はんぶんこパートナー
三年の三学期に入って部活っつっても、大会はオープン戦の冬季大会しか出れねぇし、高校に向けてのひたすら体力作り中心の基礎トレが多くなってった。
そん中でも基礎トレ嫌いのブン太は、おんなじようなことが続く先の見えないような毎日に参ってんのか?て思ってた。
なんか三学期入ってから元気がねぇブン太、こいつのテンションが上がんねぇと俺もなんか調子悪ぃし。
今日も部活の帰りにコンビニ寄って、ブン太と中華まんをはんぶんこする。
「ブン太、何にするんだ?」
いろんな中華まんが並ぶ保温器を指したら、マフラーに鼻まで埋めたブン太は、
「…海鮮えびまん…。」
甘い物好きのブン太にしてはありえないチョイスだった。
「…でいいのか?」
「……。」
またいつものジョークと思って聞き返したが、ブン太は黙って首を下に向いた。
「…俺は、豚角煮にするが、いいか?」
一応、俺が食いたいものを言ってみたが、ブン太は首を下に向けるだけ。
こりゃ、相当に参ってるな。
基礎トレは大事だと思うが、さすがにこう毎日だと俺も辛い。
それを辛いと思わないで、毎日を大事に練習してる幸村や真田、柳は偉い。
だから三強と呼ばれて尊敬されるんだろうな。
実力だけじゃなくて、それを活かすための努力、マジにあの三人はすげぇよ。
(で、ブン太か…。)
技なら柳に張れるくらいだ、ちっさい体を逆に利用した器用な技も持ってる。
ただその体格差でシングルスは厳しいってだけで。
基礎体力つければシングルスでも充分いけんのに、「俺はダブルス専門だぜぃ。」なんて言ってやがる。
レジ終わって、コンビニにある車止めのU型の鉄パイプにふたりで座る。
「ほら、ブン太。」
いつもみたいに買った中華まんを半分に分けて、ブン太にやるが、ブン太は下を向いたまま受け取ろうとしねぇ。
「ブン太、冷めちまうぞ?」
具の部分から湯気が出て、肉汁の良い匂いがする。
いつもなら匂いにつられてソッコーで飛び付くブン太なのに、今日は海鮮えびまんが入った袋をしっかり抱いたままだ。
こりゃ、重症だな。
先が見えねぇって辛いよな、だりぃぜ。
だけど、生きてたらこの先、テニスだけじゃなくいろんなことでいくらでもあることだ。
人それぞれだから、「誰も同じだ。お前ばっかが辛いんじゃねぇ。」て言わねぇ。
だけど、な?ブン太。
落ち込んでるお前を見たら、悲しくなる奴がいるのだけは忘れないでくれ。
ブン太のバカみたいなポジティブさに、俺は何回も救われたんだからよ。
「食えよ。食って元気出せ。」
なんか俺まで泣きそうになって、ムリにブン太の口にあつあつの豚角煮まんをくっつけた。
ここまでやれば、ブン太でもキレる。
キレて俺の頭叩いて、大声出して、最後に俺の分の中華まんまで食っちまう。
なのに憎めないんだな。
そんな奴だ、丸井ブン太って奴は。
だけど、今日のブン太は違った。
豚角煮まんを持った俺の手をがっちり掴んだブン太がぼそぼそと言った。
「あ?どうした、ブン太?」
聞こえないくらいちっさな声だったから聞き返したら、
「ジャッカルもブラジル帰るのかよっ?!このハゲっ?!」
「ってぇなぁっ?!」
いきなりバチコーンと頭を叩いたブン太に俺が先にキレそうになったが、やっと顔を上げたブン太がマジ泣きしそうだったからやめた。
「なぁ?ジャッカルって留学特待だよな?だったら、中学で終わって向こう帰んのかよ…?」
「ブン太っ?!」
今度は両手で俺の腕を掴んできたブン太は、
「こんなふうに一緒に帰ったり、肉まんとかはんぶんこしたり、バカやって一緒に真田にぶたれたり、赤也からかったり、…テニスしたり、ダブルス組むもの…、あと、ちょっと、なのかよ…。」
一気に叫んだブン太はフェードアウトしながらずるずるコンクリートの上に座り込んでしまった。
こいつ、知ってたんだな。
「…ブン太、」
俺はブン太の頭に手を置いた。
「うぅ…っ。」
部活や家では兄ちゃんぶってやる奴が泣いてやがる。
笑えよ、ブン太。
俺も泣きそうじゃねぇか…。
「俺も、みんなと、立海の高校に行ってテニスしてぇ。またブン太とダブルスがしてぇ。」
留学生特待は中学までだ、高校は一般推薦になるから、推薦入試自体は余裕で通るが、授業料の問題がある。
校内のスポーツ特待枠は取れなかった。
まだ、公的な奨学金の返事が来てねぇ。
もし奨学金が取れなかったら、…俺は公立高に行かなくちゃなんねぇ。
だって、入学金だけじゃなくて、授業料も立海の三分の一だぜ?制服がないとこだってある。
このままみんなと立海付属高に進めば普通科になる、専門的な資格が実業科に行きたい気持ちもある。
なぁ、ブン太?
俺、どうしたらいいんだ?
いつもみたいに笑い飛ばせよ。
「なんにも考えずに立海行こうぜぃ?!」って…。
「ブン太っ?!」
いきなり顔を上げたブン太は俺が持っていた半分の豚角煮まんを一口で食っちまうと、
「やるっ!!」
急いで自分の袋から海鮮えびまんを出して、半分にしたブン太が腕をつき出した。
「やるっ!!俺のはんぶんこパートナーはジャッカルだけだぜぃっ!!」
「…お、おう…。」
よく分からねぇが、すげぇマジなブン太に押されて、半分にされた海鮮えびまんを受け取った。
それにまだムスッとした顔のブン太は自分の海鮮えびまんをかじった。
なんとなく、ブン太のマネして海鮮えびまんを一口かじったら、やっとブン太が笑った。
「俺、ジャッカル以外の奴なんかはんぶんこなんかしねぇからな。ありがたく思えよ?」
「…おう。サンキューな。」
やっぱ、ブン太は立海一のムードメーカーだな。
お前が笑ってれば、どんなピンチもチャンスに思えるぜ。
そのおかげかどうか知らないが、これから一週間くらいして奨学金がもらえることになった。
これでまたブン太とはんぶんこって言われても、高校もおごらされるんだと思うと入学式が楽しみになった。
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