- ナノ -

■ 5.目指すべき場所


「それならまた、俺と暮らさないか?」

クロロがそう言うと、リアの目は大きく見開かれた。
もともと口数の多い方ではない彼女だが、クロロの誘いにうんともすんとも言わなくなる。

嫌だったのだろうか。もちろん、無理強いする気などない。

ただ、ここで会ったのも何かの縁だし、たった今電話でシャル達ともしばらく合流できないことがわかった。
ヒソカは現在俺を探して徹底的に蜘蛛をマークしている。
やはり今はまだ少し様子を見た方がいい、というのが蜘蛛の参謀の意見だった。

「…本気で言ってるの?」

「まぁな、お前にその気があればだが」

「また…クロロと一緒にいていいの?」

今にも泣き出しそうな声で言うから、クロロは少し驚いた。
てっきり、勝手な申し出に腹を立てているのかと思っていたのに…

「ああ…。
ただし、この辺のホテルを転々とすることになるが」

こくり、こくりとリアは何度も頷く。
見た目はずいぶん大人っぽくなっても、まだまだ中身は子供のようだ。

クロロはそっと彼女の頭を撫でた。

「リア、お前は変わらないな」

「うん…」

「あの時のままだ。
臆病で、儚くて、簡単にすぐ壊れてしまいそうだ」

儚さはそれだけで美だと思う。
にっこりと笑うお前も綺麗なんだろうが、やっぱり不安に満ちた瞳の方に魅了される。

リアはその小さな体をさらに縮めて、肩を震わせていた。

「クロロ…」

もっとちゃんと泣けばいいのに、彼女は声をたてずに静かに泣く。
悪い癖だと思った。

だから肩を抱き寄せて、胸を貸してやる。
彼女はびくりと身体を震わせ驚いたようだったが、やがて顔をあげて弱々しく微笑んだ。

「クロロも変わってないよ。やっぱり…優しいね」

「俺が?」

そんなことを言うのはリアくらいなものだろう。
だが、いやそれとも、とクロロは別の可能性に思い当たって思わず苦笑する。
自分が優しくする相手がリアだけなのかもしれない、なんてとても馬鹿らしいと思った。

**



「ああ?なんだよそれ、ちょっと高すぎじゃねぇか?もう少しまけろ!」

「お、お客様、そうは言われましても皆様一律の料金設定となっておりまして…」

「そりゃそうだろうが、あんまりだぜ。不具合かなんか知らねぇが、急に運行を止められて、こっちの予定は狂っちまったんだからよぉ」

「その件に関しては誠に申し訳ないと思っております。ですから、代わりのチケットを…」

ヨークシン行きの飛行船乗り場。
何やらフロントのお姉さんとスーツの男がもめているようだ。

「げ」

その男が誰であるかにいち早く気づいたキルアは、思わず呆れて立ち止まる。
そのため、隣のゴンも自然と男の存在に気づいた。

「あ!!!レオリオ!」

「ん ?この声はゴンか!?」

きょろきょろと辺りを見回すレオリオに、ゴンはおーい、と手を振る。
彼は周りの視線を集めながら、笑顔でこちらへ向かってきた。

「ゴンとキルアじゃねぇか!奇遇だな、お前らもヨークシンに行くのかよ?」

「まぁね」

「ってことはレオリオも?」

アルカと別れた後、キルアは再びゴンと合流した。
ようやくジンに会えた彼は今度は新しい世界を目指すのだと言い、その前にもう一度初心に帰るため、初めて発を考え出したヨークシンへと向かうことにしたのだ。

しかし、まさかレオリオにまで会えるとは……

「俺もよぉ、クラピカの野郎と全然連絡が取れねぇからシビレきらして乗り込んでやろうと思ってな!あちこち調べまくってノーストラードファミリーに電話かけたら、センリツが出て教えてくれたんだ。
クラピカも今ヨークシンにいるらしいぜ」

「そうなの!?なんかすごいね!」

「ああ、俺もたまたま飛行船が遅れたんだが、お前らに会えたから良かったぜ」

ふと見ればフロントのお姉さんがホッとしたような顔をしている。
値切りというより、ほとんどいちゃもんに近いレオリオの交渉は見てるこっちが恥ずかしかった。

「じゃあ、一緒に行こうよ!俺もクラピカに会いたいな」

「あいつはあんま、喜ぶとは思えねぇけどな。
まぁ久しぶりにあの真面目なツラを拝みに行くとしようぜ」

ヨークシンはゴンたち4人が再会した土地である。
そして今度もまた、この地を起点に物語が動き始めたことを、このときはまだ誰も知らない。

「そうと決まれば、お前らの分も俺がチケット買ってきてやるよ」

「えっ」

「おい、別に俺らは…」

ゴンとキルアの言葉を最後まで聞かないうちに、レオリオは再びフロントへと戻っていく。
思わず顔がひきつってしまっているお姉さんを見ながら、キルアはふぅ、とため息をついた。

「相変わらずだね、レオリオは」

「だよなぁ、あれ、こっちまで恥ずかしいっての」

「まぁ…でもなんか懐かしいよね!NGLではこんなのんびりしてられなかったし」

「それはそうだよな…」

振り返ればNGLに限らず、何度死にそうな目に合ったことか。
それでもどんな辛いときでもやっぱりいつも仲間が傍にいて…

「クラピカに会ったら、文句言ってやんないとな」

「え、なんで?」

「ゴンがあんなに大変な時に、見舞いにも来ねぇんだから」

「あはは…」

少しばつが悪そうに笑うゴンは、変わらず無邪気なままに見えた。
しかし実際にはNGLでの経験を通して、肉体も精神も強くなってる。

「再出発だな」

「うん!」

目指すべきはヨークシン。
全てはまた、そこから始まる−。

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