解散宣言
- ナノ -



08.エマージェンシーこんにちは

ジェノスの話を聞いた途端、急に乗り気になる兄貴には流石にドン引きした。
え?前はジェノスくんって呼んでただろって?もうあんな奴に『くん』なんて敬称はいらん!先生大好きっ子め。ブラザーコンプレックスならぬ先生コンプレックスかよ。

とにかくどこまで本気なのかはわからないが、オレはヒーローとなるべく特訓させられることになった。いくらメディア展開希望だとしても(そもそもそんな歌唱力も顔面偏差値もねぇよ、ジェノスの奴本気でオレが歌手になれると思ってるのか?)やはり試験を合格するにはそれなりの体力がいる。
幸い、筆記試験と体力テストが50点ずつなのでペーパーでとると言う手もあるのが救いだった。

「グンマさん、そんな程度でへばっているようではヒーローにはなれませんよ!」
「いや、あのっ……オレは別にっ……」

息があがってしまってろくに話せない。ていうかそんな程度っていうけど、もう5キロは走っている。兄貴がランニング毎日10キロであんな強くなれたんだから、初心者のオレがその半分もやったら十分だろ。むしろ褒められてもいいと思うんだが。

しかしサイボーグであるジェノスはかなりスパルタな様子である。僭越ながら俺が……と指導役に名乗りを上げてきたときは正直絶望した。だって兄貴なら緩くやれそうだけど、こいつ絶対真面目だもん。適当とかいう言葉知らなそうだもん。
そして残念ながらオレのその予想は当たっていて、今はみっちりしごかれている。兄貴は今頃家で漫画かなぁ。外に出さないようにするっていう当初の目論見は成功したわけだけど、オレばっかりこんな目にあうのは納得がいかない。

「ジェ、ジェノス、ちょっと待って……」
「はぁ、仕方ありませんね。それではグンマさんは少しここで休憩しててください。10分くらい、俺はパトロールに行ってきますね」
「ほんとに休憩少しだな」
「何を言ってるんですか、初日だから休憩があるんですよ。これからは無いものと思ってください」

……ほんとにこいつ鬼サイボーグだ。あのヒーローネームまじで的を得てるな。兄貴のハゲマントは可哀想だけど。
でももしオレがヒーローになったらどんなヒーローネームが付くんだろう。別にヒーローにはなりたくないが気になるものは気になる。頭痛が痛いみたいなダセェ名前は嫌だな。そういやあの音速のソニック(笑)とか言ってた忍者さんはどうなったんだろう。

「おい、そこのお前」
「え……?」

噂をすれば影、とはよく言ったものだ。心の中で思っただけで来るんだから、もうこれエスパーだろ。どこからともなく現れた忍者さんに、オレはさっと血の気が引いていくのを感じる。だってこの人、オレに恨み持ってるんだもん。逆恨みだけど。

「ようやく見つけたぞ!まさかZ市にいたとはな」
「ナ、ナンノコトデショウ……?」
「今更変顔をして誤魔化しても無駄だ。というかその顔やめろ腹立つ」
「うわぁ、勘弁してください!オレなんにも悪いことしてないじゃないっすか」
「そんなことは関係ない。あんな姿を見られてしまった以上、貴様にはここで消えてもらう」
「理不尽!理不尽だ!誰か助けて、ジェノス!!」
「見苦しいぞ」

見苦しいと言われても、オレだってもちろん命が惜しい。あぁ休憩なんて言い出すんじゃなかった。ていうかジェノスの奴、よくもZ市でオレを一人きりにしたな。一体どこまでパトロールに行ってるんだよ。

「安心しろ、苦しまんよう一撃で殺ってやる。俺にもそれくらいの慈悲はあるからな」
「ま、待って!オレを殺したらオレの兄貴があんたのこと許さないと思います!オレの兄貴ものすごい強いんですって!」
「あ、兄の力を傘に着るだと……?貴様、どこまで堕ちれば気が済むんだ」
「マジですマジです!ほんとソニックさんとかワンパンだから!」
「何だと!?そこまで言われては俺も放っておけないな。まずその兄貴から殺してやろう」

あぁ、なんかごめん兄貴。巻き込んだわこれ。でも兄貴強いし大丈夫だよな。兄ちゃんなんだから可愛い弟の一人や二人守ってくれるよな。