■ 18.近づく距離
「で、話とは…?」
自分からそう尋ねたものの、おそらく私の生い立ちを聞かれるのだろうと思っていた。
家族のこと、クルタの村でのこと、そして仲間がどうなったのかを。
実際クラピカは旅団が村を襲った時その場には居合せなかったのだが、村の惨状は後で目の当たりにしている。
正直あまり思い出したくない光景ではあるものの、彼女には当然知る権利があるだろう。覚悟はもう出来ていた。
「…あなたも緋の目を集めてるの?」
「え?あぁ…そうだ。ちゃんと弔ってやりたくてな。…リアが集めてるのもそうか?」
「ごめんなさい…」
突然、消え入りそうな声で謝る彼女に私は柄にもなく動転した。
元々女性の扱いが上手いわけでもないが、特に彼女はちょっとしたことでも壊れてしまいそうで不安になる。
何のことだ、と問えば、盗もうとしたから…と小さな声で返事が返ってきた。
「いや、いいんだ。私が逆の立場なら同じことをした」
自分だって盗みを責められるほど綺麗な手段であの目を集めたわけじゃない。だからこうしてちゃんと謝られると、返って複雑な気持ちになった。
「…それよりも、どうしてリアは私が緋の目を所有しているとわかったんだ?」
これは初めから気になっていたことだ。彼女には何か探索能力でもあるのだろうか、あるいは…
「知らないの?」「何をだ?」
「…有名よ。ノストラード自体、人体収集家の間では有名だけれど、中でも最近は緋の目を集めてるって」
「…そうか」
どうやらもう少し情報の引き締めを行わなければならないようだ。かといってあまり引き締めすぎると緋の目を探すのも一苦労であるし難しいところだ。
「でもまさか、あなたもクルタ族だとは思わなかった」
ぽつりと呟いた彼女の言葉は、自分の思いと全く同じで。
クラピカは、ふっ、と微笑んだ。
「それは私も言ったはずだ。リアが生き残っていてくれてよかった」
※
生き残っていてくれてよかった。
緋の目の価値を抜きにして、そんなふうに言われたのは初めてかもしれない。
ずっと生き残った自分を後悔してた。
生きていることが辛かった。
リアはぎゅ、と拳を握ると、なるべくクラピカに視線を合わせるようにして言う。
「あのね、良かったら……緋の目を集めること、協力させて欲しいの。
目的は同じだし…」
「ありがとう。
でも、無茶はしないでくれ。リアの瞳は目立つから」
「そう、だね…うん。気をつける。
…それと、辛いかもしれないけどあなたの話、聞いてもいい?」
「あぁ…」
思い出させるのは酷かもしれないが、村のことをリアは何も知らなかった。
惨状もそうだけれど、どんな風に暮らしていたのか、幸せな話から聞きたいと思った。
「私達は、本当に幸せに暮らしていたんだよ…本当に、のどかないい村だった…」
クラピカは懐かしい記憶をその目で見ているかのように、何もない虚空を見つめて話始めた。
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