、幸村くんも男って証拠か…。

「もしかして、今から成人式の事考えてるとか?」

「…ビンゴ。」

ホント、幸村くんには敵わないんだけど?

俺はポッキー三本を口につっこんで、

「なーんかさ?成人式に行く人たち見てたら、いつまで俺らこうしてられんのかなって…。」

一応、みんな附属高校行くじゃん?

でもその先は別々だろぃ?

分かってるだけで柳生は医学部のある大学で、柳も立海大には行かない言ってたし。

そんな俺も弟いるから私大どころか大学は微妙な顔されたし。

そしたらさ?

こうやってバカやってらんのも今のうちだけじゃないのかなって。

そう思ったら、この瞬間がすんごい偶然で、超レアに思えてきて。

すんげぇ楽しい!!って単純に思えなくなってきたワケよぃ…。

「明日の事なんか分からないのに、五年後なんて分からなくて当たり前だろ?」

そう言った幸村くんもポッキーをくわえて、腕を組んで背中をソファーに預けて、

「とりあえず、英語の課題やった?明日提出厳守らしいよ。」

「まじっ?!」

そりゃやべぇだろぃ?

一応埋めたけど、未提出だと容赦なく減点だからなぁ…、チョロ毛大丈夫か?

「見せてやろうか、DVD一本で?」

「…仁王に言ってやって…。」

頼むから笑顔とセリフが釣り合わないのまじ止めて、幸村くん…。

「でもさぁ…、」

天井を見上げた幸村くんはポッキーを口から離して、

「本当に五年後もこうしてみんなと会えんのかな?」

レーザービーム打ちまくってるペテンコンビの歌声が遠くに聞こえる。

上を向いて幸村くんの目に照明の明かりが反射してオレンジに見えた。

それがなんだか知らない人みたいで、俺はポップコーンを口いっぱいに放り込んでいつのまにか隣にいるジャッカルに話しかけようとした。

「ゆっきむらぶっちょ〜!!」

歌待ちの赤也が幸村くんに抱きついてきた。

胸のとこでごろごろして犬みたいなやつ。

「何甘えてんの?宿題は手伝わないよ。」

「ちがうッス!!」

くしゃくしゃの髪を撫でられてくすぐったそうにしてる赤也は俺の膝をバンバン叩いて、

「明日もみんなとテニスできると思ったらうれしくって。」

なんて言うからさ?

俺は「痛ぇてよ、バカ也。」って言えないし。

幸村くんも「もう部長じゃないだろ。」って言えなくて。

思わず幸村くんと顔を見合わせて苦笑いしてた。

「お、赤也。焼きそば食うか?」

て空気読まないジャッカルがカラアゲの乗った焼きそばの皿を赤也に差し出した。

「食うッス!!」

「いや、俺が食うし。」

「カラアゲいただき。」

赤也より先に取った皿から幸村くんにカラアゲを奪われた。

「ちょ、幸村くん?!」

「幸村ぶちょぉの鬼!!魔王!!」

「あー、あー、お前ら!!まだカラアゲはあるぞ。」

笑顔で睨む幸村くんにジャッカルは大皿を俺と赤也の前に持って来た、カラアゲが遠くなった仁王がマイクを離さないけどふてくされてる。

「幸村ぶちょ〜、あ〜ん?」

「やれやれ、手間のかかる後輩だね。」

て言ってもちゃんと赤也の口にでっかいニンジンをつっこむ幸村くんなワケで。

真田が一口で飽きたらしい小倉パフェを取ってきたジャッカルは俺の前に置いてくれて、

「明日って普通でいいのか?」

「知らね?柳に聞かないとなぁ…。」

明日集会あんだけど、始業式はやったから何の集会?

学年集会だったら午後からだし、朝練があんのかもどうか聞いてないし。

明日のことも分からねぇのに五年後のことなんか知るかって話だろぃ。

あ、でも。

「数学見せろよぃ、ジャッカル!!」

(20120110)
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