- ナノ -

■ 11.殺生と接触

「それは本当なのか、ゴン」

「うん。たぶんなんだけどね、俺達それっぽい女の人に会ってたんだよ」

同胞探しに付き合ってくれると言ったゴンたちは、ヨークシンシティ内のホテルに宿泊すると言ってさっき別れたばかりだった。
それなのに別れてからそう時間も経たないうちに電話が鳴り、手がかりをつかんだと言う。
まさかこんなにも早く情報が得られるなんて思ってもみなかったため、クラピカはとても驚いた。

「なぜ先ほどそれを言わなかった?」

「いや、そのお姉さんは盲目みたいだったから…」

「盲目?」

「最初、フードを被っててよく顔が見えなかったんだけど、目をずっと閉じてたんだよ。
だから緋の目、って言われた時にピンとこなくて」

緋の目を隠すためのカムフラージュか…。だがそれにしても盲目のふりをするのはなかなかに不便だろう。私のようにカラーコンタクトを使えない理由でもあるのか。
しかし何はともあれ一歩前進したのは間違いない。
キルアの予想では彼女もどこかのホテルに宿泊しているらしいし、こちらが緋の目を所有している限りは向こうからやってくる可能性も高いだろう。

「今は交代で色んなホテルを見張ってるんだけど、ヨークシンって観光地だからかホテルの数も多くてさ」

「わかった。私も夜なら見張ることが出来そうだ」

「うん。でもそのお姉さんも一筋縄ではいかなそうなんだ」

「というと?」

実際にクラピカは軽い戦闘を交えたがそこまで強いという印象は受けなかったし、それこそゴンやキルアなら赤子の手をひねるようなものだろう。
彼女には何か隠された力があるのだろうか。

「消えるんだ」

「は?」

「そのお姉さん、俺達の目の前から消えてしまったんだよ。きっとそういう念なんだろうけど…」

「なるほど…」

念はだいたい個人の特技を生かしたものやその人の需要に合わせたものになることが多い。彼女がどんな生い立ちをしてきたかはわからないが、きっと緋の目を狙う多くの人間から逃れるためにそのような念になったのだろう。

「でもきっとすぐに見つかるよ。仲間に会えるの、楽しみだね!」

「ああ」

「じゃ、また連絡するね!」

元気な声とともにそこで電話が切れる。
やはり、頼んでみてよかった。
クラピカはもうすぐ同胞に会えるのだと思うと、久しぶりに胸の高鳴りを感じた。







「そっちはどーだ?」

「変わりねーよ」

ホテルを虱潰しに見張り始めてから一週間。
やはり数が多いのと、1日見張ればそれでよいというわけでもないので長期戦になりそうだった。

「こっちもそれらしい奴は見つかんねーぜ」

「だよな」

キルアはレオリオからの変わり映えのない連絡に、はあ…と溜息をつく。
こうやっていると、嫌でも昔暗殺のターゲットを見張っていたときのことを思い出した。
息を殺し、気配を消し、相手の一挙一動も見逃すまいと神経を張り詰めて…。
それに比べたら今のこれは笑っちゃうくらい簡単なことのはずだ。

俺はゴンに出会ってから弱くなったのだろうか。いや、家のことを全て捨てきれるわけでもないくせに、妹一人助けられないくせに、家を出たオレは元々強くなかった。今のこうして殺しとは関係のない世界で生きているのは、ただの現実逃避かもしれない。だって俺は殺し自体は……。
兄貴の顔が脳裏にちらついて不快になった。

「ちっ……」


キルアのそんな思考を中断させるかのように、そこで携帯のバイブ音。
確認すればレオリオからのものだった。もしかして見つかったのか?

「もしも」「キルア!いた!ユーストヒホテルだ!」

「わかった、今すぐ向かう。
レオリオもやばそうだったら一旦引けよ」

おそらく積極的に戦っては来ないだろうが、何があるかわからない。窮鼠猫を咬むってこともある。

「おう!ターゲットはレクタル通りの方に向かってる」

「…あぁ」

今はターゲットって言わないでくれよ。その言葉は嫌いだ。
キルアは携帯をしまうと頭の中にヨークシンシティの地図を思い浮かべながら、レクタル通りのある方に向かった。







つけられている。

そう思ったのはホテルを出て幾ばくもしないうちだった。
相手は私がクルタだと知っているのか、それともクロロの方の客なのか、いずれにせよあのホテルにはもう帰れない。
クロロも何かに追われているようで、近いうちにホテルを移ると言っていたし、ちょうどいいだろう。

リアはそれよりも、今どうするべきかが大切だった。
フードをさらに深く被り、目を開く。
こうすれば街行く人の足元しか見えないが、夜のためどうせ人通りは少ない。

後ろから追いかけてきている人物は、一定の距離を保ってついてくるというより、こちらに追いつこうとしているみたいだった。
やっぱり、クロロに用があるのではないらしい。

リアはさっと路地に入ると、地面と壁をトントンっと蹴って屋根の上に上がる。
後ろの奴は、そこまで大したこと無さそうだ。

だけど…

「おねーさん、ちょっといいか?」

銀色の髪をした少年が同じように屋根の上に立っている。
無邪気さを装ったその瞳は、確かに狩る側の人間の目をしていた。




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