■ 22.欠落
団員に会うのは本当に久しぶりだった。
除念してからは携帯などで連絡をとっていたが、実際にこうして顔を合わせるのはいつ以来だろう。
全員集合はもはや叶わなかったが、シャルから新たにゾルディックの末弟が入団したとは聞いていた。
「おーい!団長、元気だった?」
「すまなかったな…お前ら」
「団長が無事ならそれでいいぜ。今夜は宴会だな」
「よし、じゃあ酒を盗ってこねぇとな」
まるで昨日まで普通に顔を合わせていたかのように進む会話。今更少しの空白など、俺達の関係に何の影響も及ぼさないようだ。
「しっかし、あの変態野郎のせいでだいぶ時間が
かかっちまったよなァ」
「いい加減、諦めるか死んでくれるといいのに」
「あのしつこさを他に活かして欲しいよね」
あはは、と笑ったシャルにつられて、皆自然と笑顔になる。再会を喜ぶ言葉を取り立てて口に出さずとも、その雰囲気だけでも歓迎されていることがよくわかった。
それにしても世間に恐れられる旅団がどこか浮ついた雰囲気で、それでもって宴会の準備なんかしているのだから笑いそうになる。
「マチがちゃんと見張ってねぇからだぞ」
「はぁ?なんでアタシが」
「ヒソカの面倒見てたのお前じゃねぇか」
「だいたい活動するときのコンビって決まってるからねー」
けれどもやっぱりそこにはパクの姿もウヴォーの姿もなくて、ふとした瞬間に、例えばいつものように下らない冗談なんかで笑いあった瞬間に、そのぽっかりと空いた喪失感を味わうことになった。
コンビはもうぐちゃぐちゃか。ノブナガが少し険しい顔になったけれど、すぐにそれは憮然としたいつもの表情に隠れて消えた。
「そうそう、団長のいない間に新しくカルトが入ったんだ。紹介するよ」
「……新しく4番に入りましたカルトです。よろしくお願いします」
礼儀正しく頭を下げた着物姿の少年は、事前に聞いていなければ少女と間違ったかもしれない。
最初はゾルディックというファミリーネームに厄介だな、とも思っていたが、イルミが何も言ってこないところを見るに問題ないらしい。
しかし、顔をあげた彼の瞳は闘争心に満ち溢れていて、歴代4番はやっぱり変わった奴ばかりかとため息をつきたくなった。
「あぁ、こちらこそよろしくな。
シャルから大体のことは聞いているか?」
「はい。揉めたらコイン、優先すべきは個人ではなく蜘蛛」
「ま、お前の家よりは遥かに自由なルールだ」
「……」
まだ子供だろうににこりともしない。髪の色や質はイルミによく似ていたが、その猫のような瞳はイルミ溺愛の三男の方を思い出させた。そう言えばあの三男はどうしているのか。
ヨークシンで出会ったあの子供がイルミの弟だと後で聞かされた時は妙なめぐり合わせに驚いたものだった。
「イルミや、放浪癖のある跡継ぎはどうしてる?」
「イルミお兄様は相変わらず。キルアお兄様のことは存じ上げません」
「もし兄貴と戦うことになったら?」
「……さて、全力は尽くしますが。
家族間での殺しは御法度ですので」
流石にしっかりしているな、と感心していると、カルトの答えに横からわざとらしい舌打ちが聞こえてくる。蜘蛛に入っておきながらゾルディックのルールから脱するつもりのないカルトのことをフェイタンは気に入らないようだった。
「蜘蛛にはいたからには蜘蛛のルールがあるね。
郷に入ては郷に従え、よ」
「まぁまぁ、別にゾルディックが狙ってこない限り俺達から用は無いんだしさー」
「ふん、人質くらいには使えるかもね」
「僕は決められた仕事はする。それ以外は何をしようと僕の勝手でしょ」
負けじと言い返したカルトとフェイタンは睨み合ったが、二人とも小柄なためどこか子供の喧嘩のようでもある。
もちろん漂う不穏なオーラは決してそんな可愛らしいものではなかったが。
「まぁいい。せっかく仲間になったんだ仲良くやれ」
久しぶりに大勢で集まるのだ。楽しくやればいい。
クロロは頭の中に浮かんだ『彼女』の寂しそうな顔を振り払うように、団員達の賑やかな様子に浸っていた。
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