短編


七福神選抜総選挙


初詣の帰りに初売りで賑わう商店街にそれはあった。

「ちょっ?!何コレェ…」

後半吹き出して声が裏返った幸村が肩を揺らした。

幸村の視線の先に赤也も指を差して、反対側の手で柳の肘を掴んだ。

「柳せんぱい、アレっ?!ちょぉっ?!」

「ほおう?七福神か、縁起物らしいな」

と顎に細い指を掛けて小学生くらいの少年達がはしゃいでいるパネルを見付けた。

「確かに七福神詣での手間が省けるな」

若干嘆息したような真田の後ろで柳生が眼鏡を押し上げて、

「よく観光地辺りにありますね」

「…おまんヒーローショーとか好きじゃもんな」

興味なさげな仁王の顔が電車の方を向いている。

「あー、チビたちにお土産買って帰っかな?」

少し離れた所で頭の後ろで腕を組んでいた丸井に腕時計を見ていたジャッカルが、

「じゃぁ俺も帰り寄ってもいいか?」

「んじゃ、ジャッカルの奢りシクヨ、幸村くんっ?!」

驚いた丸井の声に何事か思えば、小学生達が捌けた七福神のパネルから顔を出した幸村が手招きしている。

嫌な予感しかしない。

しかも幸村は笑顔だ。

新年に相応しい邪気がない満面の笑みだ。

中学生にもなって小学生じみた真似を、一部は中学生に見られた事が久しいくらい遠い日の自分達がパネルから顔を出すのは非常に躊躇われる。

パネルの顔は七つ、自分達は八人。

気付いた瞬間から牽制が始まる。

「精市は毘沙門天か。では俺は弁財天にするか」

といち早く足を進めた柳を慌てて赤也が引き留める。

「え?え?柳せんぱい、本気っスか?」

「江ノ島に来る恋人達を破局に導いてやるのも一興だろう?」

と真しやかに囁かれている噂を持ち出した柳の語気に投げやりな覚悟が見られた。

「まぁ、幸村が毘沙門天っつーのも意外だけど月プロで上杉謙信に例えられてたからそれ繋がりかぁ?俺は寿老人でいいかな」

と半分自己犠牲で片笑いしたジャッカルへ、

「どちらかと言えば福禄寿の方だろう。俺は大黒天がいいのだろう」

完全に諦めた顔の真田が一歩先に進んだ。

「それはダメだよ、真田」

「む?」

にこやかに駄目出しをした幸村は赤也を指した。

「来年の立海を背負うのは赤也なんだから、赤也が大黒様でお前が寿老人ね」

「俺っスか?!」

思わず逃げ腰になる赤也の背中を仁王が押さえる。

「50年後の予行練習じゃな」

「…たわけが」

吐き捨てた言葉に覇気はなく、祖父の頭が頭から消えない真田を他の部員が同情の眼差しで見ていた。

「んでブンちゃんが布袋様じゃな」

布袋様の腹を見た後、人の悪い笑顔を向ける仁王を軽く蹴った丸井もやけくそに、

「だったらエビでタイどころかクジラ釣りそうなてめぇは恵比寿さんでいいだろぃ」

「ブっ、ブンちゃん痛いナリ〜…」

しっぽのような後ろ髪を引っ張りながらパネルの後ろに連行していく。

「それでは僭越ながら私が撮影させていただきますね」

とデジカメを構えて上手くかわした柳生も次の回で禿頭の犠牲者になる事を予想してなかった。

(20150101)
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