短編


そんな度胸があるワケない!


部活終わって着替えとる時、まーた丸井と赤也がくだらん事で見栄を張りおった。

今日はナンパの日だからどっちがモテるか決着つけましょうよ!っていう赤也の口車に乗せられた丸井に「てめぇも口だけじゃなくモテ男証明してみろぃ」とか八つ当たりされて巻き込まれる形になった俺と、なぜか柳生まで巻き込まて、ただただ早く帰りたくて仕方なかった。

「…なんぞ部活帰りにこんなクソ暑いところでナンパせなならんのじゃ…」

顎を伝わる汗が気持ち悪い。

座った防波堤のコンクリでケツが焼けそうじゃ。

「そうですねぇ、図書館ならなんとか勝機が見えそうなのですが」

と眼鏡をずらして汗を拭く柳生もこの暑さで大分冷静さを失っとる。

「いいか、赤也!次来たら勝負な!」

チューブのアイスをくわえて立ち上がった丸井に赤也も、

「そっちこそビビんないでくださいよ」

しゃがんでコーラを飲みながら先輩を見上げとる。

まぁ、もう部活じゃないし先輩後輩はいいんじゃけど。

ホントこいつの怖いもの知らずが羨ましいぜよ。

なんとなしに目が合った柳生もそう思っとったみたいで、仕方なそうに笑っとる。

そうこうしているうちに曲がり角の向こうから女子達の笑い声が聞こえてきた。

いよいよ決戦の時かのと腰を上げた時、丸井が呟いた。

「…あれ?幸村くん…?」

それに柳生と赤也は真っ青になった。

無意識だろう丸井が一歩踏み出すより先に、

「赤也、いっきま〜す!」

とかどこかのパクリのような掛け声と一緒に女子の集団に突っ込んだ。

「なんだよ、やればできるじゃん」

余裕そうに笑いながらガムを放り込む丸井の後ろで胸を撫で下ろした柳生を見ると、裏がありそうじゃの。

どこかの女子集団と何か話している赤也は、顔はよく見えんがなんとなく見た事あるシルエットで一番背の高い女子に腹パンを食らっていたが、大丈夫かの…?

それに柳生はあわあわとハンカチをはためかせているが、これくらいでへこたれないのが姉がいるサダメよのう…。

赤也は腹を押さえながらヘラヘラ何か話して、その集団から四人の女子を連れてきた。

その中の二人はニヤニヤ笑いながらこっち見とる…。

「げっ、あいつら…」

「お知り合いですか?」

引きつる丸井に柳生が声をかけた。

「同小のやつらだ、やっべぇ…」

目を泳がせてながら平静さを装って、頭の後ろで腕を組む振りを利用して女子から体を背けた。

「やっぱり、デブン太じゃん」

「相っ変わらずちっちぇ〜」

とクスクス笑いながら指を差す同小二人組とは対照的に、残りは何故か柳生に握手を求めていた。

それに部活帰りと暑さでべとついているからとにこやかにお断りする辺りは紳士だ、それにもはしゃがれるなんて羨ましいぜよ。

一通り女子達の対面が終わって、曲がり角で待ってる集団に赤也が送り届けると、やっぱりさっきと同じ背の高い女子から腹パン食らっていた。

なんぞ知り合いか?

あーざっす!と女子の集団が通りすぎるまで直角でお辞儀する赤也は完璧に年上の女に逆らえないよう調教されとる。

姉っつーのは悪魔じゃ、いや魔王ぜよ。

「次は俺の番な!てか、バスケ部なんかナンパすんなよ?!」

偶然じゃろうけど、丸井の元同級生をつかまえた赤也に当たり散らすのは違うじゃろうよ。

そこは丸井の腕の見せ所やったと思うんじゃがのう?

