無駄だらけの14歳のハロー・ワーク
仁王以上のエセ方言を許してネ
今日は自由練習日で、コートには部員が少なかった。
スクールで補強したり、塾行ったり、病院行ったり、まぁ、色々あるよねって感じの自由練習日だ。
真田が用があって休みたいって言うから、鍵を預かってる俺が部活に出る事になった。
いつもは練習に出る柳も柳生に誘われて模試に行ったから、まぁ、部長の俺しかいない。
間違っても仁王に預けたら、あいつ合鍵作りそうだし、丸切は遅刻が目に見えてるから預けられない、ジャッカルには…これ以上苦労かけさせるのも何だしってか、俺部長だし?な完全な消去法だ。
そんな感じで、今日の帰りにホームセンターで肥料でも買おうかなぁって考えながら、コートまで来た時だった。
「んーっっ、エクスタスィーッ!!」
……。
え?
空耳?空耳、空耳、空耳アワー的な?
俺はまだ眠たい頭を叱りつけて、フェンスの向こうを見ると、この辺では見掛けない制服を着た奴らがコートの中にいた。
エイプリルフールにしては遅いよって目を擦ってもう一度見たら、いた。
数人のスラックスの中に一人ワンピース。
「あーっ?!幸村君やないの?!おはよーさん!!」
うちの銀髪OPP星人より、ややクセのある色味で、無駄にイケメンオーラ垂れ流しているのは…。
「立海の大将はん!!早うコート入ってーな!!ワイもう試合したくてウズウズしてんねん!!」
ジャージの下の豹柄タンクトップがはためく。
「…幸村、おはようさん。」
「…あぁ、仁王。あぁ、仁王がこっちにいるんだ…、良かったのか、悪かったのか…。」
いつの間にか隣に立っていた仁王に挨拶された。
「…いや、悪、かったんじゃろ。」
「…朝からエクスタスィーッ、だもんね…。」
気分としては昨日夜にたらふく焼肉を食べた朝にメガ盛りカツ丼ととんこつラーメンだ、カツ丼が白石でとんこつラーメンが遠山だ。
「…幸村くん、今日、部活休みにしね?」
俺の後ろでぱちんとガムを割った丸井に激しく同意したい。
「ん、もぉう!!ブンちゃんったら、ウチのラブルスはいややの?」
「小春っ?!自分の守備範囲広すぎやんかっ?!丸井まで俺にモノマネせいとかっ?!どんだけ罪な天使なんやっ?!」
最早唯一の公式カップルと言っていい金色と一氏がやらかしてくれた。
「で・もぉ?仁王キュンも危険なかほりが子宮に来ちゃうし〜、幸村キュンは神の子やし、ほんまに王子サマみたいで、ウチ、直視できへんわ〜。」
直視とか言ってガン見じゃん、神の子ガン見じゃん?
俺の隣で仁王は真っ青になってじんましん出てる。
「…あれ?男に子宮ってありましたっけ?」
自転車から降りた赤也、男なんだから保体だけは満点取りなよ、保体だけはさ?
「…今日は、自由練習日だから、別にいいよね?」
有料のテニスコートに行こう、こいつら誘ってさ、二時間くらいでいいかな。
「つか、なんで四天宝寺のやつらがいるんだよぃ?」
ガムを膨らませた丸井になんかやばそうなの目を輝かせた。
「だって今日は4月10日で四天宝寺の日やろ?だから、わざわざ大阪から出張サービスに来てやったっちゅー話や!!」
と決められても意味分かんないですけど?
「そしたら、幸村サンの存在に矛盾が出るじゃないッスか?てか謙也先輩ウザッ。」
「なんやとぉ〜っ?!光、自分もっぺん言ってみぃっ?!」
「キモウザッ。」
ルーズリーフ耳に激しく無言になる俺たち王者立海。
だって、え?お前、中三の四月って入院してる設定じゃないかって言われたんだよ?
そこはホラ?
ご都合主義の青春攻略本と言うことで見逃してよ、てかこの話の意味がなくなるから。
ぶっちゃけ、白石の出落ちのオイシイとこで終わるから。
「…とりあえず、コート行こうか。」
なんだろう、この無駄な疲労感?
『イエッサー…。』
返事をした三馬鹿も真田と柳に怒られた以上に萎んでる。
その俺達を不安そうに遠巻きに見ていた他の部員たちはかわいそうだから帰した。
この世の終わりみたいな顔でジャージに着替えた俺たち(金色に隠し撮りされてたとみんなには言えなかった…)はコートに入った。
「相変わらず微妙な色のジャージッスよね。」
てしょっぱなから生意気の天才にケンカを売られた。
「は?あの黄色と黄緑よりはマシだろうが?ぐぎぎぎっ?!」
「赤也。」
すぐにつっかかりそうな赤也の頭を掴んだ、柳じゃないと制御できないから、力づくで言う事を聞かせるしかないんだよな。
「なぁなぁ、幸村はん。酢ダコさん食べる?」
「…遠慮しておくよ。」
好きだけどね、酢ダコさん。
ただ遠山のポケットから出てきたっていうのが気になる…、何ヵ月前の?
