■ 23.月並みな慰め
「すまない、思ったより時間がかかってしま…」「あはははは!!」
「てっめー、そんな笑うこたねぇだろ!医大ってのはお前らが思ってるより大変なんだぜ!」
リアを待たせている。そう思って急いで部屋に戻ってみれば、騒がしいまでの笑い声に迎えられた。
こいつらはリアが隠れなきゃならない身ということをすっかり失念しているのか……。
呆れながらも諌めようとしたクラピカだったが、視線の先に笑顔のリアを捉えて、開きかけた口を閉じる。
何があったのかはわからないが、どうやら自分が不在の間にだいぶ打ち解けたらしい。
昔、共にハンター試験を受けた頃が急に懐かしくなって、それと同時に少し嫉妬した。
自分だけが変わってしまったみたいで、板についてきたはずの黒いスーツが憎くなる。
「クラピカァ、なんとか言ってやってくれよー。こいつら俺のこと馬鹿にするんだぜ?」
「馬鹿でなければ馬鹿にはされないさ」
「お前もかよ…ま、リアはわかってくれるよな!」
「ええ、私は学校なんて行ったことないですし」
確かにこの中で満足に学校に行ったのは、レオリオくらいのものである。ゴンは島出身であるしクラピカは独学、キルアはおそらく家庭教師だろう。
しかし、なぜかレオリオをちっとも尊敬する気にはなれない。歳もこの中では一番上のはずなのだが……。
「あの、よかったら皆さんの話もっと聞きたいな、なんて…」
「うんいいよ!俺もリアといっぱい話したいな!」
「話もいいけど、俺達そろそろ帰らねぇともう日が暮れるぜ?」
ゴンが嬉々として話し出す前に、キルアの制止がかかる。
確かにもともと日当たりの良くない部屋とはいえ窓の外はもう暗い。
ほんとだな、とレオリオが頷いて、それからよっこいしょと立ち上がった。
「女の子の部屋に長居するなんて紳士のすることじゃねーよな。ほら、帰るぞ」
「残念ながら紳士はいねーけどな」
「うっせー、ここにいるだろ。お前ゲームばっかして目が悪くなったんじゃねぇのか」
「はい!はい!俺、すっごく目いいよー!」
片手をあげぴょんぴょん跳ねるゴンに、思わず場の雰囲気が和む。
嫉妬なんかしていた自分がすごく愚かだ。リアが楽しそうならそれに越したことはないじゃないか。
「じゃあリアまたね!」
「うん」
ゴン達が去っていくのをリアとクラピカは見送る。賑やかだったのが一気に静かになって、部屋に二人きりなことが少し気まずく感じられた。
「…それじゃあ私も退散しよう。リア、もし何か必要なものがあったら遠慮せずに言ってくれ」
「え、えっとあの」
「どうしたんだ?」
自分もあまり長居すべきではないと考えて、足早に部屋を出ようとした。けれどもそれをリアが引き止めたので、自分からなんでも言ってくれと言ったのに少し驚く。
彼女は申し訳なさそうに眉を寄せると口元に手をやって、言い出すべきか迷っているようだった。
「迷惑、かけないようにするから…外出してもいい?なんでも任せっきりは悪いし……」
「買い物か?」
「……」
クラピカの質問にリアの表情が翳る。そうか、彼女は盗みもやるのだ。あの瞳ではお金を稼ぐために働くことさえ難しい。
別にそのことを責めるつもりはなかったが、彼女の表情を見て無神経な発言だったと後悔した。
「気を悪くしたのなら済まない…ただ、もうそんなことはしなくていいんだ。外出するときはなるべく私が付き合おう」
「ごめんね」
「リアは悪くないさ」
小さく頭を下げた彼女にもっとかけるべき言葉はあっただろう。けれどもとっさに出た慰めはそんな月並みな言葉だけ。さっきゴン達がいたときはあんなに柔らかい笑みを浮かべていたのに、自分が彼女から引き出せるのはこんな表情ばかりだ。
「じゃあまた。後で食事をもって来る」
「…うん」
元々人付き合いがうまい方ではなかったが、彼女は特にどう扱ってよいかわからなかった。
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