短編


学校名に海が入ってるからいつか移動させられると思ってました


全体練習が午後からじゃったから、午前はお袋の手伝いっつーことでちょっとゆっくりさせてもらってた。

大会の開催時間に合わせて一番暑い時に練習ってのもキツイのう?

赤也じゃないが短期決戦じゃな、なんて考えながらコートに向かってたら雄叫びが聞こえる。

なんじゃぁ?と声のした方を見るが、暑さのあまり陽炎がゆらゆらしとるナリ…。

今日も酷暑日かのう…、コートだと余裕で40℃いきそうなんじゃがウチはオムニだからまだマシって参謀が言っとった…。

全国大会はハードかセミハードじゃろうから、50℃は覚悟した方がいいんじゃないかってそんなん覚悟できんぜよ。

全豪なんかで70℃越えたって話聞いた時はそりゃ棄権するって納得したナリ。

あんまり暑いとドーム閉めてくれんのかのう?と思いながら、鍋で煮られてるようにゆらゆら動く影を眺めてたら二年達がコートを走り回ってる。

ラリー形式の練習でもしてんのかと思ったが動きがおかしい。

目を細めたら、どうやら逃げ回っているらしい。

この暑さじゃ逃げたくもなるナリと登校しただけで汗だくで重い制服にうんざりしながら部室のある海林館に向かう。

熱中症対策に部活中はクーラー入っぱなしじゃろうし、少し涼んでから行くかと考えながら近づいていくとコートの様子がはっきり見えるようになってきた。

「ホラホラ、動きが悪すぎよ」

なんて楽しそうな笑い声を上げとる部長様はホースを持って右へ左へ逃げる二年達に水を浴びせていた。

赤也なんかはデッカイ水鉄砲持って幸村を攻撃しようとして、思いっきり返り討ちにあっとる。

他の二年も背中にカラフルな水風船隠して、隙あらば投げ付けようと死角を狙っとった。

ただのインターバルかぁ?と蒸れるラケバを背負い直して、よく副部長がこんなお遊び許したのうと思っていたら、真田も幸村からバケツに水を入れてもらって丸井やら他の三年を追い掛け回しとる…。

なんとなく頭の上を見上げた。

真っ白な太陽が音を立てて輝いとる。

「直接太陽を見るのはいけませんね」

左後ろから声を掛けられたが振り向く気もならなくて、無意味に瞼に灼き付いた太陽に目頭を押さえた。

「なんじゃ、アレ」

大会前に部長副部長揃って遊んどるとは夏のせいかのう?

カチャリと眼鏡を押し上げる音が今日は耳障りだ。

「今日もこの暑さでしょう?幸村君が屋上庭園を心配して、周囲のコンクリートを冷やしたついでに部員を冷やしてくださっているんですよ」

「…俺らは花のついでか」

水よりもアイスを用意してほしいナリ。

「仁王君はまだ被害に遭ってないでしょう」

そうキツく言いなさんな、ちゃんと午後から参加の連絡しといたじゃろうが。

ずぶ濡れのジャッカルがユニフォーム脱いで、真田のバケツに突っ込んで豪快に水飛ばして笑っとる。

まだ声変わりしとらん一年達が女子みたいな悲鳴を上げて逃げ惑っとる。

丸井のケツを集中攻撃をする赤也二年連合に悪ノリした幸村がホースの口を丸井に定めた。

バカみたいな声を上げた丸井はコートに転がりながら暑い暑い叫んどる。そのまま焼き豚になっちまえ。

「そろそろ助太刀に入りましょうか」

わざわざ俺とすれ違いながらコートに向かって歩き出した柳生は見事なカーブで幸村の背中に水風船を叩き付けた。

おーおー、ブーメランじゃなか、強肩じゃから良い球筋しとると思ったら、

「仁王君、背後から狙うなんて卑怯ですよ」

なんて幸村が振り向く前に言いやがった?!

「あれぇ?仁王、来てたんだ?」

「俺じゃなか!!」

ホースの口の辺りをいじって水流を最強にしようとしてる幸村から逃げた筈だった。

「煩い!!」

最高潮に不機嫌な声と一緒に水が降ってきよった。

「これ以上テニス部の恥を晒すな」

ここまでは許せる。

「仁王」

「だからなんで俺なんじゃ!!」

俺はなんもしとらん!無実だと水が降ってきた、恐らく生徒会室辺りを睨もうと顔を上げたら、今度はバケツを落としてきやがったぜよ?!

文句を言う前にわざとらしくピシャリと音を立てた窓を忌々しげに睨んだ後、動けなくなった。

頭を焦がす太陽に背中を凍らせる視線。

「仁王」

絶対に振り返れない恐怖がいる。

「早く着替えておいでよ」

水流最強で俺の制服を濡らしまくる部長に、どうやって柳生がやったと証明しようかと頭を抱えた。

※りとさんに捧ぐ

(20150720)
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