社会の窓論争
部活が終わって着替えながら、気になってたことを言ってみた。
「なんでぱんつに社会の窓がついてンスかね?」
隣のロッカーの丸井先輩に聞いてみたら、なぜか部室中が静かになった。
「なんでって、そりゃぁ…。」
丸井先輩はウェアを脱いでから真顔で言った。
「ちっこするときにぽこちゃんを出すためだろぃ。」
「……、」
俺は考えた。
ちっこ→おしっこ。
ぽこちゃん→丸井先輩んちではちんこをぽこちゃんと言うみたい。
つまりだ。
「排尿の時に排泄器官を露出する為の切り込み?」
「柳意識しただろぃ、バカ也。」
「あー、バカッスよ?それがどうしたッスか?」
俺なりに尊敬する柳先輩っぽく難しい言葉で綺麗に言ったのに、いつのもようにバカあつかいだ。
「うわっ?!ムカつくっ?!マッジに!!ムカつく!!なぁ、仁王っ?!」
逆ギレした丸井先輩は意外にたるんでない腹を出したまんま仁王先輩に振った。
「赤也、社会の窓には人間が雄から男を勝ち取った叡知の結晶なんだ。」
「…え?柳先輩のマネッスか?」
真顔の仁王先輩って変。
「柳君なら言いそうですね。」
と仁王先輩の隣の柳生先輩がきっちん七三に分けながらフォローしてた、てかしないでほしかった。
「てか、仁王先輩の微妙なイリュージョンはいいンスけど、」
「酷いナリ!!赤也、明日覚えときんしゃい!!」
「ぱんつに窓ついてるッスか?俺いっつもついてないのばっかりだから、今日のは初めてで…。」
「んんー!!エクスタスィーッ!!」
「仁王先輩の潰すよ?」
「残念ですが、私でした。」
「プピナッチョ。」
「お前ら漫才できんじゃね?ホラ、四天宝寺のホモルスに勝てるって。」
…あの、誰か止めてくれないッスかね?
なんでよりによって、ペテンダブルスとブタなんだろう?話が進まない…。
「まーくんは窓からコンニチハ派ぜよ?」
て突然仁王先輩が変なことを言い出した。
「あー、だよな?なんでだっけ?すんげぇ、笑える理由があんだよな?」
ワイシャツ着ながらガムの包みを開けた丸井先輩が会議テーブルに座りながら言った。
「真剣な理由じゃき。おとんって時期になると忙しいから便所に行くときもノーパソ離せないくらいで、便器のちょっと出たとこにノーパソ置いて片手で簡単に出し入れ出来るように編み出した結果が窓からコンニチハなんじゃと。たまに仕事に夢中になって出しっぱで便所から出ても、気付かれない。」
「敢えてやっていたら、新しい自分よ、こんにちはですね。」
…誰だよ、この人、紳士とか言い出したの。
「だからディスクから立ち上がる時に、おっ?!出てた?!ってファスナー閉めんじゃと。」
「で皮挟むんだろぃ?」
「ぶーちゃんは腹の皮だけどな。」
「ムカつくっ!!てか今てめぇ、皮余ってるの認めたなっ?!」
バカでガキな3Bはおいといて。
「…あの、柳生先輩…?」
この人に聞いても答えてくれんのかなって不安はあるけど、3Bよりはマシな答えはしてくれそう…。
「私も切原君と同じく窓がないタイプを着用しますので、必然的にそうなりますね。」
「…てか、普通、こう下げるッスよねぇ?」
ぱんつ下げて、だるいときはゴムにひっかけたくらいにして。
だいたいにして、ぱんつに窓なんかついてねぇもん。
「母ちゃんが趣味で買ってくんのってやっぱビミョー…。」
て呟いたとたんに3Bがびっくりした顔で俺を見た。
「え?赤也、中学になっておかんぱんつかよ。」
「オシャレメンズの第一歩は下着からぜよ?そろそろ自分で選びんしゃい。」
とか言ってきたよ、誰がオシャレメンズだ。
「え?中学になったらぱんつって自分で買うもんなンスか?」
思わず柳生先輩を見上げたら、柳生先輩は眼鏡を押し上げて、
「親に養育していただいている身なので致し方ないと思う部分はありますが、出来ればそろそろ自分で選びたいですね。」
やった!!柳生先輩もこっち側!!
