短編


お姫様のキスが必要だ!

※下ネタ注意


「ほげぇぇぇぇぇ???!!!」

部室の外から幸村の叫び声が聞こえた。

神の子にあるまじきなんつー声出してんじゃ?

「どぉぉぉしたぁぁぁっ?!幸村ぁぁぁっ???!!!」

案の定絶叫しながら真田が飛び出す。

相変わらず過保護な奴じゃと周りを盗み見たら、ユニフォームの襟を整えとる柳が、

「確か精市はシューズを日干ししていたな。大方虫でも入っていたのだろう」

なんつっとる、天気いいからシューズ干すっつう発想な、そこが幸村ぜよ。

丸井くらいになると昼休みにいきなり中履き洗い出すから、チビッ子のいるおうちは違うのう?

「どれ、弦一郎でも止めに行くか」

ラケットとノートを持って真田が開けっ放しにしたドアをくぐってく。

「少し気になりますね」

なんて耳打ちしてきた柳生、おまん面白がってるじゃろ?

丸井と赤也も悪い顔して駆け出した事だし、俺らも行くかと柳生の肩に手を掛けて歩き出した。

部室から出たが幸村の姿がない。

どこから叫んだんだ?とそのままコートに着くと、入り口に近いベンチの脇で右の足の裏を押さえて倒れ込んどる幸村と、その前に膝をついて右往左往しとる真田がいた。

そして、何故か二人から離れた所に立つ柳…?

「おうおう、どうした神の子?真田も真っ青なデカイ声出しおって?」

コートから部室まで届くなんざ副部長だけだと思っていたが、中々やりおるの。伊達に神の子は名乗ってないっつー事か?

「なっ、なんか、踏んだ…っ」

自慢の肩ジャージも崩れるくらいに背中を丸めた幸村は涙目で足の裏を握っとる。

参謀が虫って言うから、この時期じゃけバッタかカマキリでも入り込んだか?

幸村がぶん投げたらしいシューズを拾って中を覗いたが、ウチの部長を泣かせた功労者はもういなかった。

…つか、妙に新品めいたシューズが引っ掛かる、人並みに異臭は発しとるが。

まだ地面に寝転んどる幸村にシューズを差し出した時だ。

「あ、カエル…」

誰かの呟きの方へ目を向けると赤也が嬉しそうに掴み上げたところじゃった。

「えへへっ、かわいいっすねー」

イラスト辺りで見掛けるまんま緑色のカエルを手のひらに乗っけて喜んどる。

「よく触れんなー?」

丸井がガムをふくらませながら、赤也の手の中のカエルを覗き込んだ。

「え?触れないんすか?」

すっげぇ驚いた顔した赤也はまじまじと見つめ返す。

「いや、弟がちっこいから虫触ったりすっけど、わざわざ触ることはないだろぃ?」

ここは先輩のプライドがあるらしい丸井は人差し指でカエルの頭をつついた。

つつかれたカエルがゲロゲロって鳴くが、そこもおとぎ話か漫画そのままで、なんぞ現実味がないのう?

「恐らくアマガエルだな。赤也、触った後は手を洗うんだぞ」

「丸井君もガムを食べる前にきちんと洗いたまえ」

ガムを吐き出そうと包み紙を開いた丸井を後ろから見ていた柳生には今から食べるところだと思ったらしく、潔癖気味な柳生の気遣いに丸井は頭の上で手をひらひらさせて応えた。

「先輩たち、カエル嫌いなんすか?」

急に赤也がカエルを俺達の方へ向けてきた。

「…貞治は好きだな」

「私は鳥類が好みですね」

「俺は猫だけじゃ」

まぁ、何もツッコまんけど?柳生、柳?なんでさっきから俺より後ろへ下がろうとすんのじゃ?

赤也が近付く度に俺の背中を押すのは止めんしゃい。

「えー…?ジャッカル先輩もすか?」

俺達が興味ないと知るとつまらなさそうな顔した赤也はカエルをジャッカルに差し出した。

「そういや、オタマジャクシでビビッてたよな?」

「誰だってあんな所に大量のオタマジャクシがいたらビビるだろうが!」

丸井に茶化される前にカエルを大事そうに撫でるジャッカルは両生類にまで優しい男じゃ。

どっかの後ろにいる二人にも持ってもらいたい本物の博愛ナリ。

「つーか、カエルを足で触るってどんな感じよぃ、幸村くん?」

やたらジャージの裾で指を拭ってるブンちゃん?やっぱ手洗った方がええじゃなか?

「んー?ちんこ踏んだ時と同じ感触──」

「キェェェェーっ!」

ばちこーんと奇声と一緒に幸村がブッ飛んだ。

「それは言わない約束だろうがぁぁぁっ?!」

肩で息をしながら半分眉毛下がってそうな真田、おまん意外とトラウマ持ちじゃな?

「…自分から白状しているぞ、弦一郎」

開いてみたけどやっぱりノートを閉じた参謀もメモる気にならんくらい酷いオチか?

