- ナノ -

■ 44.ごめんねもありがとうも

鳴り響いた着信音に、誰もがハッとする。
キルアは皆の注目を浴びながら、はやる気持ちを抑え通話ボタンを押した。たとえ、表示がクラピカの携帯からでも、相手がその持ち主とは限らない。

「……もしもし、クラピカか?」

自分のゴクリ、と唾を呑む音が、やけにうるさく響いて聞こえた。

**

あの後、ゴンとレオリオを呼び出したリアは何もかも包み隠さず本当のことを話した。昔クロロに世話になったこと、ヨークシンで再開したこと、そして皆に隠れて夜に会っていたこと……。そのことに対して、クラピカがどのような態度を取ったか、リアが再びクロロに会いに行って別れを告げたことも全て話した。

そして今、そのクラピカからの連絡が途絶えたと。蜘蛛を倒すためにただ一人ヨークシンに残った彼の安否が不明であると。
全部聞き終わったゴンとレオリオは、普段の彼らには似合わないくらい深刻な顔をして、そして同時に怒ってもいた。

「どうして言ってくれなかったんだ!」

二人の怒りはもっともだと思う。それにリアはクロロと繋がりがあったことをもっと責められると思っていたようだ。しかし、二人はそのたった一言憤慨の意を現しただけで、次の瞬間にはもう立ち上がっていた。

「ほら、何ぼさっとしてんだよ!早くヨークシンに戻んぞ!」

「大丈夫!クラピカは無事だよ、早く探しに行こう!」

リアは一瞬、呆気に取られていたがそれでも手を引かれるままに立ち上がる。「ごめ……」きっとその言葉はゴン達には聞こえていないし、聞こえたとしても彼らはそんなもの欲していないだろう。リアもそれがわかったのか、最後まで言わなかった。代わりにキルアの方を見て、小さく頷く。

「わかってるよ、皆で行くぞ」

いざという時に頼れるのが友達だ。親父も友達は裏切るなと言った。たとえ相手が分の悪い蜘蛛だって、倒すことはできなくても仲間一人くらいなら救えるかもしれない。
もちろん、きっとあの長兄ならばやめておけと言うだろう。勝ち目のない敵とは戦うな、それは別に針が刺さっていなくたってずっと昔から言われ続けてきたことだった。

「あ、でももし次に隠し事なんてしたらマジでしばくからな!水くせぇんだよ、ダチだろーが」

レオリオの言葉にリアは目を瞬かせる。そして少しだけ羨ましそうにキルアを見て「友達……」と呟いた。

「バカ、お前もだよリア」


─ゴンと友達になりたいだと?お前らとっくにダチ同士だろうがよ!


それはハンター試験の時にレオリオが言ってくれて、とても救われた言葉だった。境遇は違えど、友達がいなかったのはリアだって同じ。だから誰かがこうして言葉にしてやらなければ、どれだけ一緒に過ごそうと確信が持てないままなのだ。

「ありがとう……」

泣き笑いのような笑みを浮かべた彼女に、次はお礼すらもいらないんだと教えてやりたい。友達が友達を助けるのは、当然のことなのだから。

**


「もしもし……?」

そして四人は再びヨークシンへと戻ってきた。もちろん着くなりあらゆる手を尽くしてクラピカの行方を追った。

けれどもこうして実際に彼から電話がかかってくるまで具体的な情報は何一つ掴めていない。

「……私だ、すまない。心配をかけた」

電話の声が確かにクラピカだとわかったキルアは、思わずふう、と息を吐く。周りの皆に向かって親指を立てて突き出した。

「よかった、無事なんだな?今どこにいんだよ」

「悪いがそれは言えない……私には時間がない」

どこか荒い呼吸音。それはあまりに不規則で、走った後という訳でもないだろう。キルアが不審に思って問おうとした瞬間、携帯は手から強引に奪われる。

「クラピカてめー!全部聞いたぞ!また一人で無茶しやがったな!なんでてめーはいつもそう懲りねぇんだよ!」

「……レオリオ、か。お前の声は耳に響く、な……」

「おい、冗談言ってる場合か。お前なんかおかしいぞ。怪我でもしてんのか!?」

様子がおかしいと思ったら、やはりそうか。レオリオは額に青筋を浮かべながら再度今どこにいるんだよ!?と尋ねる。

「……こちらは問題ない、お前たちにはリアのことを、」「俺達もうヨークシンにいんだよ!わかったら四の五の言ってねーでさっさと場所を言いやがれ!」

「……」

なるほど、強情なクラピカ相手ならこれくらい強く言わないと駄目なのかもしれない。
しばらくの沈黙のあと、ヨークシンにあるとあるビルの名前が告げられる。

「逃げんなよ、クラピカ!」

「あ、たぶんここだね!早速行こう」

地図を広げたゴンとリアがほっとした表情で指をさす。キルアも内心で酷く安堵し、もう大丈夫だと勝手に思い込んでいた。

けれどもその間にも、着実にクラピカの時間は残りわずかなものへとなっていたのだった。

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