- ナノ -

■ 42.どう生きるべきか

「……今の行動がすべての答えだ……私はクルタ族の生き残りとして、お前たちに復讐をする……!」

目を閉じて、努めて冷静になろうとした。それでも油断をすれば喉の奥から嗚咽が漏れそうで、クラピカは歯をぎゅっと食いしばる。悲しいわけでも怖いわけでもない。ただ無力な自分が悔しくて、何もかもが憎い。目の前の男が穏やかに話せば話すほど挑発されている気さえした。

「なるほど、それも一つの生き方だろう。ただそれはもしお前が『たった一人の生き残り』だった場合の話だ」

「……」

「リアのことはどうする?クルタの血を絶やさないというのも、立派な選択じゃないか?」

クロロが今どのような表情でその言葉を口にしたのか、クラピカにはわからなかった。どうせもうすぐ殺される。いや、すぐではなく時間をかけてじわじわと殺されるかもしれない。どちらにしたって死ぬのなら、今更血を残すとか残さないとか、それが何だって言うのだろう。それにクラピカもリアも『血統のため』なんて物みたいな扱いをされることは大嫌いだった。いくら彼女にほのかな好意を抱いていても、緋の目に誇りを持っていても、こんな緋の目を物みたいに考えている奴に残すべきだと言われたくなかった。

「リアは今どうしてる?」

「……答える義理はないな」

「スパイ、だなんて思ってないだろうな。あいつは本当に俺のことを知らなかったよ。だからこそ楽しませてもらったが」

「クズめ……それ以上喋るな」

クロロがリアのことを喋れば喋るほど、奴と幸せそうに話す彼女の姿が思い出されて、叫び出したくなる。
どうしてなんだ。何も知らなかった彼女を責めるのはお門違いでも、クラピカはそう思わずにはいられなかった。なぜならあの時のリアは確かに、クロロに恋をしているように見えたからだ。

「……あぁ、少し話が脱線したな。クルタ族のことはもうどうだっていい。俺は俺で今お前が答えたように『蜘蛛』としての生き方を考えたんだ」

鎖が揺れる。どうだっていい、の言葉に頭で考えるよりも先に身体が動いた。けれどもやはり力が入らない。念を使うこともできない。「お前にはオーラの発現を抑える薬を盛ってある」だから無駄な抵抗はよせ、だなんて馬鹿げた話だと思った。

「正直、ここでお前を殺すのは惜しい。これでも希少種には理解あるほうだ。
だが『蜘蛛としての』俺はお前を殺さなければならない。仲間を殺した、お前を」

「御託はいい……殺したいのならさっさと殺せばいいだろう」

むしろこうやって、いつまでも生かされている方が屈辱だ。
しかしクロロは黙ってポケットから小さなアンプルを取り出しただけでまだ何もしない。「せっかくなんだ、もっと緋色を、絶望を見せて欲しい」注射器でアンプルの中身を吸い出したクロロは、そこで初めてクラピカの頭を乱暴に掴んだ。抵抗なんて虚しいと思えるほどの力で押さえつけられ、クラピカはその白いうなじを晒す。

「何をするつもりだ……」

「お前は『俺達が直接殺さない。』その方がよほど堪えるだろう」

クロロは知り合いに貰ってな、と言いながら針を首筋に突き立てた。「新種の毒だそうで、ちょうど1週間後に死ぬらしい。暗殺に適してると思わないか」針を刺された部分の血管が、どくどくと熱く脈打つ。確かにクロロの言う通り、すぐに苦しくなるわけではないようだ。

「お前を解放しよう」「このっ……!情けをかけるつもりか!?」

「今はそう思えても、時期になぜあの時殺してくれなかったんだ、と思うようになる。まぁ、情けと思ってくれてもいい。その方がお前には屈辱だろう」

もうクルタ族を殺すのには飽きたんだ。復讐ごっこは勝手にやっててくれ。

残酷な言葉に目の前が真っ赤になる。
声にならない怨嗟の叫びが、胸の奥で潰れて消えた。

[ prev / next ]