短編


激震!お年玉暴露大会


「ハイ!今年もやって参りました!テニス部恒例お年玉暴露大会!!」

いきなりミーティング?!って思えば、テンション高い幸村部長がホワイトボードを叩いた。

「昨日、全員に任意で入力してもらったお年玉のランキングを発表したいと思う」

パソコンいじりながら言ってる柳先輩見て、そういや、そんなイベントもあったっけなと思い出した。

「部員52人中の上位10人を当てるまでは帰れないとの精市からのお達しだ」

「それじゃ、始めるよ!お年玉帰れまten!!」

いやいやいやいや…。

それなんかの番組の影響っすよね?モロパクッてますよね?

ったく、ウチの先輩ってどうしてこうもお祭り好きなんだか…。

今日はすき焼きだから早く帰りたいのに…。

「ルールは昨年と同じ、前日までにこの表に金額を入力してもらうと、順位のみが表示される。このパソコンを管理してる俺にも入力してもらった金額は分からない。先代が作成したプライバシーに配慮した仕様の表だな。なお、大会後には全員の前で破棄する規則もあるので安心してくれ」

柳先輩が言い終わるとホワイトボードにランキング用の表が写された。

…だからプロジェクター持って来いって言ったのか。

なんかこう、妙な気合いの入れ方と言うか、遊ぶ時も全力っていうか…。

「全っ然読めねぇんだけど?柳、ヒントのないのかよぃ?」

ガムで風船作った丸井先輩グッジョブ!

みんな結構もらってそうで全然誰も予想できないし…。

「そうだな、昨年不参加だった精市は…、23位だ」

丸井先輩に言われた柳先輩がまたパソコンいじったら、ホワイトボードに写し出された幸村部長の名前と順位に部室がざわついた。

「ウッソ?!意外と低いじゃん?!」

ヒントくれって言ったクセに文句を言う丸いブタ。

「あー…、うち普通だよ」

苦笑いしてる幸村部長に悪いんですけど、充分金持ちだと思うんすけどね?

「神奈川のビバリーヒルズとか言われてんのに?」

投げやりな仁王先輩は腕をテーブルに放り出して、

「ウチは親戚もいないけ、お年玉ゼロ家庭じゃ」

いきなりランキングバレきたしっ?!

それに笑顔で毒吐きコンビはキレた笑顔で、

「仁王のようにゼロ申告が9人いた事も付け加えておこう」

「あくまで自己申告だからね」

あー、これはもう明日の部活の時に仁王先輩をいじめてやろうって笑顔っすか…、ゴシューショーサマ。

「これで42人、約4分の1ですか…、なんとかなりそうですね」

眼鏡をカチャッとさせる柳生先輩に

「…上位数名はある程度予測付けられるからな」

渋い顔で腕を組む真田副部長も早く帰りたくて仕方ないハズだ、家族でカニ食いに行くって言ったもん。

「ここはチャッチャと当てて帰りましょうよ!」

いつもお世話になってる真田副部長への恩返しのチャンスだ。

「赤也がやる気出したみたいだね。じゃトップバッターね」

笑顔の幸村部長に使命されても余裕っすよ?

俺には切り札があるんで。

「じゃ真田副部長!」

去年2位だったの覚えてる、今年もベスト10に入ってるに決まってる!!

「オイ、最初から真田はナシだろぃ?」

「最初だから肝心じゃろ」

「さぁ、真田弦一郎!今年は何位か?!」

ぼやく3Bコンビを面白がって煽る幸村部長に、

「第…」

「いや、溜めんな?!」

「……」

「長いって、柳?!」

「早くしろ、蓮二」

「9位!!」

悪ノリしやすい柳先輩でヤバさマックス。

そして真田副部長の順位にびっくり?!

え?ちょ…、去年2位じゃなかったっけ?

「…なんじゃ、今年は配る側に回ったんか?」

仁王先輩も予想できなかったみたいで、渋い顔で腕組んでる真田副部長を意外そうな顔で見てた。

「…配る側と言うか、不要な側と見なされているのか…そろそろ配る側と思われているのかも知れん」

と帽子のツバを下げた真田副部長に部室の空気が一気に重くなった。

うん、…まぁ、なんとなく言いたいことは分かるッスよ真田副部長。

遊びに行くときも生徒手帳持って行かなきゃならないのも慣れっこスけどね…。

「さぁ!老け顔真田はいつもの事だから、次!」

きれいな顔から全く想像できないくらいのデリカシーゼロの幸村部長が止めをした。

真田副部長は頭を下げたまま微動だにしない…。

「ハイ、丸井!!外したら俺にガムを献上する事!!」

「ちょ、幸村くん?!」

重苦しい空気にプレッシャーまで乗せたご機嫌な幸村部長に丸井先輩は焦りながらラケバにガムを隠してる…。

「と、りあえず?!信じてるぜぃ、ジャッカル?!」

「俺かよっ?!」

困ったときのジャッカル様頼みの丸井先輩はたぶん何も考えないでジャッカル先輩だと思う…。

ジャッカル先輩高速で十字切ってるけどキリスト教だったっけ?

「さて、ジャッカルの順位は…」

意味ありげな柳先輩のあとにドラムロール?!

パラパラとカウンターみたいに変わるホワイトボードにどんだけこのどうでもいい遊びにこだわってんだっ?!

いやいやこんな手の込んだ演出するよりもっとやることあるでしょ?!

