坂道
BGMは夏色
部活帰りに赤也の自転車を盗ろうしたブン太に、赤也が追っかけて、ふざけて二人乗りをしていたのがきっかけだった。
と思う。
なのに、今はなんでこんなことになってるんだ…。
「漕げー!!ジャッカル漕ぐんだー!!」
「いってぇな!!ブン太叩くんじゃねぇよ。」
背中にひっつくブン太に頭を叩かれているが、ぺちぺちと俺でも良い音すんなって、これってなんて言うんだっけ?
「自画自賛か?」
後ろから柳の声がする。
あぁ、多分、そんなヤツだと思う。
「仁王先輩!!足付いたらダメッスよっ?!」
「つか、暴れんなっ?!ワカヤ、違う、赤也。」
「何ナチュラルに間違ってンスかっ?!」
「なぁ、降りていいかの?」
「いや、まだだ。」
「って柳が言うのかよっ?!」
振り返りたくても振り返れねぇ。
今の俺らはサドルに赤也、俺がペダルに立ち漕ぎ、ブン太が後輪のネジの上に立って、荷台に後ろ向きに座る仁王。
お巡りさんに見つかったら、一発職質説教コースな四人乗りだ。
それもこれもブン太が「何人乗り出来るかやってみようぜぃ!!」って言ったのから始まった。
「そこのカーブから下り坂なので気を付けて下さいね。」
「ジャッカルが。」
「俺かよっ?!てかもう降りろよっ?!」
一番最初に荷物持ちに立候補した比呂士に気付けば良かったんだ。
柳は例によって「データは客観的に取らなくては。」なんて、自転車に乗る気はないし。(一部には柳は自転車に乗れないと言う噂があるが、それはないだろう。)
「うわーっ?!坂見えて来たッスよっ?!」
ビビってハンドルにしがみつく赤也のせいで、前タイヤがふらふらする。
あぁ、坂だな…。
坂だよ、赤也。
俺らはここを四人乗りで下りなきゃなんねぇんだ…。
「うっしゃー!!立海遊園地名物ジャッカルジェットコースター、略してJJ号はっしーん!!」
テンションマックスのブン太の後ろで、
「やなぎー、俺のお宝本はやるぜぃ…、あとシクヨロ…。」
なんか怖ぇことをブン太の真似で言った仁王。
「だが、断る。俺と仁王では趣味が違い過ぎる。」
「では私がお預かりしますね。」
「変態だとしても変態と言う名の紳士だよっ?!」
てまた軽犯罪子熊の真似をした仁王は比呂士の地雷を踏んだらしく、
「アデュー、仁王君。」
比呂士の声と一緒に物凄いショックが自転車を襲った。
どうやら、キレた比呂士が自転車の後ろタイヤを蹴ったらしい。
「はっ?!えっ?!ナニっ?!」
俺の前でパニクる赤也に、後ろでブン太は、
「エンジンはレーザービーム搭載!!チョーおもしれぇっ!!」
「やぎゅーのバカ〜っ!!」
半泣きの仁王が叫ぶ。
「つか、ブレーキ効かねぇっ?!意味ねぇっ?!」
回転の早くなるペダルから足も外せなくて、俺が自転車に漕がされてる。
「柳〜っ?!助けてくれ〜っ?!」
このまま行ったら四人とも転んで怪我しちまう。
柳ならなんかアドバイスしてくれると祈りを込めて叫んでみたが、いつもと変わらない柳の声は、
「今、弦一郎達が行くぞ。」
「ま〜じ〜か〜っ?!」
なんか腹がヒヤッとした俺の代わりに赤也が叫んでくれた。
二人乗りでもすげぇ怒られたのに、四人乗りなんて見られたら──
「ゆ〜き〜む〜ら〜っ?!止まらんぞぉぉおぉぉぉ〜っ?!」
「あははは〜、これがホントの弦チャリ〜っ!!」
猛スピードで俺らを追い越していった真田の後ろに幸村が立っている自転車。
「あ、」
「やべっ。」
「プリッ。」
「ふむ。」
「御愁傷様です。」
「って比呂士ぃっ?!」
真田達を乗せた自転車はカーブを曲がり切れずに、つか曲がる気もなく、ガードレールを飛び越えてその下に落ちていった。
比呂士の言葉に最悪のパターンを思い付いたが、そんな心配はいらなかったらしい。
ザバーンっつう水音がして、「あそこで無理にブレーキを踏むより、下の川に飛び込む方が怪我は無い。もっともブレーキは効かない様だが。」
いつもの冷静な柳だが、それでも幸村と真田が心配で真っ青になった俺らは自転車から飛び降りて、二人がぶっ飛んだガードレールの下を見た。
「真田!!赤也、赤也!!」
「む。赤也は随分小さくなったな。」
「これは仁王だね。」
「いや、柳生だな。」
なんて川の中でずぶ濡れになって、ワカメ…は川にないから水草?とか、よく見えねぇけど虫?を持って、笑い合ってた。
「幸村ぶちょ〜!!真田ふくぶちょ〜!!」
「ゆっきむらく〜ん!!」
「わっ?!赤也っ?!ブン太っ?!」
俺が止める暇もなく、二人は夕日に向かって川にダイブしやがった。
「あはは〜、バカだ!!バカだ!!」
「たわけが!!自分から川に飛び込む奴があるかっ!!」
腹を抱えて笑う幸村に、じゃれてきた赤也を抱き上げて投げる真田も笑ってる。
これが青春ってヤツかなぁってパンクしたブン太の自転車を眺めてた。
(20100822)
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