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▼Don't reset it /フラウィ



 12月。
 生まれた時から地下世界しか知らないぼくは、暦に合わせて季節が変わるなんてことは知らなかった。けれど、スノーフルの街並みを見た親友はそう言ったんだ。この街に来ると、12月を思い出す。みんなが幸せそうにしていたのを思い出してむかつくってさ。親友はこの世界にたった一人のニンゲンだったけれど、どうしてかニンゲンのことが大嫌いだったみたい。でも、そんなことはぼくにはどうでもよかったんだ。兄弟のように育った親友がニンゲンの世界に帰りたがらないのは、ぼくにとって嬉しいことだからね! そもそも、遠い昔に張られた結界のせいで、こちらから地上に行く方法は無かったし。

 ……いや、本当のことを言うと、結界を超える方法はあったんだ。でも、それにはニンゲンとモンスターのSOULが1つずつ必要だった。ぼくね、本当は知ってたんだよ。親友が病気で死んだんじゃないって。体の大きい父さんでも、バターカップの花にはひどい目にあってたから。あれは実験だったんだろう。
 でも、ぼくの親友はそうまでしてニンゲンを殺したかったんだ。そうしないと、殺されると思ったんだろうか? 地上の世界でどんな風に育ったのかは知らないけれど、あの子はこの世界が『殺るか殺られるか』だって考えていたんだ。


 あいつだ。あのニンゲンが来てから、ぼくのSAVE能力が奪われたんだ。一体何者なんだ? まさか、あいつの決意のほうが、ぼくより上だっていうのか……? うるさいな。これはきみに話しかけたわけじゃないよ。はぁ、なんだってSAVE能力の代わりが、全然知らない、姿も見えないやつの声が脳内に聞こえる能力なんだろう。まったく釣り合ってないし、むしろ迷惑だよ。そもそもきみも地上のニンゲンなんだろ? え? ぼくはニンゲンじゃないのかって? ぼくはニンゲンでもモンスターでもない! だって、ぼくにはSOULが無いからね。だからひどく退屈してるんだ。SAVE能力が奪われたのは癪だけど、あのニンゲンがこの退屈をどうにかしてくれるんじゃないかって少し期待してる。それにちょっと親友に似てるし……。
 うるさいな、お前に話してるんじゃないってば。ぼくの独り言にいちいち応えるなよ。



 スノーフルは寒いから嫌いだ。うっかりしてると、根っこまで凍ってしまいそうだよ。地上なら12月だけなんだろう? え? それ以外の月にも雪が降る? かと思えば、降らない地域もあるって? なんだ、結局地下と一緒じゃないか。サンタはこっちにだって来るよ。むしろこっちは年中来るんだから、地上のほうが大したことないね。そうそう、あいつのことだけど、Torielを殺したくせに他のみんなとは仲良くしようとしてるんだ。笑えるだろ? 他のモンスターを見逃すのは、優しさじゃない。見逃すのが簡単だからってだけさ。Torielは強かったから、邪魔だったんだ。きっとあいつならAsgoreも殺すだろうね。それが本性なんだよ。え? 止めないの? って……当たり前だろ。ぼくには誰が死のうと関係ないんだ。Torielが死んでもちっとも悲しくなかったよ。うん……Torielでも駄目だったんだよ。Torielでも、ぼくを悲しませられなかった。……あぁ、クソ、ほんとにここは寒いな。早くどこか違うところに行きたいよ。ぼくはこの世界のどの人にも、どの場所にも、花でいることにも飽き飽きしてしまったんだ!



 またスノーフルだよ。あのでっかいツリーを見るのもいい加減嫌になるね、まったく。きみは見てみたいというけれど、地上にだってあるんだろ? わざわざ見るほどのものじゃないよ。
 そうそう、地上といえばあいつ、自分だけ地上に戻るエンディングじゃ納得いかなかったみたいだよ。どうせやり直すなら、別にぼくを見逃す必要なんてなかったのにほんと馬鹿だよね! 今はせっせとみんなとお友達ごっこに励んでるみたい。
 は? ふざけるな。ぼくがそんなのに混ざるわけないだろ。ぼくのSOULはこの雪みたいに冷たいんじゃない、無いんだよ! 空っぽなのさ! だからね、ぼくは最後の最後であいつを絶望に叩き落とすための計画を用意してるんだ。なんでそんなひどいことをするのかって、そりゃこの世界は『殺るか殺られるか』だからさ。それを教えてやってるんだよ、ぼくは。ふふふ……楽しみだなぁ。こんなにわくわくするのはいつ以来だろう。正直、今がずっと続けばいいって思うくらいさ。鬱陶しいきみとの会話にも、いい加減慣れてきたしね。




 ねぇ……まだ、聞こえるかい? あぁ、よかった。きみがいてくれて。……なんだよ、そんなに驚くことないだろ、今のぼくはSOULを持たない花じゃないんだ。一時的だけどね……。ぼくはただ、もう一度誰かを愛して、思いやりたいだけだったんだけど……まさかこんな形で叶うとは思わなかったなぁ。え? 結局計画はどうなったのかって? いいんだもう……ぼくが間違ってたよ。結界がなくなって、みんな自由になったのさ。これからみんなは本当に『殺るか殺られるか』の世界に行ってしまう。だけど、みんななら……あいつ、Friskがいるなら大丈夫かなって思うんだ。ぼく? ぼくは行かないよ。もうじきまたあの空っぽの姿に戻ってしまうし、ぼくはみんなと行かないほうがいいんだ。
 ……待って、きみが来る? こっちに? そ、そりゃ結界はなくなったし、きみがこっちに自由に出入りすることはできるけど、ぼくは花に戻ってしまうんだよ。思いやりの気持ちを持っているAsrielじゃなくなってしまうんだ。え? それは誰って……Asrielはぼくのことだよ! 
 そう……。そうか……きみは『Asrielなんか知らない』って言うんだね。『わたしの友達はお花だよ』って。その、きみって、えっと……ほんとうに馬鹿なやつだね! こんなに馬鹿なやつに出会ったのは初めてだなあ! そういうやつを殺して絶望する顔を見るのも楽しそうだけど……うそうそ、安心していいよ。ぼくにSOULはないけど、MEMORYはあるからね。
 うん、きみはスノーフルのでっかいツリーを見てみたいって言ってた。ぼくは寒いしあんなとこ大っ嫌いだけどさ……きみを案内するのもいい退屈しのぎにはなると思うんだよね。
 ……あぁ、クソ、なんでこんなに楽しみなんだろう! きみのことなんて声しか知らないのに! きみとお喋りするのにもとっくに飽き飽きしているはずなのに!
 今は誰かがすべてをリセットしてしまわないことを、本気で願ってしまっているんだよ。もちろん『キミ』はそんなひどいことしないよね……? お願い、そっとしておいて。みんなのしあわせを奪わないで。虫が良すぎるかもしれないけれど、ぼくの楽しみを奪わないで、お願いだから。

 ……いや、きみじゃなくて『キミ』に言ってるんだよ。わかるよね?