■ ▼甘やかすだけでは
自分で言うのもなんだが、もともと子供は好きなほうである。
もちろんロリコンだとかショタコンだとか、そんな風に言われるのも否定はしない。
けれどもジャポン人が語るように、完成してしまった作品の美しさもさることながら、少しくらい欠けている方がそそられるじゃないか。
特に戦闘狂なヒソカはまだまだ伸びしろのある青い果実が大好きだった。
「パパ―」
「よしよし、なんて可愛いんだろう、流石ナナとボクの子だねぇ
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」
そしてただでさえ子供は美味しいのに、自分の子供となると可愛くない訳がない。
寄ってきた今年3つになる娘ソニアを抱き上げ、片手で携帯を構えて至近距離で撮影する。「ほら、こっち向いて
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」連写機能すらも遅すぎて、せっかくの可愛い一瞬を逃してしまっているような気がした。
「ヒソカ、そろそろ甘やかしてばっかじゃなくてちょっとは訓練とか…」
「まだ早いよ、可哀想じゃないか
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」
「もう、産まれる前と言ってたこと違うじゃない」
ソニアの母であり、つまりはヒソカの妻であるナナは元はと言えばブラックリストハンター。本当はヒソカが一方的に追われる関係だったはずが、彼女に惚れこんだヒソカが逆に追いかけた。
彼女の方も初めは嫌がっていたものの、志した理由が正義のためでも復讐のためでもなく単に金がいいという理由だったため、こうしてあっさり快楽殺人者なんかと収まるところに収まっている。
そしてそんな彼女だからこそ、ヒソカ同様娘に強くなって欲しいと思っていた。
「うちはまともじゃないからせめて自分の身くらいは守れるように鍛えてあげないと。
甘やかした方が可哀想よ」
「まだ大丈夫だよ、ボクが守ってあげるしさ
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」
「そんなこと言って、本当は厳しくして嫌われたくないだけなんでしょ」
「…そんなことはないよぉ
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」
言われたことがわりと図星で言葉に詰まる。まだソニアは小さいから可哀想というのもあるが、自分が厳しくして「パパ嫌い」なんて言われたら立ち直れない。
そうでなくても女の子には父親を嫌がる反抗期なんて恐ろしいものが存在するのに、そんな早いうちから嫌われたくはなかった。
「あ、今すごく可愛く撮れたよ
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見てごらん、ナナ
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」
「はぁ……ヒソカがこんなに子煩悩だとは思わなかったな、私」
呆れる妻をよそに、ヒソカはとびきり可愛く撮れた娘の写真をメールに添付する。自分一人で愛でるのももちろん幸せなのだが、とにかく他人に自慢したい気分の時もあるのだ。
送信完了、と満足してヒソカが携帯をしまうと、思いがけず近くで着信音が鳴った。
「……わっ、イルミさんとクロロさん、いつからそこにいたんですか」
声をあげたナナの視線の先には、ベランダに佇む男二人。ソニアに夢中で気づかなかった。
彼らは黙って自分の画面を確認すると、イルミは眉を寄せ、クロロはため息をついて携帯を閉じた。
「ヒソカ、いい加減にしてくれないか」
「ホント迷惑なんだけど。お前の子供になんて興味無いから」
そのままずかずかと中に上がり込んだ二人は、不思議そうな表情をしているソニアに遠慮なく近づく。イルミなんか強引にソニアの顎を掴んで、ぐい、と顔を近づけた。
「ちょっと、イルミ
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」「ふーん、初めて生で見たけど、写真の方が可愛いね」
「失礼だなぁ
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ソニアは本物が一番可愛いよ
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」
「イルミの言い方はアレだが、いくら可愛くてもこう頻繁に写真を送ってこられても反応に困る」
「キルの方が可愛いよ」
イルミはそう言うと手を離してぷい、とそっぽを向く。それから今度はナナの方に向き直ると、脅すように針を構えた。「ブラックリストハンターは辞めたんじゃなかったの?オレの写真勝手に撮らないで」
「辞めたんですけど、記念に1枚。
幻影旅団の団長とあのゾルディック家の長男なんてすっごいお宝じゃないですか」
「お前の旦那の写真は金にならないのか」
「恨みは人一倍買ってますけど、ネームバリューがないので」
「ナナ、やめておきなよ
