短編


クラスメイト


この話の一年後の話、高一設定


十代の一年は大人の十年と同じ価値があるってどっかで聞いた。

一年前の事がうまく思い出せないからマジなんだろうな…。

今年は早くも梅雨に入ったみたいで雨の日が続いている。

雨もない日も青空になるわけでもなく、どんよりとした灰色の空だ。

今日も今に降りだしそうな天気に、部活は校内で筋トレかスクール組に別れるのかと机に伏せった。

「元気出しんしゃい」

頭を二回叩かれたけど優しさが違って、ちょっと泣きそうになった。

「お前さー」

俺は目だけを上げて前に座る銀髪を眺めた。

口元のほくろが相変わらず憎たらしいが、それなりに整ったイケメンだと思う。

「学校辞めんなよ」

少し前から思っていた事をぶつけた。

予感というか俺の勝手な不安だ。

「それは酷いナリ」

こっちの心配を逆撫でするような間抜けな声で雑誌を捲ってる。

辞めないにしても部活引退したら学校来なくなりそうだな。

「つーかさ?お前工業の方に行くかと思ってた」

見学会で建築科に行ったって聞いたし、他のクラスメイトから。

親父さんもそっち方面って言ってたからお前も工業に進むかと諦めてた。

「そういう丸井こそ留学実力考査受かってたじゃろ?」

「…んで知ってんだよ」

誰もにも言ってないし、先生にも口止めしといたんだけどなぁ?

多分柳だって知らないと思う事をなんでこいつが知ってんだが。

「ん」

鼻先に突きつけられたガムが板の奴で、どうせパッチンガムだろうと思うと今日は引っかかる気になれなかった。

受け取らなかったら、あいつは口で一枚取って、

「ん」

鼻声でまた俺に突きつけて来た。

本物だって証明されたし、仕方ないから一枚抜き取って包みを見たらミントじゃん。俺ミント苦手なんだよなぁ…?

こいつは最近花粉症かもしれんとかぼやいてたし、ガムも本物だからまぁもらっといてやってもいいか。

「で?」

「は?」

器用に口先だけでガムの包みを剥いで裸にして噛み出した、つかミント臭ぇ…。

「なんぞ留学蹴ったんじゃ?」

一年も前の話なんかもう忘れたっていうのに、今さらお前が蒸し返してんじゃねぇよ。

このままシカト決めて授業突入で逃げ切りたいけど、ちょっとばかり開始まで時間があった。

部活ん時にみんなの前で白状させられる形になるより今ぶっちゃけといた方がマシだ。

「そりゃぁ三連覇のためじゃん?」

「いって?!」

丸めたガムの包み紙を目尻目掛け投げつけてやった。

「さすがに首から上は反則ぜよ」

「どこのドッジボールだよ」

ジト目で投げ返されたゴミは机の上に放置した。

俺の目の前の丸めた包みと、あいつの膝の上に落ちた開きっぱなしの銀色の紙が、まだ昼休み中の騒がしい教室から取り残されたみたいに見えた。

俺も図書室に入荷したっていう料理の本でも借りてくりゃよかったな?

柳に頼んで取り置きしてもらうか?

「…同じじゃよ」

携帯を取り出して送信画面を開いた時にぽつりと言われた。

一瞬なんの事か分からなくて体を起こしたら、

「大学はもちろん建築科に行くが、高校も工業の方が有利じゃ」

雑誌から顔を上げて蛍光灯を見ながら、

「でも三連覇の誘惑には勝てんぜよ」

「ってぇな…」

俺の髪をわしゃわしゃと掴まれたけど手を払う気にはなかった。

「高校こそは三連覇じゃ。手始めに今年優勝して幸村の席作っとかなきゃの」

今幸村くんは治療のために日本を離れている。

あのときと同じく俺達に「必ずコートに戻る」と約束して行ってた。

だから俺達は今度こそ無敗を守り通さなきゃいけない。

「誕生日おめでとう、丸井」

「…バーカ」

「痛いナリよ」

一年前に叶えてくれなかったプレゼントを今さらもらっても切ないだけだから、目の前のゴミを投げつけてやった。

(20150420・'15丸誕)
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