赤也くんと試合とか赤也くんの宿題とか赤也くんのテスト勉強とか…。

ジャーンってシンバルがなったかと思うとパンパパ〜ンってファンファーレがなった。

画面のカウンターがゆっくりになって、十の位が「1」に固定された。

「これきたんじゃね?」

ふくらませたガムを割った丸井先輩は余裕こいて頭の後ろで腕を組んだ。

「いや、そんなハズねぇだろ…」

口を手でおおったジャッカル先輩に仁王先輩が肩に肘をかけて

「いやいやジャッカル君ちは意外と貰ってると思うぜよ?」

ニヤニヤ余裕ぶってるけど、ホントは早く帰りたいみたいな空気がある。

気になるカウンターの一の位が止まりかけている、「2」「7」「1」に変わる度に先輩たちの顔がモロに一喜一憂してる。

試合でもこんなの見られないのにおもしれぇって、ランキングよりこっちのほうに興味が出てきた。

ついに「5」で止まりそうになった時、丸井先輩の絶望的な顔。

マジで真っ青。

あーりゃりゃ、これガムより幸村部長のはしゃぎっぷりが怖そうだなって思った瞬間「0」に変わった。

「おっしゃ!!」

椅子に立ち上がってガッツポーズをした丸井先輩は、

「ジャッカルよくやった!!俺は信じてた!!」

「イテッ?!」

思いっきりジャッカル先輩の頭を叩いた。

のに。

止まったかに見せかけてゆっくり「0」が動き出し、「3」で完全に止まって画面が真っ青になった瞬間の丸井先輩の顔…。

この世の終わりを見たみたいに真っ青通り越して真っ白…。

「残念だった、丸井。ジャッカルは13位だ、まぁ、明日の部室と用具室の掃除でいいだろう」

てシレッと言う柳先輩まじ参謀…。

「…ジャッカル、」

虚ろな目の丸井先輩がジャッカル先輩の袖を引っ張るから

「…なっ、なんだよ、ブン太…?」

ジャッカル先輩もどもっちゃったよ…。

「俺ら、死ぬ時も一緒だぜぃ…」

「…あぁ…いや?…それはないだろ?」

雰囲気の流されて思わずうなずいたジャッカル先輩だったけど、すぐに否定した。

「ジャッカルのクセに!ジャッカルのクセに!」

「イッテ?!いてぇつーの!!止めろ、ブン太!!」

掃除くらいで泣きギレしてハゲ頭をペチペチ連打するを丸井先輩をジャッカル先輩がなんとかホールドしてた。

「暴れ豚は飼育委員にお任せして、仁王ね!」

笑顔でひでぇことを言うときが一番輝いている幸村部長に指名された仁王先輩はやっと出番かってカンジになんか企んでる嫌な笑いをして、

「まぁ、ここは柳じゃろうな?」

鋭い視線を柳先輩に投げつけた。

「さて、」

詐欺師モードの仁王先輩を受け流すみたいに柳先輩は指を顎に添える。

「真田とソッコー友達になる辺りと特技が茶道なのが育ち良すぎるじゃろ?」

「育ちが良いと言われて悪い気はしないが、それがお年玉に比例するかと言えば別物だ」

「謙遜しなさんな」

「事実を言ったまでだ」

なんつー腹の探りなんだ…。

緊迫した空気に幸村部長はとっても楽しそうで、プラチナペアは死んだまま、真田副部長は部誌を書き始めて、柳生先輩は我関せずに本読んでた…。

だからなんで風紀委員の二人はこんなにマイペースなんだか…。

そんな中更に嫌なカンジに口の端をつり上げた仁王先輩に、柳先輩は優雅な手つきでノーパソのボタンを押した。

さっきと同じようにホワイトボードに十の位と一の位がランダムにカウントする映像が流れる。

俺の番じゃないけど、数字がチラチラ動くっていうのは結構心臓に悪いかも…。

すごいドキドキしてきた…。

なんか耳の中がドクンドクンしてるような…?

あ、でも、別な音も聞こえる?って思って耳をすませてみた。

ざわ…    
ざわ…


「ヤバイヤバイ!仁王先輩顎尖ってる顎尖ってるから?!」

イリュージョンいいから?!

やたら完全度高いから?!

「黒背景の方がいいか?」



ざわ…   
ざわ…




「ムダな技術!ムダな技術っすよ、それっ?!」

だから柳先輩も意外なとこでノリやすいから?!

イメージが超ちがいすぎて、俺の中の柳先輩のイメージが壊れてる…。

ざわ…ざわ…タイムを思いっきりイリュージョンして満足した仁王先輩はいつもみたいに「プリッ」と鳴いて元に戻った。

そこを狙ったみたいにランダムに動く数字が固定された。

写し出された数字を見て、一言。

「なん…だと…?」

真っ白ですね、本当にありがとうございます柳先輩予想外の27位でした。

「んじゃぁ、仁王は明日外便所の掃除ね」

机に突っ伏した仁王先輩のちょろ毛を幸村部長が嬉しそうに引っ張ってる…。

柳先輩が10位ランクインしてないってことで他の部員たちも予想できなくて焦ってる。

外したらクソさみぃのに部活後の掃除を押し付けられる。

てかその前に何時に帰れんのって話か…?

でも、去年三学期を楽しめなかった幸村部長のためにちょっとはがんばろっかなっては思うかも?

(20140131)
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