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イルミは冗談って言葉を知らないから
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」
幼い子供に対してもこんな調子なんだから、と呆れていたら、母の危険を察したのかソニアは急にぐずって泣き始める。「うるさい」「イルミが悪いんだろ
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」慌ててあやし始めたヒソカを、クロロは興味深そうに眺めていた。
「まったく、ソニアが泣いちゃったじゃないか
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」
「はぁ……お前が甘やかしすぎなんじゃないの?うちは下に弟が4人もいるけど、いつもこんな程度で泣かないよ」
「それ、それなんですよ、イルミさん。この人我が子に超絶甘いんですよ」
イルミの言葉に助長するように、ナナはヒソカを責め立てる。そうだろうな、とクロロまでもが相槌を打って、完全にヒソカは劣勢だった。
「写真も迷惑だが、正直今日初めて娘に対するヒソカを見て気持ち悪さに拍車がかかっているなと思った」
「見においでよって何度も誘ったのにキミ達が来ないから写真を送ってあげたんだろ
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」
「ヒソカ言葉通じてる?実物見てさらにキモいって言ってるの」
「……
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」
ぴしゃり、と冷たく言い放ったイルミになぜかナナは拍手喝采を送る。それだけならまだしも今度なんと「是非うちの子の師匠に!」なんて言い出した。
「やっぱ師匠にはこういう厳しさが必要だと思うの。ヒソカはいいパパだけど、いい師匠にはなれなさそうだから、是非イルミさんお願いします」
「ちょ、ナナ何言ってるの
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!?ソニアが殺されちゃうよ
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」
「やだよ、面倒くさい」
「じゃあ、クロロさんでもいいです」
「悪いが子守は受け付けてないな」
「じゃ、やっぱりイルミさんに依頼します。お金はどんな大金でも旦那が身を粉にして稼ぎますので」
そんな勝手にことを言い出したナナに、ヒソカは呆気に取られるばかりだ。大事な大事な娘を本気でこんな男に預けるつもりなのか。ナナは正気なのか。
しかしお金、というワードに少しイルミの心が傾いたのか、彼はうーんと珍しく悩む素振りを見せる。
「ま、いいよ。才能なかったらすぐ殺すけど」
「ヒソカの子なので、たぶん大丈夫です」
「ナナ、ボクは反対だよ
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!」
庇うように娘を抱え直し、他人の子を「あー小切手に見える」とさえのたまったイルミから距離を取る。普通こういう時って女親の方が必死になるものじゃないのだろうか。
ヒソカがじりじりと後ずさると、ナナはとうとうぷっ、と吹き出し肩を震わせ大笑いし始めた。
「……ナナ
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?」
「…っ、あは、あはは、ごめん冗談だよ」
「いい薬になったか?」
「ま、ホントにオレが躾てあげてもいいけどね」
相変わらずイルミは無表情だけれど、珍しくクロロまでもがにやにやしていて。
ヒソカはあぁからかわれたんだな、なんて今更気づく。
「これに懲りたらもう写真送ってくるなよ」
「その時は裏ルートでばらまくからね」
クロロとイルミは口ではそう言いつつ、結局ちゃっかりソニアの頭を撫でて帰っていった。
「……いつから騙してたんだい
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?」
「あの二人から私に苦情が来たの。だから今日現物はもっと酷いから見に来てって頼んだのよ」
「……そんなに酷いかい
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?」
「うん、酷い」
反省しなかったら本当にイルミさんに依頼するからね、と脅され、ヒソカは仕方なく覚悟を決める。彼に任せるくらいなら自分で修行をつけてやった方がマシだろう。
「……パパはソニアが嫌いで厳しくするんじゃないからね
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」
過保護は過保護で嫌われるとは、露ほども思っていないヒソカであった。
End
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