■ 15.思わぬ想い
─クロロ……私やっぱり、一緒には行けない
まさかリアの口からそんな言葉が出てくるとは思いもしなかった。
生い立ちを考えると無理もないのだが、彼女はどちらかといえば依存しがちな性格で、だからこそクロロは過信していた。
彼女なら自分について来るだろうと。
でももうあれから5年も経っているのだ。一人で生きる術も完全に身につけて、俺を必要としなくなった。それだけのことかもしれない。
クロロは何もしてやらなかったくせに、リアに酷く裏切られたように感じた。
こんな感情、自分にあるのかと驚いたくらい。
流星街にいたころから、今の蜘蛛のメンバーとは生活をともにしていた。
だが、それでもやはり突き詰めれば個人個人である。現に盗みの時以外は各々自由に過ごしているし、裏切りにはそれ相応の罰があるけれどもそこまで誰かに固執したこともない。
クロロは自分自身のことすらも、そのように考えていた。
俺はあくまで替えの効くパーツに過ぎない。これは自分を卑下して言っているのではなく誰しもがそうだ。
仲間が死ねば悲しい。報いてやろうとも思う。
センチメンタルなことを言わせてもらえば、死んだ仲間はずっと俺の心の中で生き続ける。
だけど、だからと言ってかけがえのない人間がこの世に存在するかと言われれば話は別だ。
俺がもしも旅団をやらなければ、似たような誰かが同じような集団を作っていただけのこと。
俺がもしもクルタ族を襲わなければ、また他の誰かによってクルタ族は滅ぼされていただけのこと。
世界はそうやって、整合している。
間のプロセスはいくらでも替えのきく、いわゆるオルタナティヴなパーツで構成されているのだ。
だからリアもそうなはずだ。
彼女がいてもいなくても、大した影響はない。
どこかで辻褄が合うようにできている。
クロロはため息をつくと軽く頭を振って、このもやもやとした考えを振り払った。
今はそれより『団長』としてしっかりしなければならない。
ようやくシャルから連絡が着て、蜘蛛のメンバーと落ち合うことになったのだ。奴らにはもう随分と待たせてしまっている。優先すべきは『蜘蛛』だ。
それに、緋の目はとっくの昔に飽きて売り払った。
もういいじゃないか。
※
その日の夜は公園の片隅で身を縮めるようにして眠った。
手持ちもいくらかあるので部屋のランクを下げればホテルに居続けることもできたが、何よりそんな気分になれない。
だからと言ってすぐにクラピカを頼る程の勇気もなくて、いつものように念を施して眠りについた。
リアの念ははっきり言ってあまり使い勝手の良いものではなかった。
クロロに会って話を聞くまでは特に誰かに教わった訳でもないから仕方が無いのだが、なんでも具現化系に属するらしく、自分を覆うように景色を、空気を具現化する。
見えないはずのものを見せる蜃気楼のようでいて、逆に見えるはずのものを見せない。ただそれ以上でもそれ以下でもない念だった。
─私なんて消えて無くなればいいのに。
家族は私を庇って死んだようなものだった。だからそんなことを思うのは酷く罪なことかもしれない。だけど一人だけ生き残ってしまった自分が嫌だった。こんな目もろとも消えてしまいたいと思った。
そしてずっとそう思って生きてきたら、いつの間にか人に認識されなくなっていた。
具現化系の習得はイメージ修行がメインだと聞くし、あながち間違いでもないのかもしれない。空気という、比較的簡単な組成物で構成されている物だからやりやすかったのかもしれない。
透明人間になれるわけでも、変装ができるわけでもないリアの念は不完全で、その分私の需要を酷く満たしている念だった。
本当は消えたくない。だから完全に見えなくなるのは嫌だ。誰かに気づいて欲しい。姿かたちを変えず、『私』としての人間を認めて欲しい。
リアは孤独だった。けれどもこの目のせいで孤独にしか安寧はなかった。
「クロロ……会いたいよ」
そんな日々に光をくれたのは貴方だったから、忘れようと努めても忘れることなんてできない。
早速別れを後悔している自分が、昔から何も成長していないのだとよくわかった。
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