「でも柳生は塾行ってるからのぅ…なかなか自分の時間がないきね。」
ボリボリと頭をかく仁王先輩がそう言った。
「通販に凄い憧れを感じますね。ただ親に止められてるので出来ませんが。」
通販?!通販って響きがなんかドキドキする…。
「柳生って何気、ブランド物が多いじゃん、パンツとかも?」
「…母の趣味でして…。」
恥ずかしそうにまた眼鏡を押し上げた柳生先輩に俺達三人はなんかおおっ!!て新鮮なような優しいような気持ちになった。
「自称皮あまりの仁王先輩はなんでも自分で選びそうなこだわりの男なイメージがあるッスけど、」
「赤也、明日が命日ぜよ。」
「丸井先輩って、そう着るもんにポリシー持ってそうなイメージじゃないから超意外ッスね。」
「お前も皮を余らせてやろうか?」
「似てねぇし!!あまってねぇし!!」
しかも閣下のまねだよ、丸井先輩で閣下ってどんなコンボだよ?
「しかしよくぞ言った、赤也!!」
「自分の服にポリシー持っていなそうなイメージがですか?」
自慢げに腹を反らした丸井先輩を自称紳士が落とす。
「白ブリーフは黙ってろぃ!!」
「今日は紫のビキニですが。」
「ペイズリーが渋くてカッコいいぜよ?」
「ありがとうございます。」
…いや、話進まねぇ…。
紫って、アンタ、紫って、中学生がはきこなすレベルを突き抜けてるッスよ…。
あ、だから、紳士か?
「ウチ、チビ二人いんじゃん?親共働きだし、母ちゃんもパートが長いから責任者とかになってなかなか早く帰れなくなってさぁ?俺も洗濯とか簡単なヤツは頑張ってたけど、中学でテニス始めたら、やっぱ時間が足りないじゃんか?勉強もしなきゃなんねぇし。チビともスキンシップしてぇし。そしたら服数増やすしかないし、チビも俺も、俺も!!成長期だし自然と?でウチ親忙しいから自分で買いに行くワケ。」
ふーん、丸井先輩にも丸井先輩なりの事情があるんだ、でも丸井先輩は成長しないだろうな、腹以外は。
「おー、こないだシマムラーでブンちゃんとちびっこちゃん見たぜよ。」
「オシャレメンズがシマムラー行くのかよ?」
「俺はちびっこちゃんを見てただけナリ。」
うわっ、キモッ?!
仁王先輩、女にモテんのに彼女作らないのって、ショタ……。
「あ。」
「どうしましたか?」
またぐたらない言い合いを始めた3Bはほっておいて。
「社会の窓はどうなったンスかね?」
本当に聞きたいことはそれだったのにあの二人に関わるとまともな答えが返ってこない。
「ああ、あの窓の使い方はですね…。」
手招きをする柳生先輩に近付いて、囁かれた答えに俺は爆発した。
「きっ、切原君っ?!大丈夫ですかっ?!」
「ってぇ、また入れ替わってたのかよっ?!仁王!!てめぇっ!!赤也にナニ吹き込んだ…。」
まさか仁王先輩と柳生先輩が入れ替わってたとか、柳生先輩が本人越えのペテン師ぶりとか、柳生先輩につっかかる丸井先輩は珍しいとか、そんなのはどうでもいい。
誰か鼻血を止めてくれ、しかもなんか熱でそう…。
それよりなによりも!!
「大人になればわかりますよ。」
てドヤ顔の柳生先輩の仁王先輩を殴ってください。
(20110525)
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