- ナノ -

■ 19.思い出と疑惑

「あの村は厳しくてな、リアの御両親が逃げ出したのも同じ理由だろう。大人なら期限付きの外出許可が出ることもあったし、そのまま帰らないということも可能だからな。
でも、子供は特に外界との接触を固く禁じられていた。
…幼かった私にはそれが酷く理不尽に思えて、よく爺様と口論になった」

今から思えば、あれはあれで正しかったのだよ、とクラピカは言う。
あの村にいる間は、自分の瞳の色が他とは違うということすら知らなかった。
こんなに世の中が残酷だなんて、全く思っても見なかった、と。

それはリアだって同じこと。
小さい頃はなかなか外に出してもらえなかったし、
感情を抑えるように何度も訓練させられた。
まぁ、今となっては常時緋色という、情けないことになっているのだけれど。

「私にはパイロという親友がいてな、いつか彼と旅に出るのが夢だった。村での平和を退屈に感じて、外には希望があると思っていたんだ」

親友の話をする時のクラピカは、とても幸せそうだった。まるで彼がそこにいるかのように生き生きと話すから、ついついリアも会ったことがないそのパイロという少年に想いを馳せる。

そして羨ましい、と思った。
リアには兄がいたけれど、友達はいなかったから。子供同士ではどうしても喧嘩になった際に感情を抑えられない。だから同年代の子とは決して遊ばないように言われていた。


「そしてある日のことだ。
私とパイロは初めて村の外の人間にあった。行き倒れていたその女性シーラとは言葉も通じなかったが、大人達に見つからぬように彼女の世話を焼き、反対にいろんな外の世界のことを教えてもらった。思えばあの時が一番楽しかったな」

そこから彼とその友人パイロは、一生懸命になって言葉を覚えたらしい。
そして彼女から貰ったDハンターという本に触発され、ハンターになりたいと思ったのだそうだ。

「…それで、あなたは試験に合格して外の世界に行ったんだね」

「あぁ。そこでも私はパイロに助けられっぱなしだったよ。
残念ながらパイロは目と足が悪いせいもあり、その時は一緒に旅に出なかったが、必ず戻ってくると約束した。私は彼の病を治す医者を探すつもりだったんだ。そして病気が治って、その時こそ一緒に旅をしようと。
………約束した。約束したんだ……」

そこまで話すとクラピカの表情は急に曇った。
だからその約束は叶わなかったのだとリアは知ることになる。

こんな時、なんと声をかけたらいいのか。リアはただ黙って彼が話を続けるのを待つ他なかった。

「旅に出て、2ヶ月も経たないうちだ。ニュースでクルタ族の村が旅団に襲われ、そしてそこにいた村人は全滅したと知った。
もちろん、信じられなかった。だって、どうしてそんな酷いことをされなくちゃならないんだ?大人子供関係なく無残に殺されるなんて、私たちが何をしたというんだ」

残されたのは目の抉られた亡骸と、

『我々は何ものも拒まない、だから我々から何も奪うな』

そんな、意味のわからないメッセージだけ。
ニュースの大まかな内容はリアも聞いたことがあった。

「奪ったのは奴らの方だ。私は、彼らを絶対に許さない」

「でも、その文面を見る限り報復…だったのかな」

「報復だと?いいや、奴らはただ緋の目が欲しかったんだ。奴らは盗賊だ、理由はなんだってよかったんだろう」

「…」

あまりの剣幕にリアは言葉を失う。クラピカの口ぶりでは悲しい話というよりも、憎しみがこもっていた。
彼も私もその当時村にはいない。
だから正確にはそこで何があったのか、どんな経緯があったのか、知らないのだけれど。


「話してくれて、ありがとう…」

とりあえずリアはこれ以上何も言えなかった。
それは彼があまりにも、辛そうな表情をしていたから。

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