友達の友達には同情しか持てない
部活もない日曜日に真田に呼び出された。
お裾分け的なやつかな?と思ったら、出迎えの玄関先で一枚の半紙を見せられた。
また四字熟語攻撃かと身構えたら、水墨画。
残念ながら水墨画の方は全く知識も造詣もない。
評価もアドバイスも無理だと言う前に、
「図面を起こしてくれ。」
は?この筆の掠れで幽玄な雰囲気をこれ以上どうしろと?
「この図のルアーを手塚にプレゼントしようと思うのだ。」
「‥‥‥」
何言ってんの、こいつ?
「青学は各々が自作のルアーを手塚に渡す事にしたらしい。」
それは分かる、青学だからね。
「それで大石から連絡をもらって、俺も作らないかと…、」
「‥‥‥」
お前いつの間に大石と連絡先交換したんだ?
「他にも、手塚と親しい跡部や白石、木手にも声を掛けたそうだ。」
「‥‥‥」
何この間?真田の早口もイラつくし、変に恥ずかしいんだけど?
「‥‥‥幸村?」
「ふーん?」
なんか痴話喧嘩みたいだなと思った自分が恥ずかしくて馬鹿みたいだと気付いて、わざと乱暴に靴を脱ぎ捨てて中に上がった。
「ゆ、ゆきむら…?」
「あのな?立体図?は落書きの延長のイラストとは訳が違うんだよ。」
機嫌取るように慌てふためく親友に更に苛立って、俺の声に険が混じる。
「う、うむ…、しかし幸村しか…、」
「ルアー?ただの正方形ならまだなんとかなっただろうに、あんな魚の形みたいな複雑な物に起こせって、暇を持て余して死にそうな休みにはちょうどいい知恵の輪だよ。」
怒ってるアピールで足音を立てて家主より先に廊下を歩く。
普段なら静かに歩けと怒鳴るところだが、今日は言えないよな?
真田の都合で無理難題吹っ掛けて来たんだから。
ダンダンと踏みつける音に違和感を覚えて振り返ると、ずっと後ろの方で真田が立ち止まってる。
俯いてる。
「しかし俺には幸村しか頼る者がいないのだ…。」
「…、こういうの仁王が得意だと思うけど?」
親友を傷付けた罪悪感は別な友人の名前を出す事で誤魔化した。
余計に目線が下がった真田と奥歯の中が痒くなったのに気付かない振りで、勝手知ったる真田の自室に乗り込んだ。
障子を開け放った瞬間厳かな気分にさせる上質な墨の匂い。
部屋を埋め尽くす勢いに広げられた水墨画達。
「で、ルアーの作り方知ってるの?」
半紙の隙間に座って手近な原案図を引き寄せた。
天然の癖に自分のキャラを分かってか、テーマは和風で色々描きまくったようだ。
ルアーって釣りの時に使うエサ代わりのアレだろ?
教室で休みには釣りに行くんだって話は聞くが、新しいルアー買ったとか自慢しに実物を持って来る奴なんていないから、どんな物かよく思い浮かべられない。
真田はルアーがどんな物か分かってて作るって言ってんだよな?
二枚、三枚と手に乗せる水墨画はこのまま飾って置きたい雄大さと繊細さを兼ね備えている。
「真田?」
いくら待っても返事がないと思ったら、自分の部屋の前で所在なさげに立っている。
「何やってんだよ?どれにするか決めたんだろ?」
真田を煽るように半紙が痛まない程度にヒラヒラ上下させたら、急に明るい顔をして俺の隣に膝をついた。
「手伝ってくれるのか?」
「手ぶらで帰るのも癪だしね。」
何より長い付き合いの友達の頼みを聞かない筈がないだろう。
「うむ、…そうか、すまんな、幸村。」
言葉は謝ってるのに嬉しそうな背中でルアー作りの道具を運んでくる真田には敵わないな。
胡座かいた膝に頬杖をついた俺も悪態つく割りには口元が緩んでいる。
なんだかんだ言っても、一番付き合いが長い友達だしね。
無茶な願いだって余裕でこなす自信はあるよ。
並べられていく材料を眺めて、
「どの絵にするか決めたかい?」
長方形の木材やトレーシングペーパーを手元に寄せてみる。
あれだな、小学生の図工で作ったトーテムポール風な長い鉛筆を思い出してきた。
小刀の使い方の授業で、薄い木屑ができた時にはちょっと得意気になったっけ?
それで使い道がないあのトーテムポール鉛筆はどこへ行ったんだろう?
と思った視線の先にありました、まさか真田の道具箱にあったなんて…。
ホント、お前と付き合いだけは長いよな?
カッコつけて流行りの怪獣を四面に書いても、隙間に描いた不格好な花はダリアなんだろうな。
鉛筆削りにも入らないくらい太くて、小刀かカッターで芯を研がなきゃならないから押し付けた奴なのに…。
物持ちがいい上に律儀な奴。
「幸村、これにしようかと思うんだが。」
「ん?いいんじゃない…?」
差し出しされた半紙を見ないうちに答えて後悔した。
「そうか、いい感じか。」
ご満悦な真田となめこの水墨画に手塚に同情するしかなかった。
(20131013・'13手塚誕)
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