■ 20.誓った復讐
「いや、こちらこそ長い話を聞かせてしまってすまなかったな。
話した通り、私は実際に殺戮現場をこの目で見たわけでない。
リアのほうが余程辛い思いをしただろう」
「そんなことない…同じだよ」
クラピカはカラーコンタクトで緋の目を隠していると言っていたが、今はどうなのだろう。そのコンタクトの下は『幻影旅団』への憎しみで紅く色づいているのだろうか。
同じ、とは言ったもののそれは悲しみだけであってリアに憎しみの念はあまりなかった。
そりゃもちろん、家族を殺した賊が憎くないと言えば嘘になる。けれどもあの恐ろしい彼らに立ち向かい、仇をとるなんてことは恐ろしくてできそうにもなかった。
きっと、彼らを目にすれば動けなくなってしまう。
植えつけられた恐怖には、どうあがいても勝てなかった。だからこそ、クラピカのすさまじいまでの恨みに感心はすれども、共感することはできなかった。
「もちろん、蜘蛛とのことにリアは巻き込むつもりはない。
奴らは我が同胞の敵だが、君が関わるには危険すぎる」
「…ク、クラピカだって、危険でしょう」
初めて呼んだその名前に、彼が一瞬ハッとした表情になる。
それから少しだけ微笑んで心配はいらない、と言った。
「私は奴らに復讐するために鍛えてきたんだ。タダでやられてやるつもりはないよ」
「いや、そういうことじゃなくて」「既に団員二人の命を奪ったんだ。今更向こうが放っておいてくれるとは思えない」
「…それ、本当なの?」
幻影旅団は確かA級首の犯罪者。クラピカはハンターらしいけれど、そんな簡単に倒せてしまうものなのか。
「ああ、嘘じゃない」
しかし、そういって頷いたクラピカは少しも誇らしげではなく、やはり苦しそうに眉を寄せたのだった。
※
「あんまりおっせーから、疑ってたんだぞ」
「何をだ。命が惜しくないなら続きを口にするといい」
「バカ、怖いって」
「ねぇ、ついでにさっきのリネン室からシーツとか持っていこうよ」
「そうだな、そうしよう」
再び他のメンバーと合流したリアは、これから生活する部屋へと案内してもらう。
クラピカはここのマフィアにおいてかなりの発言権と権力を持っているらしく、誰も部屋には近づけさせないと保証してくれた。
「ごめんね、私もできるだけ念を使ったりして、迷惑はかけないようにするから…」
「気にしなくていい。私がいてくれと頼んだんだ」
廊下を歩いてみるとかなり広い屋敷だが、どうやらここは別荘らしくて。
やっぱり占いは需要あるんだねと呟くと、ああ、と苦笑された。
「今ではその占いもできなくなってしまったんだがな」
「そうなの…」
表向きは威厳を保つため占えなくなったことを隠し、今はクラピカが手広くビジネスを広げているのだという。
緋の目や復讐のみならず、マフィアの仕事までせねばならないとは、なかなかに多忙に違いなかった。
「リア、悪いがしばらく私は席を外す」
「…うん。私のことは大丈夫。
ここで大人しく待ってるから」
屋敷の一番北の端にある空き部屋。そこに簡単に手を加えて、みんなはリアが暮らしやすいようにしてくれた。
「すまないな、心細いだろうが…」
「大丈夫。本当にありがとう」
彼の身の上話を聞いたことによって、いくらかは警戒も和らいでいた。
彼の友人たちはまだ少し怖いけれど、一生懸命に部屋を綺麗にしてくれてとてもいい人たちなのだと思う。
「心配すんなって。オメーがいない間は俺達が守ってやるよ」
「レオリオの出る幕はなさそうだがな」
「お前、やっぱ俺の扱いだけ酷いだろ」
文句を言うレオリオに笑った彼はセンリツと連れ立って部屋を出ていく。
大丈夫だとは言ったものの、リアは少し緊張していた。
「ね、リア。何して遊ぶ?」
「え?」
だが、心を落ち着ける間もなく、ゴンに話しかけられる。
かろうじてビクつかなかったものの、リアは思い切り動揺してしまった。
「だってクラピカが戻ってくるまで暇でしょ?」
「おいゴン、ちったあ気ィつかってやれよ」
「えー。でもオレもリアと仲良くなりたいし!
キルアも一緒に遊ぶよね?」
「何してだよ…」
ゴンが振り返った視線の先の銀髪。
目が合って、反らしたのはリアかキルアか。
彼は一体何者なんだろう。
リアは仲良くしなければ、という思いと本能的な恐怖の間で、無意識のうちに服の裾を握りしめていた。
[
prev /
next ]