「えー、うまいのに?」
「それは君が食べなよ。」
「おおきに!!幸村はんはやさしいんやな、白石とちごうて!!」
…さぁ、どうだろう?よく言われるんだけど、演技だから、その純粋な目を直接見れないよ。
「金ちゃーん?俺やて優しいやろ?金ちゃんが幸村クンたちに会いたい言うから一緒に連れて来てやったんやろ?」
白石が左手で遠山の頭をぽんぽんと叩くと、
「いやや!!毒手いややわ!!左手で叩かんといて!!」
「…遠山君っ?!」
遠山は俺の後ろに隠れたかと思うと、その小さい体からは想像もできない物凄い力で俺を白石に押し付けた。
「白石はん、あかんわ!!幸村クンはウチの王子サマやの!!」
「小春ぅ〜っ?!ほんまに幸村クンだけはやめいっ?!俺、どうやっても敵わなんがな!!」
誰からこのバカップルを相模湾に沈めてくれ。
「…俺的には、アリナシで言うたら、幸村クンはア、グべッ?!」
「色即是空、幸村はん、無事ですか?」
「…あ、あぁ、ありがとう、石田。」
そして何を勘違いした白石がエクスタスィーッになったとこをあとから来た石田に助けられた。
「幸村はん、うちのもんたちが大層ご迷惑かけました。これ、つまらんもんですが、どうぞお納め下され。」
「いや、そんないいよ…。」
「そう言わんと、是非。」
て無理矢理石田に手渡された大きな風呂敷、隣で丸井が「お菓子だぜぃ!!」と喜んでいる。
なんでこんなに大量にいろんな種類のお菓子が?て思ったら、四天宝寺はお寺の中に学校があるから、供物がおやつとして学校に回ってくるんだって。
「もみじまんじゅう、まじうめぇ。」
供物も食べる事も供養の一つだって言うけど、丸井は食い過ぎだから、もみじまんじゅうも大阪じゃなくて広島で、これもネタだって分かっているよな、仁王?
「…俺、今日くらいテニス部で後悔したことはなか…。」
言うな!!言ったら負けだ!!俺もそう思ってるから!!
「…そう言えば聞いてなかったけど、」
「幸村君は大胆やなぁ〜?俺はいつでもエクス、」
「幸村サン通報してええですよ。」
財前が携帯を差し出したから、
「じゃ、ありがたく。」
「謙也先輩も一緒に、」
「なんでやねんっ?!」
…あー…、なんかこのままじゃ、四天宝寺のペースに飲まれる。
ここは神の子モードで行こう。
「俺に断りもなく立海のコートに立つ意味を分かっているのかい?」
イイ感じに海風がコートに吹いて、肩に掛けたジャージが揺れた、髪もなびくよ?
「それとも理由があるなら聞こうか。但し、俺が納得する理由以外は受け付けないよ。」
仁王と丸井は臨戦体勢、なのに赤也はちょっとビビッてるよ、俺に。
「幸村はんに会いにきたんじゃダメやの?」
…くっ、なんてキレイな目なんだ遠山、そんな純粋な眼差しを俺に向けるなよ…。
しかも眉を下げた泣きそうな顔が去年の赤也みたいでかわいいとか思っちゃったよ、俺。
「幸村君に無断で、王者立海のコートに不用意に入った事はすまんと思う。でも幸村君たちに会いたかったって言うんはほんまなんや。」
…フェロモンしまえ、あとのキラキラも、眩しいから、無駄だから。
「で、本当は?4月10日だからこの為に来たってオチじゃないだろ?」
そんな暇あるなら練習しろ、てか交通費もったいないだろ。
はっ?!顧問が競馬で当てたとか?!
「いや、実はな?ウチの学校で中三の校外学習で職場体験があるんや。俺ら三年はその帰りや。」
「…え?大阪から、神奈川、とか関東まで?」
どんなにリッチな校外学習だ、やっぱり顧問が競馬で当てたのか?
「跡部君とこの系列会社でサラリーマンしてきたんや。」
「ウチはOLさん。」
「小春のOLはほんまにやばいで?見、アダダダダっ?!」
携帯を出してきた一氏の手を関節と逆方向に捻っておいた。
ていうか、跡部…、親切ぶって職場体験の場を提供して、チャッカリ練習相手も確保しやがって…。
関東だけじゃく、全国を見据えての練習相手と、全国区の選手の力量、特に去年から部長の白石を見る為か…、財力だけじゃなくてもキングを名乗るだけの人を上手く使う才能を持っている。
「その為に無理矢理合宿言うて連れ出された俺らの身にもなって下さいよ、謙也先輩。」
「なんでも俺のせいにすんなやっ?!」
「えー?俺は楽しかったよ?跡部はんちの料理もうまかったし。今度幸村はんも一緒に行こうなっ?!」
…お願いだから、そのピュアすぎる目で俺を見ないで…。
「…で、白石はサラリーマンになるのかい?このまま跡部の会社に雇って貰えば良いのに。」
この御時世だからね、持つべき物は絶対的な資産力のある友人でしょう。
「ムリムリ。俺は端からサラリーマンになる気ないねん。やっぱ、薬剤師になって自分で調剤薬局開く事にするわ。」
また無駄にフェロモンとキラキラを振り撒く白石に、
「結局は白石部長にはこの校外学習は無駄やった訳ですわ。普段無駄言うとる人なんすけど、ほんまこっちが恥ずかしいっスよ。」
冷めた目の財前に俺たちは何も言えなかった、そのあとテニスをする訳でもなく一日中コートでしゃべってさ?それに付き合う俺たちもだけど。
本当に四天宝寺は何しに立海来たんだろうか?
(20110410)
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