「しかしどういう状況なのでしょうかね?蹴るではなく踏むとは…」

柳生、眼鏡押し上げるんはええからさっさと俺のユニから手を離しんしゃい。

「そういうプレイなんじゃなか?」

カエルはちゃんと赤也とジャッカルが捕まえてるみたいだし。

「そんな如何しい訳がなかろう!あれは七歳の時だった」

「おいっ?!なんか真田が語り出したぞ?!」

「その話、長くなるのか?」

なぜか焦るジャッカルに心底嫌そうな顔の柳は集まり出した1、2年に今週のメニューを配り出した。

「寝惚けた幸村に誤って踏まれただけだ!」

「というか、中一の時じゃなかったっけ?」

「お前が何度も踏むから俺は、」

「いや、別にあれがなくったってお前は生まれながらに皇帝だから?」

幼馴染みの幸村が言うから生まれながら皇帝なのは本当なんじゃろ…、もげろ。

「つか何度もチンコも踏まれる状況とか運の悪さってなんだよぃ?」

やっとまともなツッコミを入れたのは丸井だった、むしろ三強のボケは丸井しかツッコめない。
「精市の寝惚け具合と寝起きの悪さは部内一だからな」

心当たりがあるのかうんざりした柳が俺達に背を向けて本格的に指示を出したのを確認した丸井は悪い顔になってささやいた。

「赤也。そのカエル、真田のチンコと同じ感触だってよぃ?」

「げっ?!マジッすか?!」

いくら尊敬する真田副部長でもアレまでは無理なのか、あんなに可愛がってたカエルをぶん投げよった。

「ちょっ?!おまっ、いきなり投げたら可哀想だろうがっ?!」

遠くにブッ飛ばされて潰される前に慈悲深いジャッカルはラケットで掬うようにキャッチした。

でも真田のってのが気になるらしくカエルを直視できないし、もう触れないらしい。まぁ、気持ちは分かるがの。

「あ!そうだ、あいつらにやるか!」

悪い顔のまんまの丸井はジャッカルのラケットからカエルを掴むと、女テニ側のコートに走って行った。

何する気だ?と眺めてたら、女テニの一人がすっとんきょうな声を上げた。

…うん、まぁ、言ったんじゃろうな…。

その内数人が人の悪い顔してカエルの頭をつついてみたり、腹を触ったりしながら「柔らかくない?」「まじ?え?まじにこんなんなん?」「こんなにぐにゃぐにゃなの?」と言うの聞いて、

「分かってないな、ナマコ並みだよ」

何故か自慢気な顔をする幸村、キモいわ!そんなん例え!つか下ネタになると生き生きするな?

「笑止!俺の一物は黒樫より硬いわ!」

謎の高笑いをする真田、どこの官能小説じゃ?こっちも最近吹っ切れてきたのか色々大丈夫かの?

「真田君、キャラを忘れてませんか?」

眼鏡を押し上げた柳生がなんの断りもなく俺を使ってストレッチを始める。

「黒樫ってマホガニーかなんか?」

「マホウガニってなんすか?」

オッサン並みにくどい比喩のせいで話の流れが読めなくなったジャッカルへ、

「まず黒樫はブナ科、マホガニーはセンダン科だな」

言い間違える赤也を華麗にスルーする柳は赤也の手を取ってガシガシと懐紙で擦り、無闇に眼鏡を光らせた奴は、

「マホガニーと言えば世界三大銘木のひとつで、生産者による盗難品ではない証明がつく程の高級木材ですね。マホガニーの机と言えばお分かりでしょうか?」

憧れますねぇなんて紳士面して言ってくれるが分かるか、坊っちゃんめ。

「跡部が使うような机と言った方がよいか?」

「ええっ???真田ふくぶちょーのちんこって跡部サンの机になるんすかっ?!」

「なんでそうなるんじゃ、赤也…」

参謀の例え台無し…、なんぞ想像したらしい柳は普段の菩薩顔が有り得ないくらい顔が引きつっとる。

「つかナマコって食えんじゃん?高級食材だかだろぃ?イメージ的に柔らかいんじゃね?知らないけど?」

散々ネタにされておいて食える食えないの話題になれる丸井はすげぇな…、それ以前に俺はコノワタ苦手ぜよ。

「以前テレビで観た際には、擦れば擦る程硬くなり、最終的に釘が打てるレベルになっていたな?」

「えぇっ?!真田ふくぶちょーのちんこで釘打てるんすか?!」

「擦れば擦る程…成る程意味深ですね」

おまんも紳士どうしたっ?!染まっちゃいかん、おまんだけはアッチ側に行っちゃいかんぜよっ?!

その時向こうの方で一際甲高い笑い声が上がったかと思ったら、品性もクソも全くない女テニどもが調子に乗り、カエルの後ろ足を持って「おちんちんびろーん」って笑っとる。

それを見て腹を抱えて笑う幸村に無意味に狼狽える真田が面白すぎるのう?

さすがのカエルも後ろ足だけで振り回されるの嫌だったらしく、掴んでる女テニの手を死に物狂いの力で蹴飛ばして逃げた。

空中を飛ぶカエルを行き先を眺めていたら、一番背の高い女子の首辺りに着地した。

飛び付かれた女子は悲鳴を上げあげながらしゃがみこんだ。

おーおー、可哀想にのう…泣いとるか?と同情してればこっちもこっちで、

「…そこまで俺の一物を厭うか…」

膝を付いて項垂れる姿に皇帝の威厳が微塵もない。

「案ずるな、突然玉茎を押し付けられたら誰だって動揺する」

と言う親友もフォローのしようが分からんらしい。

まぁ、なんつーか、おまんら早くちんこから離れろ。

(20140925)
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