- ナノ -

■ 10.手がかりと思惑と

「それにしたってその女、どうやって探すんだ?またハンターサイトか?」

ヨークシンシティのとあるホテル。
キルアはそうじゃねー?と生返事を返すと、自分はごろりとベッドに横になった。

「お前な、ちったぁ協力して探せよ」

「俺は捕獲の時に頑張るからいいだろ。ま、適材適所ってやつ?」

「捕獲ってな…」

呆れつつもレオリオは熱心にパソコンを弄り、ゴンがそれを食い入るように覗きこんでいるが、正直あまり期待していない。
名前もわからない。手がかりは緋色の瞳だけ。逆に特徴的すぎるその瞳は、返って本人を常に警戒させる。

以前、旅団の目撃情報を探したときは旅団側がわざと目に付くようにうろうろしてくれたから見つかっただけであって、今回はそう上手く行かないだろう。
それこそ、クラピカ同様カラーコンタクトなんか入れていたりしたら、見た目はごく普通の人間と変わらない。

ゴンはいつものように仲間のため、と安請け合いしたが、見つけるのは非常に困難であると思われた。

「ね、クラピカが言ってたその人ってこげ茶色の髪の毛なんだよね?」

「あぁ、ダークブラウンって言ってやれよ」

「さっき、レオリオのハンカチを拾ってくれたお姉さんもそんな髪色してなかった?」

確かに言われてみればそうだった気がするが、茶髪くらいならどこにでもいるだろう。
でも、一瞬にして目の前から消え去った彼女。メレオロンのように姿を消せる能力なのか?それならば例え緋の目をもっていようとも今まで十分に生きて行ける。
そして閉じられた瞳……。あれは盲目なのではなく、その下に緋色の瞳があったとしたら……?

キルアはがばりと起き上がった。

「ゴン、お前の言ってること当たってるかも」

「え」

「確証はあんのか?っつても、やっぱり探しようがないことには変わりねぇよ」

「だけど、あの女『買い物に来た』って言ってた。ということはどこかに住んでるってことだろ。もしもゴンの予想が当たってるなら、定住はしない。ホテルを虱潰しに探せば見つかるはずだ」

「な、なるほど…」

納得したふうの二人の顔を見て、キルアは再びぼすりとベッドに体を沈める。
じゃあすぐに見つけられそうだね!とゴンの嬉しそうな声が聞こえたが、キルアはどうだろう…と考えていた。
もしもメレオロンのような能力なら、とても厄介だ。
それに、あの怯えきった様子。下手に追い詰めれば彼女には自害しかねない危うさがあった。

「やっぱクラピカが自分で動かないと無理だよな…」

きっと同胞しか信じられない。
キルアは瞼の上から自分の瞳を軽く押さえた。





「…クロロ、」

「……」

「クロロ」

「ん…どうした?」

集中していて、呼ばれていることに気が付かなかった。
読みかけの本から顔をあげると、リアが不安そうにこちらを見ている。

買い物を済ませて本も手に入れたクロロは先ほどからずっと読書にふけっていた。
旅団にいる時もそうだが、クロロは基本的に一人でいることが多い。
何か用か?と問いかけると、ためらいがちに口を開いた。

「あのさ…私がヨークシンにいるのもね、理由があるんだ」

「…ほう」

「緋の目…見つけたの」

緋の目、の言葉にクロロはゆっくりと瞬きをする。
まだ探していたのか。鎖野郎といい、リアといい、クルタの人間は死んでからもなお同胞を大事にする傾向がある。
どう考えたって、仲間の瞳を取り戻して土に還してしまうより、市場に出回らせたままのほうが自身の安全は保たれるというのに。

ちなみに彼女の家族を殺したのは旅団ではなかった。
人里離れた山奥に暮らしていたクルタ族であったが、彼女の両親はその昔、村の掟に疑問を抱いて村を離れたそうだ。
そして家族だけで暮らしていたところを瞳を狙った者たちに殺され、幸か不幸かリアだけが生き残ってしまったというわけだった。

「盗もうとしたんだけど、一度失敗しちゃって…」

「見られたのか?」

「…うん」

不安のせいか、さらに瞳が紅く色づく。それを見てとても綺麗だと思った。

実は彼女は知らなかったが、クロロがクルタの村を襲ったのはリアの存在があったことも関わっている。
もともと緋の目の噂は聞いていていつか手に入れたいと思っていたのだが、幼いリアの瞳を見て心奪われた。
彼女は酷く自分に依存していたからそれでいい。だけど他の瞳も欲しくなった。

結局、残念ながら彼女ほど美しい瞳の持ち主はいなかったが、多くを殺して彼女の希少価値が高まったも同然だから満足している。そして、直接彼女の家族を殺したわけではないにしても、同胞の仇と知らずに親愛の情を向けてくる彼女がひどく憐れで、よりいっそう美しいもののように感じた。

「見られてしまったのなら、しばらくは接触しないほうがいいんじゃないか?」

「…うん。でも、チャンスだから。いつまた出会えるかわからないもの。
それにたぶん、持ってるのは一対だけじゃなさそうなの」

「そうか…気を付けろよ」

いつもは神経質で怯えてばかりの彼女でも、家族の瞳のことになると言い出したら聞かない。とはいえいくら家族のものでも眼球だけになっては見分けがつくはずもなく、結局は全てを集める気なのだろう。
数年前に自分が飽きて売り払ったものも、きっとその中にはある。

クロロは興味なさそうにまたもや視線を本に戻した。
さっき出かけたときに彼女の外套に発信器を付けたから、万一のことがあっても助けられるだろう。
常に緋色の瞳の彼女は痛めつけたり殺すまでもない。加えて若く美しいし、最悪の事態を迎えてもコレクターならば生け捕りにするに決まっている。

彼女は小さく頷いて部屋を出ていった。


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