柳生比呂士のバレンタイン・キッス
勝負は家から出た時点で始まっています。
最初の角を曲がるとすぐに公立校に通う小学校の同窓生とお会いしました。
「ヒロ君、これ…。」
差し出された包みに彼女に気付かれぬよう溜め息を付きました。
「お気持ちは嬉しいのですが、これは貴女が本当に想う方に差し上げて下さい。」
「…、ごめん、ヒロ君。」
声を詰まらせて走り去る彼女に罪悪を感じましたが、彼女が本当に私を想って下さるが故に受け取れないのです。
今年も辛い季節がやって来ました。
「柳生、コレ、マサに渡しておいて?」
駅前で派手に化粧をした立海の女子生徒から包みを渡されました。
「ご自分で渡した方が仁王君が喜ばれるのでは?」
かなりの重量感、これは期待出来そうです。
「あいつ、こういうの嫌がるでしょ?あ、お返しとか別にいらないから本アド教えてって。」
私が口を開く前に彼女は改札を抜けてしまいました。
何はともあれ仁王君に感謝です。
駅を降り立海までの道のりの間、女子の皆さんからたくさんのプレゼントをいただきました。
本当にありがとうございます。
部室に入るとすでに結構な貢ぎ物の山が出来ていました。
「おはようございます。」
「あ、おはー、柳生。意外と隅に置けないね。」
真っ先に返してくれた幸村君が私の手元を見て笑っていますが、残念ですが違います。
「全部仁王君のですよ。」
そう訂正して包装の解かれたプレゼントを分別している柳君に近付きました。
「おはようございます、柳君。どうですか?」
「おはよう、柳生。今年は中々に良いスタートだ。」
計算通りに事が運んで満足げな柳君が頷きました。
「昼休みに仁王に頑張って貰えば、放課後は部活が出来るな。」
私に視線を流して来た柳君に眼鏡を押し上げる事で応えて、
「二人の方が回収率も上がりますからね。」
今日は仁王君で一日を過ごしそうですよ。
「やっぱ、仁王、すげぇよぃ?この財布最低で三万買い取りだって。」
部室にあるパソコンを見ていた丸井君が歓喜の声を上げました。
「俺、画集が欲しいとかマジミスった。しかも同じ本って買い取らなかったりするんだろ?」
同じ表紙が三つ並んだ幸村君は難しい顔をしていますが、それに柳君が、
「俺も何冊か被っているのがあるから、その時に別々の場所へ売りに行こう。」
その後ろで桑原君が、
「…なぁ、スクラッチ当たったんだけど、換金って身分証とか年齢関係あんのか?」
「でかした、ジャッカル!!でいくら?」
「…全部で500円。」
「ちっ…。」
あからさまに表情を変えて舌打ちする幸村君は悪くありません、とばっちりを食った桑原君には同情しますが。
「いいかい、みんな。エアコンの修理代、てか新品買って返さなきゃなんないから、窓ガラスのツケが十枚ってユタカかっ?!三馬鹿が面白がって壊しまくったナイター照明の電球と、柳が勝手にネットの契約したのの月々の支払いの貯金の為に出来るだけ高額なプレゼントを貰ってくるんだよ。ホントに俺がいない間に好き勝手やってくれたね。」
「…イエッサー。」
笑顔の圧力に私達肯定以外の言葉は発せませんでした。
(20110214)
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