■ 21.探り合い
「で、またトランプなのかよ…」
「だって、俺の知ってる遊びじゃ皆が知らないって言うんだもん」
「くじら島のローカルな遊びじゃ知らなくても無理はねぇよな」
クラピカとセンリツが抜けて、取り残されたリア達はゴンの提案で大富豪をすることになった。
とはいえゴンの故郷の遊びでなくてもろくに遊んだことのないリアは、どんな遊びでも慣れないものは慣れない。
出すカードに迷っていると、ふと視線を感じて顔をあげた。
「…なんだよ」
「あ…ごめん」
相手は自分よりはるか年下の子供なのに、とっさに謝罪の言葉が口から出る。
睨まれたわけではないとは思うのだが、彼の猫のような瞳はとても鋭かった。
「てめ、何ガン飛ばしてんだよ」
「ってーな!飛ばしてねぇよ、目が合っただけだろ」
ごつん、とレオリオに頭をどつかれ、ぎゃーぎゃー騒ぐその様子は普通の子供なのに。
聞けば全員ハンターライセンスを所持しているらしく、本当に彼らは何者なのだろう。
控え目ながらリアが質問すると、ゴンはにっこり笑って答えてくれた。
「んー別に俺達はそんなに変じゃないと思うんだけどな。
クラピカも含めて、オレ達皆同じハンター試験で会ったんだ」
「こいつは1回落ちたけどなー」
「うるせーよ、あれは仕方ないだろ」
ぶすっ、といかにも不機嫌そうな雰囲気を纏わせたキルアはあぐらをかいて頬杖をつく。
意外だ。彼が一番実力がありそうなのに、落ちたとは。やっぱり噂に聞くハンター試験とは一筋縄ではいかないものらしい。
きっとライセンスがあれば便利だろうな、と思った。公共施設では優遇され、あらゆる身分証明になるそれは同時に存在証明でもある。
紛れもなくリアが欲しくて欲しくてたまらないものなのに、それは決して手に入れられないものだった。
「キルアのね、お兄さんも受けに来てたからそれでひと騒動あってさ」
「ゾルディックって、言えばわかるか?」
頬杖をついたままちらりと視線だけをこちら向けた彼は、隠そうとする様子でも得意がる様子でもない。
いくら世間のことに疎いリアでも、そのファミリーネームの絶対的な意味を知っていた。
「ゾルディックって……あの暗殺一家?」
「そうそう、俺達も初めて聞いたときは度肝抜かれたぜ」
「ゴンは驚かなかったけどな。
…怖いか?」
笑いながらも、試すような瞳。ドキリとした。
口先だけの誤魔化しなんて絶対に意味がないのだろう。
だから、たどたどしくても本当のことを。
「…怖いよ。でも納得した。だからか、って。
それに私はゾルディックであろうとなんであろうと、自分以外のものは全部怖いよ」
「今は元殺し屋だけどね」
「でも、殺し屋は殺すだけだよね。目を抉らない」
私の言葉に、目の前の3人が一瞬ぽかんとした表情になった。
だから何かまずいことを言ってしまったのかと、一拍遅れて慌てる。
意味もなく条件反射のようにごめんと謝っていた。
「殺すだけって……まぁ、そりゃリアやクラピカ達からしたら目は大事なポイントなのかもしれねぇけどよ」
「じゃ、リアの中では旅団よりゾルディックの方がマシってことなんだ?」
「やめなよキルア、リアまで復讐って言い出したらどうするのさ」
呆れるレオリオと、慌てるゴン。そしてキルアは初めてそこで笑った。
笑うと年相応のあどけなさがまだあって、可愛いと思った。言ったら絶対に怒られるだろうけど。
「復讐なんて、そんな……直接家族が被害にあった訳じゃないし」
「そんなもんなのか?クラピカの口ぶりじゃ、クルタ族ってもっと結束固いのかと思ってたぜ」
「うん…私は、別に…」
冷たいようだが、会ったこともない同胞に対しての思い入れは特にない。確かに悲惨な事件だとは思うが、自分が恐ろしい思いをしてまで仇を打ちたいとは思わない。
私はただ家族の瞳さえ手に入ればそれでいいのだ。
「だったら、リアならクラピカを止めてくれるかもしれないね」
ぽつりと呟いたゴンの言葉には曖昧に微笑んで返すしかなかった。
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