「…いやぁ、たまたまっていうか…、まぁ、スンマセン」

二度も腹パン食らってまで他校の女子に声を掛けた赤也はその打たれ強さをもっと誇ってもいい。

お膳立てしてもらって文句をつける丸井なんか謝る事なか。

「俺はオトナの女をつかまえてみせるぜぃ」

とばっちりウィンク決めて、車道ギリギリに立つのはいいが止める車は選べよ。

なるべく女性ドライバーで同乗者なしを探していたが、ここは幹線道路に合流する近道でスピードも結構出てる。

ましてや中学生が止めようとしたって、遊びか悪さされると身構えて止まるはずがない。

が、一台急ブレーキをかけた。

まとわりつく蒸し暑さの中にタイヤの焦げる臭いがする。

ウィンドウが下がると同時に超いい笑顔を作った丸井が運転席のドアに飛び付く。

「あ、オネーサン、」

「雅治!なんでこんなとこにいんのよ!今日はアンタが晩飯の当番なんだからね!!」

「っ、あぶねぇ…」

言うだけ言うと丸井に目もくれず車を猛発進させていくウチの魔王…。

「今の…」

おずおずと赤也が口を開いたがその通りじゃよ。

「え?今の仁王のねーちゃん?キッツイなぁ、彼氏いないだろぃ?」

「…本人の前で言うなよ」

失敗したのに失敗したと思わない図々しさは尊敬するぜよ。

あと今期三連敗中の姉貴の前で恋バナはタブーじゃ。

「なーんか面白くねぇなぁ…?あ!次柳生な!」

「私ですか?!」

八つ当たりもいいところじゃ、巻き込まれた俺に巻き込まれた柳生をダシにする事ないじゃろうが。

「…しゃーない、俺の出番かの」

「いえ、丸井君のご指名ですので是非チャレンジさせていただきます」

せっかくかっこつけて立ち上がってみたのに、完全にやる気モードになった柳生が眼鏡を外してスクバにしまった。

「超やる気じゃん」

とからかう丸井もその辺にしときんしゃい、怒らせると誰よりも恐ろしい男ぜよ。

「まぁ、見ときんしゃい」

「ちょい、待てや」

貸してやった銀のヅラかぶってコートの外で俺の振りをするのは止めろ。

「なぁに、30秒でカタつけるきの」

「いやにおーくんはそんな事言わないぜよ?!」

そう言いながらネクタイ緩めてるのホントやめて?!

最近の仁王君告白断りまくってる疑惑ってやっぱおまんのせいか、柳生っ?!

だって俺全然告白された記憶ないのに振った事になってるっておかしいのう?嫌がらせかなんかでそんな噂流されとると悩んだんじゃよ?!

「さて、アイツにするかの」

「いや待ってやぎゅーっ?!」

「面白そうだからいいじゃん」

曲がり角に獲物を見つけた俺に成り済ました柳生を止めようとしたが、丸井にがっちりベルトをつかまれて、俺とドッペルゲンガーの距離は離れてく。

あぁ、俺の姿で変な声のかけ方はしないでほしいぜよ…。

逆光で女子の姿がよく見えんが、かなりの好感触なのは分かる。

「比呂子じゃん」

「は?」

ペットボトルを逆さにして残りを吸い出す赤也は面白くなさそうに、

「妹ッスよ、俺と同じクラスの柳生。あ、そのまま帰った…」

さりげなく1抜けした柳生とネタバレに丸井は何秒か考えてから、

「…全然ナンパじゃねぇじゃん、つまんねぇの」

膨れっ面の丸井は何個かガムをまとめて放り込んで、

「次、仁王な。幸村くんとこ行ってナースをナンパしてこいよ」

「は?何言っとんじゃ?!俺にそんな度胸があるワケないじゃろうが!!」

バカも休み休み言えや、ああいうきれいどころは遠くから見守ってこその華と参謀も言うとったぞ?!

「…自分で言っててむなしくならねぇ?」

「全然」

白けた顔を向けくる丸井の期待に応えられんが、俺は臆病な自尊心と尊大な羞恥心を守るので精一杯じゃ。

で、後から聞いた話じゃが。

赤也を腹パンした相手は何の因果か知り合いになった幸村の妹で、丸井が見間違える通りに幸村そっくりと聞いて、妹も魔王なんじゃなと夢が破れ去った。

(20180708)
[←戻る]

- ナノ -