GARURU
飛び石だろうが休みは部活だ、誕生日だからって手加減はねぇ。
というより誕生日だから本気で相手してもらえて嬉しかった。
さらに真田達一人ひとりからもプレゼントもらって、お迎えがあるって先に帰ったブン太には「チビ達が祝ってやりたいっていうからウチ来いよ」って言われてちょっとニヤニヤしてた。
誕生日特権っていうのか、そんなカンジで世界中が俺を祝ってくれてるような気がして、目に映る全員がニコニコしてるような気がしてた。
それでもさっきからチラチラ目の端っこに入るヤツらの笑顔は別だって分かるんだな、今日くらいは分からないでスルーしたかったぜ。
トラブルに巻き込まれる星の下に遣わされたのが神のご意志か、諦めると一緒に止まった足に合わせて道を塞ぐ四人組。
なんとなく見たことあるような顔だなぁと思ったら、右から二番目のヤツの銀歯でウチの学校のヤツじゃんって思い出した。
確か選択外語と社会で一緒のヤツ、残りも多分体育とかで見たことあるかも、やべぇな。
立海のヤツならどうやっても逃げようも何もねぇ…。
ヤツらは四人組っていうのもあって、余裕こきながらがに股で肩揺らしながら近づいてくる。
新人戦終わって秋季予選通過したばっかりだ、問題起こすワケにはいかねぇが、向こうが起こす気でいやがる。
ここは後で何言い触らされようが逃げるしかねぇが、誕生日にしちゃ運悪く一通の細い裏道、さりげなく逃げ込むビルもないし引き返すしかないが後ろにも誰かいそうな気配が…。
「何をしておる!!集合時間は過ぎているぞ!!」
「うわっ?!すまねぇ、さな……」
俺が振り返る前に四人組は「げっ、真田だ、逃げろ」と四人同時にそれっぽいことを言ってダッシュで俺の進行方向へ逃げて言った。
条件反射で謝りながら振り返った俺は真田がいなくて一瞬頭が混乱した。
「何もされませんでしたか、桑原君」
「…比呂士…?」
心配そうな顔の比呂士が一人だけで俺に近づいてきて余計にさっきは真田が…?とパニックになりかけた。
「私も仁王君ほどではないですが中々だったでしょう?」
「…仁王…?」
意味ありげに眼鏡を押し上げた比呂士が仁王の名前を出してくれたから、さっきの真田は比呂士がマネしたのかと分かった。
「桑原君はもう少し自分を大事にするべきです」
「…テニス部に迷惑かけたりしねぇよ」
軽いため息をついた比呂士は新人戦の時のことを言ってるんだろうな、あの時は幸村のことをからかわれてついカッとなっちまった。
「ああいう手合いは私達が引き受けますから、桑原君は丸井君と真田君をお願いしますね」
「…真田もかよ」
まさか真田までっていうか、真田こそああいうアイツらを黙らせる為にまた風紀委員になった。
比呂士だって真田のストッパーのつもりか後期は風紀に入った、特進で部活と勉強の両立が大変なはずなのに、真面目で律儀なヤツだと思う。
「そうじゃ、伊達に俺と無敗のダブルスを名乗っとらんぜよ」
「にお…っ」
と言いかけたが、どう見ても比呂士だ。
比呂士にしては人差し指を口にあてるなんてキザなことはしねぇが、四年の付き合いだ、見間違えるわけがない。
「真田君も自分のキャラと立ち回り方くらい分かってますよ」
ちょっと酷い言い方するのは間違いなく比呂士だな…。
「だからあえて天然を演じてる時もあるでしょう?」
「…だな」
なぜか疲れたような笑みを浮かべた比呂士にテニス部を取り巻く環境を思い出した。
いつのまにか、ただテニスをして勝てばいいっていうだけじゃなくなっていた。
それが分かった時が大人になったっていうのか、受け入れた時がそうなのか。
「…彼も相当な策士でもありますよ。そうでなければ我が立海大で副部長は務まらない」
少し小さい声でそう言った比呂士は一瞬柳がするような辛そうな笑みを浮かべた。
…俺はそこまで行ったことがない。
ブン太みたいに純粋に尊敬して、勝つことより試合を楽しんでたのはと違う。
プライドが傷つかないように最初から勝てないって無意識にブレーキをかけてた。
「…やっぱり無敗のダブルスだけのことはあるよな」
俺はレギュラーになって他校のヤツらに勝つだけで満足してた。
「と言っても圧倒的に試合数が少ないんですけどね」
すぐに自虐に持っていく比呂士も自分のキャラを演じてるだけなのか…。
それなら少し寂しいが、トラブルに巻き込まれて後始末するのが俺のキャラだからそういうものなのかな?
「ああ、でも!」
「ああ?」
急に声のトーンを上げた比呂士に自然と下がっていた首を起こすと、
「私が真田君の声真似ができる事はご内密に。と言っても先程のように声を張らないとそれらしい声は出せませんが、仁王君に知られたら何に利用されるか分かりませんからね」
「…だな」
アイツのことだからどんな小さなネタも見逃さないだろうし、比呂士も仁王の後ばっか追ってられなくなったもんな。
「それにこの事は桑原君と切原君しか知りませんから」
タブーのように話題にならなかった後輩と共犯だって知らされて、やっと俺の番が来たみいだ。
('15桑誕・20151103)
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